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逃避と依存と変態性  作者: 松戸京
無意味
27/70

激情 1

 そして、いつものようにその週の金曜日も、僕は委員長と一緒に屋上を目指していた。


「な、なぁ、尾張」


 と、屋上へと登る階段を登っていく途中で委員長が僕の背後から話しかけてきた。


「ん? どうしたの、委員長」


「その……今日は、帰らないか?」


 委員長は少し苦笑いしながらそう言った。予想外の発言に僕は戸惑う。


「え……なんで?」


 当然の疑問を委員長に返す。


「あ……いや、その……毎週、屋上に行っているけど……やっぱり屋上は立ち入り禁止だし……良くないことだと思うんだ」


 歯切れ悪く委員長は僕にそう言う。今更そんなことを言われても、という感じだったし、そもそも、それがわかっていたら、最初から屋上には行っていない。


「……委員長は屋上に行くのが嫌なの?」


「え? あ、いや……そういうわけじゃ……ないんだが」


「だったら、委員長は帰っていいよ。僕は行くから」


 屋上にはきっと内田さんが待っている……行かない訳にはいかない。


「あ……わ、わかった。行く」


 委員長も結局、僕に付いてきた。どうして今少し委員長は渋ったのだろうか……よくわからないが、あまり気にすることではないと思って、考えないことにした。


 そして、屋上につながる扉を開く。その先の屋上には……やはり、人影があった。


 その後姿で内田さんということはわかったが……どうにも、様子がおかしい。


 フェンス越しにずっと空の向こうを眺めている。


「内田さん?」


 こちらから呼びかけても、内田さんの反応はない。僕はそのまま内田さんに近づいていくことにした。


 と、近づいていくうちに、内田さんの身体……というよりも、全身がびしょびしょだということに気づいた。


「……内田さん?」


 僕が今一度呼びかけると、内田さんは振り返る。その額にも濡れた髪の毛が張り付いてしまっている。


「……ああ。来ましたか」


「お、おい……お前、大丈夫か?」


 と、委員長が内田さんの様子を見てそう言った。おそらく、委員長としては反射的に内田さんのことを心配してしまったのだろう。


 でも、それは……内田さんにとっては、とても嫌なことだった。僕にはわかる。惨めな自身を全然関係のない他人から哀れんでもらうのは……とても恥ずかしいことなのだ。


「……アナタに、関係ないでしょう」


 内田さんは鋭い瞳で委員長を見る。委員長は驚きの表情で内田さんを見る。


「え……いや、でも、そんなビショビショで……なにかあったのか?」


 内田さんは黙ったままだった。


「委員長。黙って」


「え……でも……」


「黙って」


 僕が今一度そう言うと、委員長は黙った。しかし、なぜか不満そうに僕のことを睨んでいる。


 それから、委員長は何も言わずに扉の方に歩き出した。そして、そのまま扉を開け、屋上から出ていってしまった。


 残されたのは僕と、相変わらずびしょ濡れの内田さんだった。

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