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嫌悪 4

 暫くの間、僕も友田さんも呆然としてしまった。


 内田さんは今……明らかに学校の先生相手に脅迫していた。しかも、怒りをむき出しにして。


「ちょっと、不味かったですかね」


 しばらくしてから、内田さんが僕と友田さんの方を見てそう言った。しかし、その評定はどちらかというとすっきりした感じのものだった。


 僕と友田さんは思わず顔を見合わせてしまう。


「……まぁ、驚いたね」


 僕がそう言うと内田さんは嬉しそうに微笑む。さすがに内田さんがあんなことを、自分の担任の先生に言うなんて想像もできなかったからだ。


「まぁ……別にいいですけどね」


 そういって、内田さんはいつものようにフェンスの方に近づいていく。そして、これまたいつものように、フェンスの向こうを眺めている。


 僕はそんな内田さんの方に近づいていく。なんとなく近寄りがたい感じだったが、かといって、そのまま放っておくことも出来なかった。


「……あんまり好きじゃないんですよ。あの人」


 振り返らずに内田さんはそう言った。僕はしばらく黙ったままで内田さんに話しかける。


「あの人って……矢那先生のこと?」


 僕がそう言うと内田さんは振り返った。そして、小さく頷く。


「別に、何もしてくれないから、って理由じゃないですよ。ただ……なんというか……私自身と似ているなって感じがして」


「え? 似ている?」


「はい。似てませんか?」


 そう言われて僕は思い出す。確かに髪型なんかは似ているかもしれないけど……それ以外に共通点は思い出せない。


 僕がイマイチ共感できなていないことがわかったのか、内田さんはフッと優しく微笑んだ。


「まぁ……これは、私にしかわからないことだと思いますので。すいません。変なことを言って」


「あ、うん……あ。そういえば……呼び出しは、どうだった?」


 僕がそう言うと内田さんはつまらなそうな表情で僕を見る。


「ああ……別に大したことはないですよ。ただの確認作業です。私は大丈夫です、問題ありません、って……尾張君も経験あるでしょう?」


 そう言われると、僕も言い返せなかった。誰かに大丈夫か、とか、平気か、と聞かれれば肯定以外の返事をすることはできない。


「そもそも……わかっているんですよ。誰にも、私の今の状況をどうにかすることなんてできない。それは、尾張君にも。そうですよね?」


「……まぁ、そうだね」


「だから……別にいいんですよ。ただの私の個人的な感情なんですから」


 そう言って、寂しそうな表情でフェンスの向こうを見る内田さん。僕はそんな表情を見ていると……内田さんはとても繊細で脆い存在のように思えてならない。


 かといって、それがわかるからと言って、僕になにかできるというわけではないのだが。


「……すいませんね。今日はなんだか気分が乗らないです。また、来週にしましょう」


 そういって、内田さんは僕の隣を過ぎ去っていく。


「……内田さん」


 扉を開けようとする内田さんに僕は思わず声をかける。


「はい?」


「あ……また、来週」


 僕がそう言うと内田さんは優しく微笑んで、扉を開けて行ってしまった。


 そして、しばらくしてから、友田さんが不安そうな顔で僕の方に近寄ってきた。


「……なぁ、尾張。アイツ……大丈夫なんだよな?」


 友田さんはとても心配そうな顔だった。おそらく、本心から内田さんのことを心配しているのだろう。


 だけど……その質問に対する答えは一つしかない。


「……うん。大丈夫だよ」


 僕がそう言うと友田さんは浮かない顔ながらも、少し安心したようだった。


 そうだ。誰かにそう聞かれたら、相手を安心させる答えを言うしかないのだから……。

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