闇との遭遇 4
……内田。確かにそう言った。
いや、確かにまだ名字だから、わからない。少ない名字というわけでもない。
でも……さすがに気になった。
「……ねぇ、内田って……内田志乃のこと?」
土下座しっぱなしの女の子に近寄っていって、僕は尋ねてみる。女の子は顔を上げて驚いた顔をする。
「え……なんで知っているの?」
その時、僕は理解した。
いつも内田さんが悩んでいる元凶、そして、内田さんが死のうとまでしたその原因……それが目の前の惨めに土下座している女の子だということを。
「お、おい……尾張……」
友田さんが心配そうな顔で僕を呼びかける。きっと、友田さんは僕が何かしてしまうであろうことを理解しているのだろう。
僕はギュッと両手を握りしめる。そして、女の子近くに寄っていく。
女の子は不安そうな顔で僕を見ている。
「……君、名前は?」
「え……大本京子……」
「……君、死にたいと思ったことある?」
僕はあくまで笑顔でそういった。大本は目を丸くして僕のことを見ている。
「え……な、ないけど……」
「へぇ。僕は、あるよ」
そう言って、僕はそのまま大本の首を両手で締める。大本は最初目を見開いて驚いていたが、苦しそうに顔を歪める。
「あ……アンタ……くはっ……や、やめ……」
「……お前のせいだ。お前のせいで……」
「がはっ……しんじゃう……し……んじゃ……」
「尾張! やめろ!」
友田さんの声は僕は無視した。僕の頭にはただ……屋上のフェンス越しに悲しそうに遠くを見つめる女の子の姿しかなかった。
大本は本当に苦しそうだった。これは……まじで僕は人を殺してしまうかもしれない。そう思ったときだった。
僕は思いっきり強い衝撃を背中に受けて……そのまま吹っ飛んだ。
「……ここまで馬鹿だとは、思いませんでした」
背中を蹴られた部分を抑えながら僕は振り返る。
「あ……」
僕はさすがに驚いてしまった。
僕の目の前にいたのは、夕日をバックにして涙目で僕を見ている内田志乃だったのだから。




