闇との遭遇 1
「……おい。尾張、大丈夫か?」
と、ぼんやりとしていると、声が聞こえてきた。僕は我に返る。
「あ……ああ。ごめん。友田さん」
屋上に向かう最中、いつのまにかぼんやりとしてしまっていた。これから、きっと内田さんと会うことになるのだろうけど……どんな顔をして会えばいいのかわからなかった。
この前、内田さんの家で聞いたこと……内田さんは本当に僕と死のうとしているのだろうか。
それが彼女の願いなのか……僕の頭の中に未だに残っていた。そして、あの悲しそうな内田さんの表情も。
「なんか悩み事か? 私で良ければ聞いてやるぞ」
心配そうにそう言う友田さん。僕は苦笑いしながら首を横にふる。
さすがに……友田さんには言えない。友田さんはきっと心配するだろうし、そもそも、内田さんは絶対にそのことを勝手に言ってほしくないはずだ。
というか、流石に勝手に僕もべらべら喋る程、無神経ではない。
「そうか? でも……ホントに、困っていたら何か言うんだぞ?」
きっと、友田さんは僕のことを本気で心配してくれているのだろう。友田さんの性格からしてそうだ。なんだか、逆に悪い気がするが……仕方ない。
そして、僕と友田さんはいつものように屋上にたどり着いた。扉を開けると、その先には……
「……あれ?」
内田さんは……いなかった。しかし、代わりに誰か……見たことのない人影が屋上に座り込んでいる。
「……誰だ?」
友田さんが不審そうな表情で近づいていく。
「あ……友田さん、行かない方が――」
「おい! そこで何をしている!?」
既に時遅し。友田さんはいつもの調子で人影に向かって声をかけた。
と、人影はこちらに振り返る。見ると……明らかに僕が苦手なタイプだった。
鋭い目つきに、短い髪は茶色……耳にはピアスもついている。いつも僕のことをいじめている男子達の彼女……みたいなタイプに見える、ギャルっぽい人物だった。
その人物はこちらに近づいてくると、鋭い視線で僕と友田さんを見る。
「何? アンタ、誰?」
「誰、ではない。私は友田知奈だ。こっちは尾張亘」
わざわざ名乗らなくてもいいと思ったが……友田さんは止まらなかった。
ギャルっぽい女子は、鋭い目つきで相変わらず僕と友田さんを見ている。
「アンタ達、ここに何しに来てんの?」
「え……いや、何しに、って……?」
急に困惑して、友田さんは僕の方を見てくる。僕も困って友田さんを見返すことしかできなかった。
すると、急に女子生徒はニンマリと微笑んだ。
「あぁ。なるほどね。ヤりに来てるってこと」
「へ? ヤり……なんだって?」
友田さんが困惑していると、女子生徒はニヤニヤしながら僕と友田さんを見る。
「ああ、いいって、とぼけないで。いいよ、勝手にヤッてて。アタシ、見てるから」
そういって、いつのまにか女子生徒は扉を思いっきり閉めた。思わず僕も友田さんも驚いてしまう。
思わず僕も友田さんも顔を見合わせてしまう。
「ほら。早くしなよ」
先程よりも口調が強くなっていた。そして、表情も険しくなっている。
僕はこの感覚を知っている。このいたたまれない感覚を。
「……ヤルって何をするんだ? 分かるか、尾張」
分かっていないのは、友田さんだけ……最悪な状況に追い込まれてしまったのだった。




