お互いに 3
「え……ほんとに大丈夫なの? 内田さん」
既に僕も内田さんも、屋上から降りて、学校の外にいた。本当に僕は内田さんの家に行く流れになってしまっているらしい。内田さんは僕の少し先を歩いている。
「ええ。大丈夫です。今日は親も遅いので」
「いや、それも気になるんだけど……もっと根本的に……」
僕がそう言うと内田さんは僕の方に振り返る。
「嫌なんですか? 私の家に来るのが」
「あ……いや、そういうわけじゃ……ないんだけど……」
内田さんは怪訝そうな顔で僕を見る。ここで断ってしまうのも逆に内田さんに悪い……のだろうか?
まぁ……本人が来ていいと言っているのだから、その通りにしてしまってもいいのかもしれない……僕はそう思うことにして、それ以上は何も言わないことにした。
考えてみれば内田さんがどこに住んでいるかなんて知らなかった。それからしばらく僕と内田さんは黙ったままでしばらく歩いていた。
「そういえば、あの人の家には行ったこと、あるんですか?」
不意に、内田さんが僕にそんなことを聞いてきた。
「あの人? え……誰のこと?」
「尾張君が私以外に依存している人のことです」
「あ……友田さんか。いや、行ったことないけど……なんで?」
すると、とても満足そうな顔で内田さんは僕のことを見る。
「なるほど。では、私の方が先に尾張君を家に招いた、ということですね」
「え……まぁ、そうなるのかな?」
と、僕がそう言うと、なぜか内田さんは今度は少し不満げな表情になった。
「それに対して何か感想などはないのですか?」
「感想? え、まぁ……いや、ほんとに行っていいのかなぁ、って……」
「いえ。そういうことではなく……というか、尾張君。女の子の家に行ったことって今までありますか?」
と、内田さんにそう聞かれて僕は思い返す。言われてみると……小学生の頃はあったような気がするが、それほど仲の良くない女の子の誕生日とかだった気がするし……
「……そうだね。誘われて行くってことは、今までなかったかなぁ」
僕がそう言うと、内田さんはなぜか僕から顔を反らし、急に黙ってしまった。何か気に障ることでも言ってしまっただろうか……。
それから数分程内田さんの後について歩いていくと……大きなマンションが見えてきた。
「ここです」
そう言って内田さんが指差すのは、マンションの最上階だった。
「あそこが私の家です」
マンションの最上階……なんとなくだが、内田さんの住まいとしては最適な場所だと思った。
「では、行きましょう」
そう言って、内田さんは進んでいくが……ここまで来て僕は今一度考えてみる。
……これって、よく考えると……いや、よく考えなくても、結構、貴重なイベントなんじゃないだろうか、と。
「どうしましたか? 早く来てください」
そんな事を考えながらも、僕は言われるがままに内田さんの住むマンションの中へと入っていったのだった。




