闇の発露 1
結局、その日は内田さんとはほとんど話せなかった。というか、屋上から何も言わずに、内田さんは去っていってしまったのである。
屋上から出ると、友田さんは心配そうに僕のことを見ていた。大本とはすでに別れたらしい。
何かされなかったかと聞いてみたが、友田さんは特に何もされなかったと言っていた。というか、大本はなんだか少し嬉しそうだったという。
嬉しそう……意味がわからないが、考えてみると、僕はとんでもないことをしてしまった。
もし、これで大本による、内田さんへのいじめが激化してしまったら、完全に僕のせいだ。そんなことさえも、考えることができなかったのかと、自分で自分が嫌になってくる。
そんなことを考えていると、僕はとても憂鬱な気分になった。無論、自分のせいであるという自覚はあったが。
とにかく、次の日、僕はそんな憂鬱な気分で、登校することになった。登校してから授業中までは特に何もなかった。
問題は……授業が終わってからだった。
「ちょっと!」
教室に響く声。僕は思わず声のしたほうを見てしまう。見るとそこにいたのはギャルっぽい女の子……
「……大本」
大本だった。大本は明らかに僕の方を見ている。そして、僕が彼女を認識したのを確認すると、教室に乗り込んできた。
そして、まっすぐに僕の机の方にやってくる。
「どうも。尾張亘クン」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべる大本。大方昨日のお礼参り……僕だってそれくらいは覚悟していた。
「お、おい……尾張になにか用か?」
と、友田さんが少し緊張した面持ちで、大本に話しかける。大本は特に表情を変えずに、友田さんを見る。
「別に。ただ、アンタのお友達に少し話があるだけ」
そう言ってから、大本は僕の方に今一度顔を向ける。
「で、尾張クンは、もちろんアタシのお誘いを断るなんてこと、しないわよね?」
ニヤニヤしながらそういう大本。僕は自分がこれからどうなってしまうかわからなかったが、少なくともロクな目に合わないであろうことだけは理解できた。
「……ああ。断らないよ」
そう言って立ち上がる。友田さんが心配そうに僕のことを見ていたのだ。僕は力なく微笑んで見せる。
「へぇ。意外な素直じゃん。じゃ、昨日と同じ場所、いこっか」
まるで獲物を見る捕食者のように嬉しそうな顔をしながら、大本は僕にそう言ったのだった。




