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第61話 お姫様とナイト様

「また、ゾンビもどきの討伐依頼か……」



 ここのところテュールたちがギルドに顔を出すと、ゾンビもどき駆除が最優先依頼となっており、必ず押し付けられる。ギルドでのテュールの立ち位置は、イジリやすい新人だけど、腕っぷしは確か。というわけで、それに付き合わされる形で第一団の面々は今日も今日とてゾンビもどきを狩りに出かける。



「まぁまぁ、テュールくんそう言わないの、街の安全のためだもん、がんばろ?」



 そんなテュールをカグヤが(たしな)める。



「そうだな……、今日もいっちょお掃除にいきますかっと」



「おぉー、いくのだー!」



「……ん。今日はししょーよりたくさん倒す」



「フフ、私も足を引っ張らないように頑張りますね~」



「あぁ、テュール。それでなんで私も毎回付き合わされているんだ?」



「レフィーだけサボってるみたいでズルいじゃん……」



 こうして、やる気のないテュールとレフィー。そして四人のお姫様たちは南門から出て、平原へと立つ。



「まぁ、人数差ではこっちが勝ってるんだ。今日こそ討伐数で勝つか。もういい加減、打ち上げで奢りはイヤだしな」



 そう、第一団の面々は二手に分かれて、ゾンビもどき討伐を行っているのだが、お姫様方を護衛するという意味も込め、テュールが第二班へと貸出されている。そして、数では六対四で有利であるが、向こうは、流石は純龍、神獣、公爵級悪魔、お調子者遊び人のパーディである。毎回討伐数で遅れを取り、テュールはその度に全員分の食事を奢ることが定例となっていたのだ。



「うし、早速お出ましだ。気合いれるぞ!!」



 そして、テュールは自らの頬を両手で打ち、気合を入れて、平原の奥にワラワラと蠢くゾンビもどきを睨む。そして女子五人もそれに続き、真剣な表情で戦闘態勢をとる。



 ゾンビもどきの動きはそこまで早くない。また、もどきと言っているだけあって死体ではなく人型のドロドロ(・・・・)しているモノだ。一体あの生物はなんなのだろうか。冒険者や町の人から色々な噂を聞くがギルドや領主からの公式回答はない。



「……ん、一番槍いただく」



 そして、そんなゾンビもどきの群れに一人の少女、レーベが特攻をかける。ゾンビもどきは徒党を組むわけでも道具を使うわけでもない。目的を持つわけでもなくウロウロしているだけだ。唯一の特性は、人を視認すると、走ってきて噛み付いてくるというものである。当然、一般人が噛まれれば即ち死だ。



「ふぅ、まぁいつまでも負けるのは癪だからな。私もいこう」



「私も一緒にいくねっ」



「リリスは遠くから魔法を打つのだ!」



「私も皆さんに迷惑がかからない方を処理しますね」



 だが、お姫様五人からしてみれば、ゾンビもどきは驚異とならない。実際に数度対峙しているが、基本的に動きがトロく、学習能力のないゾンビもどきどもは雑魚であった。



(しかし、どこからこいつらは生まれているんだ?)



 テュールは張り切る少女たちに遅れを取らないよう生成した魔力刀を振るいながら考える。強力な魔力を帯びたその刀はゾンビもどきを触れるだけで蒸発させていく。



 そして、テュールの考え事。どこから発生しているのかは分かっておらず、目に見える範囲のゾンビもどきを討伐してもまたすぐに増えてくる。そして、テュールの気のせいかも知れないが──。



(増えるペースがゆっくりと増加していないか? 放っておけば世界はゾンビに覆い尽くされるかも知れないな)



 一株の不安を感じていた。



「まぁ、ゾンビワールドにしないためにも駆逐しますかね」



「おー! こっちは任せるのだ! ファイアーアロー!」



 リリスがその手に一メートルの魔法陣を浮かべる。以前と違い、情報をごちゃごちゃと詰め込んだ歪な魔法陣ではなく、構成がとても綺麗になっている魔法陣だ。そんな魔法陣から飛び出した火の矢は一直線にゾンビの頭を貫通し、まるで意思を持っているかのように周りのゾンビもどきを次々と刺し貫いていく。そして火の道の後には小さな石が残るだけだ。



「ふむ、かなり綺麗になってきたな」



「ふふん、当然なのだー! リリスは頑張っているからな!」



 学校でザビオルドにネチネチ言われ、泣きながら練習し、家でもルチアにガミガミ怒られ、泣きながら訓練した成果だ。



 また、他の者もこの三ヶ月の訓練の成果が表れている。レーベは、テュールとリオンに鍛えられ、より格闘術に磨きがかかった。鈍くさいゾンビもどきに遅れをとるわけもなく、次々と消し飛ばす光景は、駆除という言葉が相応しいだろう。ちなみにドロドロが気持ち悪いということで長靴を装備している。長靴を履いた幼女によるゾンビ狩り。どう見ても全米は泣きそうにない。



 カグヤは魔力刀の生成と剣術に集中し修行しており、既に五メートル級の魔力刀生成に成功している。そしてカグヤの剣術と魔力刀が合わされば、ゾンビは自分が斬られたと意識することもできずに細切れだ。



