お互いに 1
その日、僕は一人、屋上にいた。
その日は、酷く落ち込んでいた。というのも、その日は……とてつもなく、痛めつけられたのだ。
そもそも論として、僕はいじめられている。そして、屋上に来たのも日常が厳しくて生きていられないからだ。
それが、内田さんや友田さんとの出会いで、ずいぶんと本筋から離れてしまった。しかし、今日はそれを思い出させてくれるくらいに、手ひどくいじめられた。
しかも、今日は友田さんが家の都合とかで来ていなかった。というか、もしかして、友田さんが近くにいなかったから、僕はいじめられたのだろうか。
そうなると、友田さんがいつも近くにいるから僕はいじめられない……ということなのだろうか?
とにかく今日はいじめられた。物を隠されたり、教科書をゴミ箱に捨てられたり、カツアゲされたり……という感じだった。
おまけに帰ろうとしたら、靴が片方ない。これでは帰れないではないか。
僕は大きくため息を付いて、フェンスの向こうを見る。そういえば……内田さんも少し前、かなり落ち込んでいたような気がする。
僕はふと、扉の方を見る。そろそろ内田さんが来る時間だと思ったからだ。
と、扉が開いた。そして、実際に内田さんが屋上に姿を表した。
内田さんは僕を確認すると、こちらに近寄ってくる。そして、じっと僕のことを見ている。
「え……どうしたの?」
僕が聞くと、内田さんはなぜか嬉しそうに微笑んだ。
「今日は、悲しそうですね」
……さすがは同じ境遇同士。全てお見通しというわけらしい。
「……まぁ、ね」
「そうですか、そうですか……で、何があったんです?」
「……別に。ただ、今日はいつもよりちょっと手酷くいじめられちゃってね……まぁ、あれかな。友田さんがいなかったからかな?」
僕は曖昧に微笑みながらそう言った。すると、内田さんはなぜか真顔で僕のことを見ている。
その目は完全に僕に対して怒っている感じだった。なぜ、怒っているのかは僕は理解できなかったが。
「……馬鹿みたい」
と、内田さんは吐き捨てるようにそう言った。
「え……何が?」
「……言いましたよね、尾張君。私は君に依存する、と」
「そうだけど……それがどうかした?」
「どうかした? ハッ! 君は今自分がなんと言ったか分かっていないんですか?」
内田さんは完全に怒っているようだった。僕は流石に彼女の怒りの原因がわからなくて困惑してしまう。
「え……僕? 今……いや、今日はちょっとひどい目にあった、って……」
「そこじゃありません! 君は、私との話で、誰の名前を出しましたか?」
「誰って……あ。友田さん……」
僕がようやくそれに気づくと、内田さんは大きくため息を付いた。
「……今のでよくわかりました。結局、君も上辺だけなんですね」
「え? な、何が?」
「君が私に対して依存していいと言ったのは上辺だけだった、ということです。だって、私は君に依存しようとしているのに、君が依存しているのは……友田さんじゃないですか」
……言われて僕はハッとしてしまった。そうか。僕は気づかないうちに、友田さんに依存していたのか。
いや……確かにその通りだ。反論とかすることもできず、僕は納得してしまった。
「……そうだね。確かに」
「認めるんですか……ホント……馬鹿みたい……」
内田さんは酷く落ち込んでいるようだった。僕は流石に困ってしまった。
「え……その……なんか、ごめん……」
「……謝らないでくださいよ。余計、馬鹿みたい……」
「いや、だって……その……僕も言われて気づいたと言うか……ホント、ごめん……」
すると、内田さんは顔をこちらに向けてくる。どちらかというと、悪い目つきで僕のことを鋭く凝視してくる。
「……ホントに、無意識だったんですか?」
「あ……そうだね。今、気づいたし……」
「だったら、許してあげます。ただ、条件があります」
「……条件?」
すると、内田さんは先程までの悲しそうな表情が嘘のように変化し、嬉しそうに微笑む。
「これからは、私に依存してください」




