闇の発露 4
「あれ? 内田じゃん。なんでここに来てんの?」
大本は嬉しそうな顔でそういう。しかし、内田さんは一切表情を変えることなく、大本のことを見ている。
「今さ、この変態クンと一緒にお話してたんだけど……もしかして、アンタもお話しにきたわけ?」
そういって、僕のことを見る大本。僕は何も言えずにただ、黙っていることしかできなかった。
「……変態クン?」
内田さんが怪訝そうな顔で大本を見る。大本は馬鹿にした様子で僕を見てから、今一度内田さんの方を見る。
「だってさぁ……アイツ、アタシの首を締めたんだよ? 普通そんなプレイしないでしょ? 変態じゃん」
「プレイ? 別に尾張君は、単純にアナタのことを殺そうとしたから、首を絞めただけだと思いますが」
内田さんが淡々とそう言っていると、大本はふいに鋭い目つきで内田さんに顔を近づける。
「……アンタさぁ。なんか、態度デカくない? 教室ではいつも黙ったまんまのくせに。立場わかってんの? アンタなんて、アタシが気分次第で――」
「ここは、教室ではありませんよ」
内田さんは凛とした声でそう言った。大本は少し面食らったようで目を丸くしていた。
「ですから、別にアナタに対して教室と同じような態度をとるつもりはありません」
内田さんのその態度を見て、大本は明らかに動揺していたようだったが、強がるように嘲笑ってみせた。
「……へ、へぇ。言うじゃん。まぁ、せいぜいこの場所ではそんなこと言っていればいいよ。その分、教室では酷い目に遭わせてあげるから」
そう言って、大本はそのまま内田さんの隣を通り抜けようとする。
「帰っちゃいましたよ」
その時、内田さんは大本の方を見ないで、そうつぶやいた。
「……は?」
大本は立ち止まって、内田さんの方を振り返る。
「アナタの取り巻き。アナタのことを置いて、もう帰っちゃってますよ」
内田さんは無表情のままでそう言った。大本は憎々しげに内田さんを見てから、今度こそ、屋上から去っていった。
「……さて、少しは反省してくれたんですかね?」
そして、内田さんは変らず、無表情だったが、明らかに怒った調子で僕の方に顔を向ける。
「あ……その……ホントに、ごめんなさい……」
「……反省してくれているならいいんです。でも、尾張君、また面倒な人に気に入られてしまいましたね」
「え……面倒な人って……大本?」
内田さんは小さく頷く。そして、いつものように物憂げにフェンスの向を見る。
「あの人、あんなこと言ってますけど、私と同類ですよ」
「……え? 同類……?」
「ええ。前に言ったでしょう。あの人がどうなろうが、私に対する状況は変らない……あれ、そのままの意味なんですよ。あの人は確かに、私に対するいじめの中心人物でしたが、その状況も変わりつつあるようです」
「え……そうなんだ……」
「はい。でも、それは、あくまで推測だったんですが、今日で確信に変わりました」
そういって、内田さんはなぜか僕に微笑む。
「だって、あの人、わざわざ尾張君に会いに来たんですよね?」
「え……うん。まぁ、そうだけど……」
「ですよね。だったら、きっと、あの人は私と同類です。だから、きっとまた、確実に、この屋上にやってきます」
そう言ってから内田さんは苦笑いしながら僕のことを見る。
「尾張君、面倒な女の子に好かれやすいタイプなんですかね?」
「え……えぇ……」
あまり嬉しくない言葉を内田さんから聞いた僕は、嫌な予感をしていたのだった。