 セシリアにいたっては通常時左手一本で戦っている。左手で右手と同じレベルの魔法を使えるようになるまで右手は極力使うな、とルチアから言われているためだ。当然ゾンビもどきに視認され、近付いてくる間にその左手の魔法陣で全て片付けられるため、右手は使うことはない。そして、その左手の魔法陣の速射は殲滅戦において目を見張る成果を出していた。そのため──。



「セシリアはまだ打っちゃだめなのだー!」「……ん、セシリアは五分数えてから開始」



 などと、言われたりもする。



 そしてレフィーは、体術、槍術、魔法どれも高水準で隙がない。そして何より冷静でクレバーなため、安心して見ていられる。しかし、今日はそんなレフィーが──。



「うっ……」



 突如うずくまる。



 そんなレフィーを囲む形でわらわらと近付くゾンビもどき。そしてうずくまって動けないレフィーにその爪を、その牙を振るおうとする。



「おいおい、レフィー、珍しいな。どうした? 大丈夫か?」



 が、テュールがそれを許すわけもなく、目の前のゾンビもどきを全て一刀の下に伏せ、一瞬でレフィーの傍へ駆け寄る。



「あ、あぁ……、すまない、少しめまいが、な……。フフ、一つ借りを返されてしまったな……」



 先程までの余裕のある軽口でない。レフィーは血の気が引いて、蒼白した顔で、無理をして笑った。そして、そんなレフィーの頬に、テュールは手の甲を当てる。



(冷たい……なのに、汗が出ている、か。これはマズイな)



「ったく、そんな冗談言う余裕があるなら大丈夫だな。だが今日はこれで戦闘は終了だ。大人しく俺の傍で待機だ」



 レフィーに有無を言わさずそう告げるテュール。



「仕方ないな、ではナイト様に守ってもらうとするか……」



 口では素直に従いはしないもののレフィーは座ったまま、傍で立つテュールの足にもたれかかる。



「あいよ、お姫様。ふぅ……全員集合ッ!!」



 そしてテュールは他の少女たちを呼び寄せる。その声の真剣さに少女たち四人は迅速に集合を果たす。そして、テュールはその場から動くことなく、両手に二十メートル級の魔法陣を浮かべる。そして、右手の魔法陣はテュールと少女五人を包む障壁となり、左手の魔法陣は目に見えるゾンビもどきを含めた一帯に暗雲を呼び込む。



召喚(サモン)暴雷龍テンペスト・ヴォルニクス



 そして、テュールが小さく呟くと、轟音を響かせながら、巨大な雷槌が無数に疾走る。それはまさにそこにいる者を等しく蹂躙する天災。障壁の中で少女たちはギュッと体を縮め、緊張している様子だ。



 全てを光と熱で覆い尽くした後、テュールは指を一つ鳴らす。そして、暗雲は幻のように消え去り、青空に塗り替わる。そして、平原にはただの一匹のゾンビもどきもいない。



「さて、レフィーの体調が優れないから帰るぞー」



 テュールは、先程の暴力と正反対のように間延びした声でそう告げる。そして緊張が解けた少女たちは口々に、レフィーへの心配の声を上げるが、レフィーは大袈裟だと、気丈に笑い飛ばす。そして、そんな様子を見たカグヤが首を横に振る。



「フ、いや本当に大丈夫だ。ほら立って歩くのだって」



 そこまで言って、立ち上がろうとしたレフィーの膝が崩れ落ち、それをテュールが支えた。



「ハハ、おかしいな。分かった、分かった。私は体調が悪いのを認めよう。じゃあテュールお姫様抱っこでも──」



 そして最後まで軽口を叩くレフィーにしびれを切らしたテュールは、言われた通りレフィーをお姫様抱っこしてしまう。



「おい、恥ずかしいんだが……」



 本当にお姫様抱っこされるとは思っていなかったレフィーは視線を伏せ、今まで蒼白していた顔の一部分だけに赤みがさす。だが、そんなことはお構いなしにテュールはそのまま歩き出す。



 少女たちも普段であれば茶化しの一つもいれようものだが、あのリリスでさえも空気を読み、テュールとレフィーに負担がかからないよう周りを警戒しながら黙々と歩いた。



 そして無事市門に到着し、門を開けてもらうと、テュールはレフィーを労りながら診療所へと歩いていく。



「おや、久しぶりだね、今日はどうしたんだい? って、そちらのお姫様が患者さんかな、そこのベッドに寝かせてくれ」



 お姫様抱っこされているレフィーをみた女医からそう指示され、言われた通り、ベッドへとレフィーを降ろす。



「フフ、ありがとうテュール。大分楽になった、本当だ。だから先にギルドへ行ってきてくれ、報告しなければならないだろ?」



 ベッドに横になり、顔色が少しずつ良くなってきていたレフィーがテュールにそう伝える。



 レフィーに言われた通り、戻り次第ゾンビもどきの報告をしなければならないのも事実だ。



「大丈夫だよ、テュールくん。私が残るからテュールくん達はギルドの方をお願いしていいかな?」



 だが、迷うテュールにカグヤから声は掛かる。その言葉に少し冷静さを取り戻したテュールは、大人数で診療所にいても、まして男の俺がここにいても迷惑になると考え、女医にお願いしますと頭を下げ、付き添いをカグヤに任す。



 そして、セシリア、リリス、レーベとともに診療所を後にし、ギルドへと報告に向かった。

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