激情 3
僕はそれからしばらく内田さんの首を締め上げ続けている。
内田さんの首筋は、白くて細くて綺麗だ。でも、まるで死体であるかのように、驚くほど冷たかった。
内田さんは顔色一つ変えずに僕のことを見ている。というか、僕の方がだんだんと不安になってきた。
このままでは、本当に内田さんを殺してしまう。そう考えるとようやく僕の中に恐怖が芽生えてきた。
「……怖くないの?」
僕は思わず聞いてしまった。すると、内田さんは僕の方を見たままで、笑った。
自分が死の際にいるというのに、笑ったのだ。
その表情を見て、僕も思わず笑ってしまった。
それから首を締める手に更に力を強める。僕は確信した。
間違いなく、僕は内田さんを殺すのだ、と。
そして、内田さんも自らの死を望んでいるのだと。
僕は最後に思いっきり力を込めて内田さんの首を締める。内田さんの顔が赤くなっていくが、表情は笑っている。
これでいい……これでいいと、僕は理解した。
「何やってんだ!?」
その時だった。背後から聞こえてきた声に思わず僕は振り返る。
その先には、委員長が青い顔で僕と内田さんを見ていた。
「尾張……お前……な、なにやっているんだよ!?」
委員長はこちらに走ってやってきた。僕は思わず内田さんの首を締めている力を弱めてしまい、そのまま手を離してしまった。
「なぁ! お前、今何やっていたんだよ!」
委員長は僕の方に来て、僕の肩を掴んで怒鳴っている。
僕はただ、その様子を呆然と見ていた。
なんで? なんで委員長は怒っているんだ? 僕が今、なにか悪いことをしていただろうか?
「ゲホッ……ゲホッ……また、アナタですか……」
と、咳き込みながら内田さんが起き上がる。そして、恨めしそうに、委員長のことを睨んでいる。
「お前も……尾張に何させているんだ!」
委員長の怒りは収まらないらしく、すごい剣幕だ。それでも、なんで委員長が怒っているのか僕にはわからなかった。
ただ、僕は委員長に対してものすごく申し訳ないことをした……それだけはなんとなく理解できた。
「……何って、私が死ぬための手伝いをしてもらっていたんです。アナタは、それを邪魔したんですよ」
「死ぬための手伝いって……お前は馬鹿か!」
委員長はそう言って内田さんに向かって怒鳴った。内田さんは嫌そうな顔で委員長を見ている。
「馬鹿……アナタには言われたくないですね」
「馬鹿だよ! 死ぬなら勝手に一人で死ね! 尾張を巻き込むな!」
内田さんはそう言われるとそれ以上は何も言わなくなってしまった。
それから委員長は僕の方を見る。その目はとても心配そうで、温かい目つきだった。
少なくとも、僕がしばらく向けられたことのない優しい視線だった。
「尾張も……なんであんなことしたんだ……」
そう言われると、僕は何も言えなかった。僕は内田さんを助けたかった。
でも、それは……死ぬことを手伝うことが、内田さん助けることだったのだろうか。
内田さんは確かに笑っていたが、本当に死にたかったのだろうか。
「……ごめん。委員長」
自然と僕の口から出てきた言葉は、それだった。委員長の目から涙が溢れたかと思うと、委員長はなぜか僕のことを抱きしめてきた。
温かさ、そして、柔らかさ……何より、優しさが僕に伝わってきた。
その時、僕は思い出した。
人間が温かいものだったということを。




