顕示 6
そして、結局その後は家に帰った。
家には相変わらず誰もいなかった。それはどうでもいいのだが……少し気になることがあった。
それは、友田さんのことである。あんな形で別れてしまったし、何より、なんだか様子がおかしかった。
僕に対して誤解……はしていない。というか、きっと僕のことを軽蔑しているはずである。
「……一応、連絡しておいたほうがいいのかな」
僕はそう言いながらも、少し困ってしまった。
連絡をするといっても、どんな感じで連絡をすればいいというのだろうか。弁解するにしても、僕が内田さんから送られてきた写真を見ていたという事実は変わらない……
思わずため息を付いてしまう。もしかすると、明日からはもう友田さんは僕と会話してくれないかもしれない。
そう考えると急に不安になってしまった。すでにそれまで日常の一環だったものが急になくなったしまう……そう考えると、喪失感が僕の中で急に大きくなったのである。
と、僕がそんなことを考えていた……そんな時だった。
携帯の着信音が鳴った。僕はふと携帯の画面を見る。
「あ……友田さんだ」
携帯にはなんと友田さんからの電話がかかってきていた。少し迷ってしまったが、ここで出ないのも逆に不味いと思い、僕は携帯を耳に当てる。
「……もしもし?」
「あ……尾張か?」
電話の向こうから友田さんの声が聞こえてきた。心なしか少しいつもより小さな声だった。
「あ……うん。友田さん、その……今日はごめんね」
「え? なんで謝っているんだ?」
と、謝罪に対して予想外の返事が返ってきたので、思わず僕は驚いてしまう。
「いや、だって……内田さんのこと……その……僕のこと、軽蔑したでしょ?」
「軽蔑? なぜ?」
「え……別に……してない?」
僕がそう言うと友田さんはしばらく黙ったままだった。そして、しばらく経ってから友田さんは少し緊張した感じで言葉を続ける。
「その……尾張はああいう写真が好きなのか?」
「……え?」
「だから……ああいう写真を送ってほしいのか、って聞いているんだ」
恥ずかしそうな声で友田さんはそう言う。僕は返答に困ってしまった。
ああいう写真……自撮り写真のことだろうけど、それが好きかって聞かれると……いや、家といって僕も嫌いというわけではないし……
「……まぁ、普通かな?」
「え? 普通? それは……送られるのは嫌ではない、ということか?」
問いただすような調子でそう聞いてくる友田さん。
「え……あ、まぁ、そうかな」
思わず僕もその勢いに負けて肯定してしまった。それから、しばらく友田さんは黙ったままだった。
「えっと……友田さん?」
「……わかった」
それだけ言うと、友田さんは電話を切ってしまった。いきなりのことに僕は意味がわからず、ただ、呆然とするだけだった。
と、すぐにまた携帯の着信音がなった。今度はメッセージアプリに着信……しかも、画像ファイルのようだった。
僕は嫌な予感がしながらも、メッセージを確認してみる。
「えっ」
思わず声が出てしまった。
画像は……なんと、水着姿の友田さんだった。青いビキニタイプの水着を着て、友田さんが自分を撮影している画像。
「……なんで、水着?」
と、僕が混乱していると、またしても携帯に着信。今度は電話だった。相手は無論、友田さんである。
「はい?」
「あ……どうだ?」
「え……どうって?」
「だ、だから! 写真だ! 送っただろう!」
友田さんは恥ずかしそうにそう言う。僕は未だに整理出来ていない頭のままで対応する。
「えっと……良かった」
「え……良かった?」
「うん。良かった」
すると、友田さんさんは少し黙った後でなぜか急に笑いだした。
「え……何?」
「あ……いや、実は……今も水着を着ているんだ。部屋の中で水着を着ながら電話しているのが……なんだかおかしくなってしまって……フフフ……」
笑っている友田さんの声を聞いていると、何故か僕も笑ってしまった。しばらく二人は電話を介してお互いに笑い続けた。
「……はぁ。まぁ、気に入ってくれたなら良かった。もっと送ったほうがいいか?」
「え? あ、いや……いいよ。それは……」
友田さんの提案に、なぜか僕は反射的に拒否してしまった。
「そうか? まぁ、尾張がそういうのならそれでいいが……」
「うん。でも……ありがとう」
「え……あ、ああ。いや、こちらこそ、ありがとう。では、またな」
そういって、今度こそ電話は切れた。僕は今一度友田さんが送ってきた画像を見る。
知り合いの女の子の水着姿……しかも、ビキニタイプの水着姿の画像なんて始めて見た。
それに友田さんも内田さんに負けず、結構、着痩せするタイプだった。
とりあえず、僕はその画像を保存し、今度こういう画像を送ってこられても、きちんとやめてもらうように言おうと誓ったのだった。




