他傷 4
「……は?」
内田さんはキョトンとした顔で僕を見ている。僕も、言ってしまってから、自分がとんでもないことを言ってしまったことを理解した。
「あ……えっと……駄目?」
しかし、発言を取り消すつもりはなかった。本当に血が流れている内田さんの指先は美しかったし、舐めてみたいと思ってしまった。
「……ホントに……本気で……言っているんですか?」
内田さんは信じられないという顔で僕のことを見る。僕はもちろんだというつもりで大きく頷いた。
内田さんは少し恥ずかしかったのか、僕から顔をそらした。それから、不機嫌そうに僕のことを睨む。
「……君は……ホントに……変態ですね」
「え? 変態? ……そうかなぁ?」
「……自覚がないのが何より恐ろしいです。わかりました。はっきりいいましょう。それは……嫌です」
内田さんはきっぱりとそう言った。もちろん、拒否されるとは思っていたが、少し残念だった。
「そっか……駄目か……」
「ええ……むしろ、なんで私が許可すると思っていたのかわかりませんが……」
「え? だって、それって死ぬほど恥ずかしいでしょ? そんなことされたら、死にたくなっちゃうくらい」
僕がそう言うと、内田さんは確かにそうだという感じで小さく頷いた。そして、もう一度自分の傷ついた指先を見る。
すると、なぜか内田さん自分の指先をそのまま口の中に持っていって、それを軽く舐めた。
僕は思わずその行動に呆然としてしまったが、内田さんは舐めた指先を僕に見せつけるように目の前に差し出す。
「……これでも、舐めますか?」
内田さんは少し緊張した面持ちで僕にそう問いかける。えっと……これって、もしこの指先を舐めたら……いわゆる、間接キスになっちゃうんじゃないだろうか?
そう考えると、にわかに僕の方も恥ずかしくなってきてしまった。
なにせ、僕は女の子とキスなんてしたことない。それが、間接キスであってもだ。
そのはじめての経験が……女の子の指を通して行われるとなるとさすがの僕出会っても恥ずかしい。
僕は思わずゴクリとツバを飲み込んだ。それから内田さんの指先の方に自分の口を持っていく。
「え……ほ……ホントに!? ホントにやるんですか!?」
内田さんは指先を引っ込めようとした。しかし、すかさず僕は指先を掴んで……そのまま自分の口の中に突っ込んだ。
そして、ペロリと、内田さんの指先を舐めた。
なんというか……血の味と……なんとなくしょっぱいような、それでいてなめらかな感触がして悪い気分ではなかった。
内田さんの方を見てみると、赤面しながら僕のことを見ている。指先には力が入っていない感じだったので、僕はそのまま指先を舐め回した。
「あ……や、やめて下さい!」
我に返った内田さんは僕の口から指を引き抜いた。そして、顔を真っ赤にしたままで僕を睨む。
「……死んで下さい! こ……この変態!」
そういって、内田さんは僕のことを罵倒する。僕は曖昧に微笑むしかできなかった。
しかし……内田さんは僕が舐めた指先をじっと見つめている。そうかと思うと、いきなり内田さんはその指先を自分の口の中に含んだ。
「んっ……ふぅ……」
そして、なぜか、恍惚とした表情のままで、しばらく指先を舐め回した後で……今一度僕の方に見せつけつけるように指先を見せてきた。
「……これで綺麗になりましたね」
そういう内田さんの表情はとても艶かしくて、色っぽかった。同時に僕の方も、とてもつもなく恥ずかしい気分になったのだった。




