闇との遭遇 2
先程からギャルっぽい女の子は僕と友田さんのことを見ている。
たぶん、僕と友田さんが何かしらの行動を起こさない限り、ずっと僕たちのことを観察し続けるだろう。
友田さんに関しては完全に何も理解していないようだし……僕がどうにかしなければいけなかった。
「あ……えっと……僕たち、そろそろ帰らないと……」
「……は? 帰る? 何いってんだよ。今、来たばっかりだろ」
強い口調で、女の子は僕に迫る。僕は自分でも情けないくらいにオロオロしてしまった。
友田さんは相変わらず何もわかっていない感じだった。僕は自分が無力だということを思い出した。
そうだ……今までこの屋上は僕と内田さん、そして、友田さんだけのものだった。それ以外の人が誰か来るなんて、考えもしていなかった。
でも、それが今実際に起きている。そして、僕は何もできない。
「……なんだよ。つまんねぇヤツだな」
僕がそんな感じでずっといると、女の子は舌打ちしながらそう言った。
……そうだ。僕はつまらないやつなんだ。自分の立場を思い出した。
僕がこれまでこの屋上で楽しくやってこれたのは、内田さんと友田さんのおかげなんだ……
だからこそ、僕はこの屋上から飛び降りようとして――
「おい」
と、僕がそんな事を考えていると、友田さんの声が聞こえてきた。
「お前、会って間もない尾張につまらないヤツだなんて、失礼じゃないか?」
僕は信じられない気持ちだった。だが、それ以上に、ギャルっぽい女の子は目を丸くして友田さんのことを見ていた。
「……へぇ。アンタのほうが面白いじゃん」
そういって、女の子は友田さんの方に近づいていく。
「けど……その口の利き方も、アタシに対して失礼じゃね?」
女の子がそう言うと友田さんは少し困ったように僕を見た。まぁ……確かに友田さんはいつもこんな感じの喋り方ではあるが……
「……まぁ、いいや。つーか、アンタ達、この屋上に何しに来てんの?」
そういって、女の子は今一度僕の方を鋭い目つきで睨む。
「何って……いや、別になにかするってわけじゃないんだけど……」
俺がそう言うと、女の子は怪訝そうな顔で僕を見る。
「なにそれ。つまんねぇ……あのさぁ、ここはアタシの憩いの場所なわけ。勝手に使ってもらっちゃ困るんだけど」
「なっ……別に、ここは君だけのものじゃないでしょ……そもそも、ここは立入禁止だし……」
自分でも驚くほど、今度はなぜか饒舌に女の子に反論していた。なぜだろう……本能でこの場所を取られる、と感じていたためだろうか。
すると、さすがに女の子は癪に障ったのか、僕の胸ぐらを掴む。
「あのさぁ……あんま舐めた口利いているとヤッちゃうよ?」
と、今度は友田さんがおどおどしていた。まぁ、さすがにいきなり友人が胸ぐらを掴まれたら、動揺してしまうだろう。
「や、やめろ! 尾張を離せ!」
「うるせぇ! テメェは黙ってろ!」
女の子の怒声にすっかり友田さんは怯えてしまっていた。しかし、逆に僕はなぜかどんどん冷静になっていった。
……なんで先程まで僕は目の前の女の子のことを怖がっていたのだろう。そもそも、僕はこの屋上から飛び降りようとしていたんだ。
あのときの僕は……少なくとも内田さんと始めて出会ったときの僕は、怖いものなんて何もなかった。
それは今も変わっていない……いや、少なくとも、この場所では変わらないはずなのだ。
「おい! 聞いてんのかよ!?」
女の子は怒鳴る。しかし、僕は何も返事をしなかった。
「チッ……ふざけてんじゃねぇぞ!」
そう言って、女の子は思いっきり僕の足を蹴った。痛い。確かに痛かった。でも、こんな痛みは……この屋上ではすでに体験したことだ。
「いいか! 二度とこの場所に来るんじゃ――」
女の子が僕に向かってそう怒鳴っている最中だった。
僕は……女の子に蹴られた足で、同じように、女の子の足を思いっきり蹴ったのだった。




