闇の発露 3
「……は……はぁ!?」
僕は思わず大声で叫んでしまった。それは僕がその時にできる精一杯の否定の表現だった。
しかし、大本はまるで僕のことを馬鹿にするかのようにキャハハと嘲笑っている。
「だって、そうでしょ? アンタはアタシが泣いて懇願してもアタシを殺そうとした。アンタより圧倒的に非力なアタシを」
「そ、それは……だって……」
「何? 否定出来ないでしょ? 確かにアタシは内田をイジメているよ。内田のイジメの中心にいるって言ってもいい。でも、それでアンタがアタシを殺していいってことにはならないわよね?」
嬉しそうにそういう大本。僕は……否定できなかった。そんな僕を見て、ますます嬉しそうな顔で大本は僕を見ている。
「アタシさぁ……彼氏いるんだけど、ああいうことやってもらえないんだよねぇ~。前の彼氏に頼んだらドン引きされちゃって、フラレちゃったんだ。だから、ああいうことしてもらったのはアンタが初めてってわけ」
「う、うるさい! ぼ、僕は別にお前をよろこばせようとしてあんなことしたんじゃない!」
「じゃあ何? 内田のためにやったってこと?」
まるで僕自身のことを見透かしているかのように、大本はそう言う。言われたときに僕は内田さんのことを思い出す。
とても悲しそうにフェンスの向こうを見ていた内田さんのことを。
「だからさ……ね?」
そういって、大本は僕の両手を掴む。思ったよりも柔らかい感触が僕の手に伝わる。
そのまま大本は僕の両手を自分の首元まで持っていく。
「今度は誰も見てないし……思いっきりヤっていいよ?」
僕の耳元でささやくように、大本はそう言った。僕の中で何かが決壊しそうになる。
だけど……それが決壊させてはいけないものだということはよく理解できていた。
眼の前の女は、悪魔だ。僕を誘惑する悪魔なんだ。
僕は今度こそ思いっきり両手を引っ込めた。大本はその行動を見てつまらなそうに僕を見る。
「……はぁ。萎えるわぁ。せっかくヤらせてあげようと思ったのに」
「僕は……お前とは違う」
そう言うと大本は心底嬉しそうに嗤う。それはまるで今まで見たことのなかったおもちゃを見つけたかのような子供のような笑顔だった。
「うん。違うよ。この学校ので立場はね。でも、人間としての根底はおんなじ」
「違う!」
大本はただヘラヘラと嘲笑っているだけだった。
「……ま。アンタが認めようと認めないと、アタシは内田へのイジメは続けるよ。だって、そうすれば、アンタは、アタシのこと、また殺したくなるでしょ? その時アンタはきっと、アンタの本性を抑えられないだろうね」
大本はそう言って僕のことを見ていた。僕はその時ようやく理解した。
コイツに対して僕がやったことは、全て逆効果だったことを。
大本は……分かっている。学校ので自分の立場が絶対に変わらないことを。絶対に自分は弱者にならないことを。
だからコイツは弱者である僕に……惨めな目に遭わせてもらいたいのだ、と。
「またここに来るから。今度はアタシのこと満足させてね、変態クン」
嬉しそうな調子でそう言って、大本は屋上から去ろうとした……その時だった。
ちょうど、学校から屋上に続く扉が開く。その中から出てきたのは……
「……内田さん」
最悪のタイミングで、内田さんが屋上にやってきたのだった。




