激情 2
暫くの間僕と内田さんは黙ったままお互いを見ていた。内田さんは本当に全身びしょ濡れで、髪の先まで濡れているのがわかった。
それこそ、流石に心配になってくるくらいびしょ濡れなので、今更ながら委員長が心配になってしまったのも仕方ないなと僕は思った。
「無意味ですよね」
と、先に口を開いたのは内田さんだった。
「……無意味?」
そう言ってから内田さんは僕に背を向ける。
「こんな場所に来て、何もせずにいるなんて、無意味だって言っているんです」
「……そんなの最初から分かりきっていることじゃない?」
そう言うと、内田さんはこちらを向く。死んだ魚のような生気のない瞳でこちらを見てくる。
「最初は……死ぬためにここに来たんですよ。私は」
「ああ。知っているよ。僕だってそうだった」
「なのに……なんで私達未だに生きているんです?」
内田さんは少し泣き出しそうに顔を歪めながらそう言う。僕はただその表情を見つめていた。
「また、死にたくなったの?」
「……違います。私はずっと死のうとしています」
「本当に?」
と、その瞬間、今まで泣きそうだった内田さんは、いきなり僕との距離を詰めてきたかと思うと、そのまま僕の首を両手で掴む。
「アナタのせいでしょうが!」
内田さんの両手は……信じられないほど力がこもっている。というか、普通に僕を殺そうとしている。それは冗談ではない。本気の力だった。
「アナタがいるから! アナタが……私の邪魔をしているんでしょう!」
しかし、殺されそうとしているっていうのに僕は意外に落ち着いていた。実際、死んでしまうという危機感はあったが、恐怖はなかった。
だって、それはそうだ。僕は死ぬために屋上にきたんだ。だったら、ここで死ぬことに恐怖こそ感じても、躊躇するのは間違っている。
しかも、僕を殺そうとしているのは内田さんだ。僕が死ぬためにここにやってきた時に出会った少女……そう考えると運命的だ。
そんな事を考えていたが……徐々に内田さんの手の力は弱まってしまった。
「う……うぅ……」
そのまま内田さんは僕の前で膝から崩れ落ちた。そして、地面に座り込んで泣き出してしまった。
「僕のこと、殺さないの?」
僕がそう言っても内田さんは泣いているだけである。
何故? 何故内田さんは泣いている? いや、そんなの理由はわかっている。
でも、ここで泣くのは違う。この屋上は……僕が、僕達が自分をさらけ出せる所のはずなんだ。安心できる場所のはずだ。
だったら、内田さんを安心させてあげるべきだ。内田さんの本当の気持ちを知るべきなんだ。
「内田さん」
内田さんは何も言わずに泣き続けている。泣いているだけじゃわからない。だったら、無理矢理にでも気持ちを知るべきだ。
僕は内田さんの肩を思いっきり押す。内田さんはその場に仰向けに倒れ込んだ。
そして、僕はそのまま馬乗りになって、内田さんの首に手をかけ、力いっぱいそれを強く締め上げた。




