顕示 5
瞬間、友田さんの表情が固まった。無論、僕の動きも停止した。
内田さんが得意げな顔で携帯の画面を友田さんに見せつけていた。
そして……それから、どれくらいの時間が経っただろうか。最初に動いたのは……友田さんだった。
「……尾張。その……これ、ホントに内田は……お前に送ってきたのか?」
友田さんは無表情のままに僕のことを見る。僕は返事に困ったが……ただ、小さく頷いた。
友田さんはしばらく僕のことを見ていたが……悲しそうに俯いた。
「そうか……」
それだけ言うと、友田さんはなぜか僕に背を向けて歩き始めた。
「え……ちょっと! 友田さん!」
僕が呼び止めても、友田さんは歩みを止めなかった。そして、僕自身も彼女を追うことはできなかった。
「……どうしたんですかね。あの人」
不思議そうに言うのは……内田さんだった。まるで自分のしたことを後悔している感じはないようである。
「内田さん……なんで……」
僕は思わずそう言ってしまった。言った後で、内田さんが寂しそうな目で僕のことを見ているのに気づく。
「……駄目でしたか?」
その視線は、僕に否定の返事を許さない、圧があった。実際、その目で見られると僕も否定することができなかった。
それに……実際、送られてきた画像を見ていたことは事実だし、友田さんに何か弁解をするってことも、僕には考えられなかった。
「……いや、別に。ただ、驚いただけだよ」
僕がそう言うと内田さんは安心したようで小さく息を吐き出した。
「ですよね……だって、尾張君。言いましたもんね。依存させてくれるって」
「まぁ、言ったけど……一つ聞きたいんだけど、僕に自撮り写真を送ってくるのは、内田さんの中では僕への依存なの?」
僕がそう言うと、内田さんは少し考えるように口元に人差し指を当てた後で、小さく頷いた。
「ええ。そうですね。依存に入ります」
「へぇ。じゃあさ……もし、僕があれ以上の写真を欲しいって言ったらどうなるの?」
僕がそう言うと内田さんは目を丸くしてから、少し顔を紅潮させる。
「え……欲しいのですか?」
そして、ためらいがちに、聞き取れるギリギリの声でそういう内田さん。
「そりゃあね。僕だって男子だし。それに、内田さんが言っていたそういうことをする時に、内田さんの写真を使うかもしれないし」
「……変態」
小さくつぶやくように内田さんはそう言った。僕は否定はしなかった。
……といっても、最初に自撮り画像を送ってきたのは内田さんなわけだし、変態なのはどっちなのだ、という話だが。
「まぁ、変態で結構なんだけど……で、送ってくれるの?」
僕がそう言うと内田さんは不貞腐れたような表情のままにそのまま歩きだしてしまった。そして、少し僕の先を行った後で、急に振り返る。
「……場合によっては、送ってあげてもいいですよ」
それだけ言い残すと、内田さんはそのまま行ってしまった。
「……送ってくれる可能性、あるんだ」
僕は一人でそんなことをつぶやきながら、一人残されたあとで、帰宅することにしたのだった。




