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他傷 3

「……ホントに、いいの?」


 手渡されたカッターを見てから、俺は今一度内田さんに確認をした。


「ええ。大丈夫ですよ」


 内田さんは平然とした様子でそう言う。わかっていたこととは言え、流石に僕も少し躊躇してしまう。


「お、おい! 何バカなことを言っているんだ! お前……危ないだろ! そんなことしたら……」


 そして、案の定、委員長がそう言ってきた。委員長の其の言葉を聞いて、内田さんはわざとらしく大きくため息をつく。


「……すいません。アナタの意見は求めていないのですが」


「なっ……! お前……!」


 委員長が苛立ち気味に内田さんに詰め寄った。俺は慌てて委員長の方を見る。


「委員長……邪魔しないで、って言ったよね?」


 俺がそう言うと委員長は信じられないという顔で俺を見る。


「お前……ホントに切るつもりなのか!? 分かっているのか、自分がやろうとしていること!?」


 ありえないという顔で委員長が俺を見る。実際、僕自身も、今自分がやろうとしていることがどれだけやばいことなのか……あまり理解できていなかった。


 それでも……僕はやらなければならないという使命感のようなものがあった。むしろ、内田さんの要求に従わないことの方が失礼な気がする。


 僕は委員長のことは無視して、内田さんの方に今一度向き直る。


「……内田さん。手を貸して」


 僕がそう言うと、委員長は一緒目を丸くしていたが、すぐに右手を差し出してきた。


 綺麗な白い手だ。まるで真っ白なキャンパスのような……そんな純白さだった。


「……指でいいかな?」


「え?」


 僕は内田さんの方を見る。内田さんはまたしても少し驚いていたが、すぐに小さく頷いた。白い人差し指を僕は選択すると、その指先にカッターの刃を押し当てる。


 今から僕は目の前の綺麗な白い指を傷付けようとしている……そう考えると何故か僕はものすごく興奮してきてしまった。


「お、おい……尾張……」


 委員長の心配そうな声が聞こえてくるが……無視した。正直、委員長が静止しようとしても、僕はそれを振り切ってでも内田さんを傷つけるだろう。


 僕は内田さんの指をつかんだままで、カッターの刃を押し当て……ほんの少しだけ力を入れてそれを動かした。


「痛っ……」


 内田さんが少し顔を歪めると同時に指先から微かに紅い血液が流れ出す。


 赤い……血だ。僕はそれを見て、自分が内田さんのことを傷つけたことをようやく理解した。


「あ……ごめん。痛かった?」


 慌てて僕は我に返り、内田さんに謝る。内田さんは指先を見ながら、なぜか満足そうにしていた。


「……ええ。ちゃんと、痛かったですよ?」


 そういって、まるで見せつけるように彼女は僕に指先を見せる。僕はなぜか血が出ている彼女の指先を……美しいと思ってしまった。


「しかし、これでは……死ねませんね」


「え……あ、ああ。そうだね」


「……まぁ、いいです。私の要望は言いました。次は尾張君。君が要望を言う番です」


 そう言われて俺は思わず反射的に内田さんの指先を見ていた。


「……舐めたい」


「はい?」


「……内田さんの指を……舐めたい」


 気付かぬうちに、僕は自然とそんなことを言ってしまっていたのだった。

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