対立 3
言ってしまったあとで、流石にしまったと思った。
大本は無言で僕を見ている。内田さんはも無表情だった。
友田さんだけが不安そうな顔で僕のことを見ている。
「……は?」
大本が明らかに不機嫌そうな表情で僕のことを見る。かといって、言ってしまった手前、僕も発言を撤回することはできなかった。
「言ったとおりだ。ここにいたいなら、内田さんに謝ってほしい」
「……尾張君。別に、私はその人に謝ってもらいたいわけではないのですが」
内田さんは思った通りそういった。ただ、僕の発言には狙いもあった。
ここで、大本が謝らなければ大本はもうここに来ない……無論、大本が僕の言葉を律儀に守るとは思わなかったが、それでも、もしかするといなくなってくれるかも、という可能性にかけたのだ。
「……はいはい。謝ればいいわけね」
しかし、大本の行動は予想外だった。そう言うと、しらじらしく内田さんに頭を下げる。
「どうもすいませんでした。今までイジメててごめんなさい……これでいいでしょ?」
……明らかに反省していないのは見え見えだった。流石に僕も少しムッとしてしまう。
「どう? 謝ってんだから、いてもいいんでしょ?」
「……いいわけないでしょう」
しかし、そういったのは内田さんの方だった。僕は思わず内田さんの方を見てしまう。
見ると、内田さんの表情は……怒りに満ちていた。いつも無表情な内田さんにしては珍しいくらいに。
「なにそれ……じゃあ、土下座でもすればいいっていうわけ?」
「ええ。そうです。土下座してください。この前はしてたじゃないですか」
「あ、あのときは……変態クンに殺されそうになったからで……」
「関係ありません。ここに来たければ、してください。今すぐ」
少し言いよどむ大本に対し、内田さんはぴしゃりとそういった。さすがに僕ももう何も言えなかった。
大本は憎々しげに内田さんを見ている。さすがに今回は土下座はしないだろう……僕はそう思った。
ところが、大本はゆっくりとしゃがむと、そのまま地面に両手をついて、ゆっくりと地面に額をつけた。
「え……お、大本……」
流石に僕は戸惑ってしまった。いや。そもそも、最初に言い出したのは僕なのだけれど……
「……すいませんでした」
大本は怒りに満ちた声でそう言った。内田さんは無表情で土下座している大本を見ている。
「駄目です。一生、アナタのことは許しません」
そして、一欠片の温情も感じさせないような冷たい声で大本に対してそう言った。
大本は立ち上がると、内田さんのことをきつくにらみつける。
「やっぱりアタシ、アンタのこと……大嫌い!」
そう言い放つと、大本はそのまま屋上をあとにしてしまった。
「ええ。私もアナタのこと、大嫌いです」
大本が去っていったあとで、どこか満足気に内田さんはそう言ったのだった。




