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第57話 クンジョン!!

 地雷を踏み抜いたテュールは冷や汗を流す。師匠五人は既に一触即発の雰囲気を完成させてしまっている。しかし、そこにスッと大魔王が割って入った。



「もう、お祖父様達大人げないですよっ」



 大魔王だと思っていたカグヤは女神であった。



(いつも大魔王なんて言って、ゴメンね?)



 テュールは心の中でこっそり謝り、潤んだ瞳でカグヤを見つめる。



「フフ、私もテュールさん側にまわりますね」



 セシリアも笑顔でテュールの傍に来た。



(こっちは毎度天使だ! ありがとう、ありがとう!)



 テュールは心の中でファンファーレを鳴らしながら叫ぶ。



「む、リリスも仲間はずれはイヤなのだー! テューくんをいじめるのならリリスも相手になるのだ!」



 動機はやや寂しいものがあるが、リリスもテュールのためにファイティングポーズをとる。



 そんなリリスの登場に目頭を抑え、天を仰ぐテュール。嬉しさのあまりに涙がこみあげてきた。そして、チラリともう一度リリスを見る。



(嬉しい、嬉しいけど……。あかん、めっちゃ弱そう)



 やはり戦力にはカウントできそうになかった。そして、こうなれば当然テュールの弟子であるレーベも名乗りを上げる。



「……ん。ししょーのピンチは、弟子が助ける」



 レーベはリリスの隣でファイティングポーズをとった。こっちはわりと強そうだが、師匠サイドのマッチョ二人とテュールサイドの幼女二人を見比べてしまうと心許ない。だがテュールは、ここが異世界だということを思い出す。そう異世界は見た目で強さが決まらないのだ。



 チラリ。



 そして、女性陣に守られ調子に乗ったテュールは、最後の一人へ視線を配る。



「はぁ……。ったく、貸しだからな?」



 レフィーも渋々テュールの傍にくる。



(うん、きっと貸しってのは照れ隠しなんだろう。今後増え続ける感じだし、いざとなれば踏み倒せばいいさ)



 そう思って、問題を先延ばしにするテュール。この選択を後に後悔することになるかは分からないが、きっとテュールは苦労するだろう。それだけは間違いないと言える。



 そしてこれで師匠陣五人と少女たち五人、それにテュールが出揃った。まるで主人公がおまけである。それを見ていたアンフィス達はと言えば──。



「おーいいぞー、やれやれー。ベリト、俺師匠側に一口な」



「ベリトー、ボクも師匠側に一口ねー」



「あ、俺も師匠側で」



 ちゃっかりテップまで加わり、賭けをはじめる始末であった。



「うぅむ、困りましたね。テュール様側に賭ける方がいらっしゃらないので不成立ですね。ちなみに皆様引き分け平和的解決もありますが……?」



「「「いや、それはない」」」



 賭けに参加した三人は平和的解決など有り得ないと断言した。そしてそれに頷く師匠たち五人。この時、テュールは幼少の頃を思い出す。ルチアは確かに言っていた。マッチョだったり、青白いやつだったり、ボケたりしていても話し合いで理解し合える、と。理性ある生き物とは何だったのか。



「ホホ、どうやら雌雄を決しなければ収まらないところまで来てしまったようじゃのぅ……。師匠の偉大さを今一度その身に思い出させてやるかの、ホホ。では行くかの、地下へ」



 そう言うと、モヨモトは歩きはじめ、一つの扉を開く。するとその先は、今までの内装と全く違い、荒々しく削られた岩肌むき出しの、いかにもダンジョンという入り口と階段が現れる。照明もロウソク型の魔道具でゆらゆらと揺らめいている。実にディティールにまで無駄に凝ったものである。



 これに驚いた少女たちやテュール達に気を良くしたモヨモトはニヤニヤしながら歩みを進める。だが、今は絶賛喧嘩中だということを思いだしたのだろう。慌てて顔を引き締めた。



 そして師匠五人が先を歩き、テュールと少女たちがそれに続く。ついでに野次馬であるベリト、アンフィス、ヴァナル、テップも当然付いてくる。



 何段ほど下りただろうか。テュールは想像していたより遥かに長い階段に驚きを覚える。そして一同は無言のまま五分程階段を下りて、ようやく開けた場所へと辿り着く。そこは地上建物部分より遥かに広大なスペースであり、かなり遠くに壁が見えるだけで、他には何も見当たらなかった。



「ホホ、さて、地下一階に到着じゃ。ここは敵が出ないから安心して、訓練に打ち込めるんじゃ」



「あぁ、そうか、それはあんし──って、敵? 何を言ってるんだ?」



 テュールはついついその不穏な単語にツッコミを入れる。



「ガハハハ、ここは俺達が作った訓練ダンジョン、略してクンジョンだ!! だから当然地下二階以降は敵が出るぞ!」



 師匠陣は何故こうもネーミングセンスが致命的なのか、そして、何が当然なのか。テュールの疑問は尽きることはない。



「フフ、地下百階まであるから挑戦してみてね? ちなみにクリアすると豪華プレゼントもあるよ~」



「フハハハ、ちなみに壁や天井などは防音、耐震、耐衝撃、耐魔法といたれり尽くせりの仕様だ! いくらでも暴れるがよい」



「ったく、本当に男ってのはダンジョン、ダンジョンって、いつまでもガキさね……」



 先程までの不機嫌はどこへ行ったのか、ルチア以外の師匠陣はウキウキであった。そして、ギロリとテュールまで睨むルチア。



(あ、すみません。ちょっとウキウキして攻略したくなっちゃってました……)



 ダンジョンと聞き、目を輝かせ、ついつい心が踊ってしまうのはテュールも同じであった。



「ホホ、さて、折角のパーティだ。料理を美味しく食べるためにも、ちと、みなで軽く闘り合おうかの?」



 そしてモヨモトがスッと表情を引き締め、闘気を全方位に撒き散らす。分かりやすい挑発だ。



「おー!! やるのだー!!」



 リリスが燃える。



「……ん、望むところ」



 レーベも燃える。



「俺はちょっと、お腹が……、その痛いかな? なんて、ハハ、ハハ、って熱っ!? わかりましたっ! わかりましたっ! 参加します! 参加します! 不肖このテップも参加させて下さい!!」



 テップも燃えていた。というか燃やされていた、ルチアに。



(ルチア初対面の他所様の子にも容赦ねぇな……。まぁテップだしいいけどさ)



 テュールは友人が燃やされていることに、さして興味を示さない薄情者であった。



「ふぅ、やれやれこうなってしまっては仕方ありませんね。身に降る火の粉は払わせてもらいますよ」



 クク、と笑う執事。



(安心しろ、俺らどころか師匠たちも含めてお前には手ぇ出さねぇから……)



 全員の共通認識であった。



「ガハハハ、さぁて、心の準備はいいか? なーんて俺が聞くと思ったら大間違いだ!! おら、テュールまずはてめぇだ!! さっきの無礼な態度を反省させてやるよ!!」



 こうして闘いのゴングはリオンの拳とそれに合わせたテュールの拳によって鳴らされる。



「あいにくと黙って殴られるような教育は受けてきていないんで、ねっ!!」



 リオンとテュールが口角を釣り上げながら殴り合う。そこにモヨモトが魔力刀で切り込み、ルチアとツェペシュがそれら丸ごと吹っ飛ばす魔法を放つ。レフィーが、貸しだからな? と竜化しブレスでその魔法を相殺した。だがそこにファフニールまで竜化し、追い打ちでブレスを吐こうとする。



 そんなファフニールに笑いながら飛び蹴りをかますアンフィス。ヴァナルはさりげなくテュールへと振るわれたモヨモトの刀を両手の短剣で受け流してくれていた。カグヤは木刀でモヨモトを背後から突き──。



(って、それ刺したら死んじゃわない?)



 初手からテュールとの授業中の組手で見せた『流星』を全力で放つカグヤに若干引いてしまうテュール。そして、こちらも容赦など一切ない。獣王拳を使い、赤いオーラを身に纏ったレーベがリオンをひたすらに殴る。セシリアはフレンドリーファイア上等で全方位に無差別に魔法を撒き散らし、リリスは二十メートル級の魔法陣を暴走させかけ、あわやのところで師匠たちに気絶させられていた。



 それからも魔法が飛び交い、拳が飛び交い、テップが飛び交う。そんなハチャメチャな闘いが繰り広げられ──。



「あれ? もしかして私、仲間はずれです?」



 と、ベリトがそう気付く頃には、年齢を考えずにはしゃぎすぎた師匠陣が苦々しく笑いながら地べたへと座り、若者たちは死屍累々に転がされていた。



 そんな一同を見回すとベリトは、やれやれと言った様子で口を開く。



「フフ、では、私はパーティの準備をしましょうかね」



 こうして、無傷の執事は鼻歌混じりに階上へと上がり、パーティの準備を一人でこなしてしまうのであった。



(執事マジ有能……)



 薄れゆく意識の中で、最後にテュールはそんなことを思ったとか、思わなかったとか。

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