第82話 『奇跡の欠片』ちゃんねる
【みなさん、こんばんわ。『奇跡の欠片』のラピスです】
【こんしろ~、『奇跡の欠片』のシロことシロフェスネヴュラです】
【このチャンネルは、『奇跡の欠片』のメンバーが不定期に探宮動画解説や雑談をゆる~く配信するチャンネルとなっています。今回は白青コンビが担当です】
【よろしくラピスちゃん】
【うん、頑張ろうねシロ君。ちなみに今回はチャンネル登録者さんから事前にいただいた質問を中心に雑談配信をしていきたいと思ってます】
【変な質問が来てなければいいんだけど……】
【質問を選定をしたのが、あのクロウさんなのが少し心配だけどね】
【確かに……では、最初の質問。質問者さんは『メイド長のお土産』さんからです。『ラピスさん、シロさんこんばんわ』。はい、こんばんわ】
【こんばんわ】
【『僕は奇跡の欠片の探宮デビュー配信を見てから、ずっと白青コンビのお二人が推しになっています』ってボク達のファンだって……】
【ありがとうございます。とっても嬉しいです】
【『いわゆるカプ推しの百合厨なのですが……そこでお二人に質問です』】
【カプ推しの百合厨?】
【『ずばり、お二人は付き合っているのですか?』えっ、何これ? どういうこと?】
思わぬ質問にボクはドギマギして、慌てて蒼ちゃんを見る。
けど、蒼ちゃんは動揺もせず済ました顔で
【…………で、シロ君。質問の答えは?】なんて聞いてきた。
【そ、それは……】
付き合いたいのはやまやまだけど、今は女の子になっちゃってるし。
【…………つ、付き合っていません】
【今のところは……ですね】
ボクが真っ赤になって否定すると蒼ちゃんは即座に言葉を被せて来る。
【え?】
【では、次の質問に移りますね…………】
◇◆◇
「どうでしたか? こんな感じで良かったですか?」
目の前の黒髪の女の子が不安そうに聞いてくる。
「凄いよ、濡羽さん。完璧だよ」
「つくも君の言う通り。画面やイラストも綺麗だし、音楽も素晴らしくてホント、プロが作ったみたい」
ボクと蒼ちゃんがベタ褒めすると濡羽さんは「そ、そ、そんなことないです」と頭を左右にぶんぶん振って恐縮する。
今週、配信予定の『奇跡の欠片』チャンネルの動画が完成したと言うので、ボクの部屋に濡羽さんと蒼ちゃんが集まっていた。
で、今見ていた動画を作ってくれたのが、目の前の少女……紫黒 濡羽さんなのだ。
そう、苗字でわかる通り玄さんの双子のお姉さんである。
けれど、双子と言っても印象は大きく異なる。双子だけあってスレンダー体型は似ているけど、ちょっと猫背気味のため長身には見えない。今日の恰好も黒Tシャツに黒のデニムパンツと渋いチョイスだ。悪くないと思うけど、お洒落な玄さんとはずいぶんと雰囲気が違う。髪はショートボブで前髪で目が隠れている。あれで前が見えるのか、甚だ疑問だ。
まあ、ボクも他人のことをとやかく言える程のセンスは無いけど、全体的に地味な印象を受ける。玄さんと並んだ時に二人が双子とは、ましてやお姉さんとは到底思えないだろう(まあ、双子なので、どちらが姉、妹かなんてあまり関係ないようにも思えるが)
ちなみに通っている学校も違い、市内の中高一貫進学校の高校一年生だ。しかも探宮者でも無いので、ボク達と出会う接点など無かった筈なのだけれど、彼女にはボク達にとって必要不可欠な才能があった。
見た目で予想は出来たけれど(決めつけは良くない)、パソコンが趣味……しかもかなり強火なオタクで、動画編集やサムネイル作成などもお手の物、プログラムも得意で自作ゲームやアプリを作れるほどの腕前らしい。さらにイラストはもとよりモデリングも嗜むという、今のボク達には無くてはならない逸材だった。さらに、玄さんに逆らえない性格のため、今回の件も無報酬での協力と言う申し訳ないことこの上ない案件なのだ。
「でも凄いよ、濡羽さん。これだけのものを作っちゃえるんだから」
「ホントそう、無報酬なのが申し訳ないくらい。収益化出来たら、いくらか渡せるよう朱音さんに言っておくから」
「な、無くても全然大丈夫ですから……そ、その……」
濡羽さんはクネクネと奇妙な動きをしながら、ぼそぼそと言った。
「うち、シロ様が最推しなんで……」
やっぱり変な子だった……。
◇◆◇◆◇◆
結論を言えば濡羽さんが作ってくれた動画は大絶賛だった。まあ、ほぼプロ仕様でクオリティが半端なく高かったからね。とても無償とは口が裂けても言えないけど。
そうそう、言い忘れてたけど、五月末に第一層を攻略してから、ちょうど一カ月半が経過したんだ。7月も半ばを過ぎ、あと少しで夏休みっていう状況だ。
ちなみに第二層に入ってからも奇跡の欠片の快進撃は止まらず、一カ月で第二層の攻略を完了し、現在は第三層を攻略中なのだ。レベルも全員3レベルに到達し、4レベルになる日も近いだろう。
それに伴い、奇跡の欠片の人気も高まり続け、今やチャンネル登録者数は5万人を超え、10万人に迫る勢いだ。おそらく収益化も間近だと思われる。ちなみに収益化申請は通常未成年では行えないが、『迷促法』の特例により未成年でも可能となっている(ただし、所得が多いと当然の話だが扶養から外れてしまうので要注意)
また、人気が高まるにつれボク達の周辺も少しづつ騒がしくなって来ている。大事に至っていないが、身バレには細心の注意が必要な感じだ。
まあ、人気商売の弊害なので、折り合いを付けていくしかない。もし、高校側の許可が下りれば、最悪顔出しという選択も視野に入れる必要もある。せめて、高校在学中は穏便に済んでもらいたいのだけれど。
「え、取材?」
放課後の探宮部で朱音さんの発した言葉にボクが問い返す。
「ああ、迷宮協会を通じて『奇跡の欠片』へ正式な取材申し込みがあった。みんながどうしたいか、意見を聞きたいんだ」
取材かぁ……収益化を考えると登録者数の維持や増大に繋がるから、受けるという選択肢一択だけど、身バレに繋がるリスクも高まるし、ちょっと悩ましい。
「ちなみに取材はどこからですか?」
翠ちゃんが興味津々で尋ねる。
「よくは知らないが、『月間LEタイプ』と言うところらしい」
「探宮者……LEの情報専門誌ですね。悪くないと思います」
翠ちゃんは乗り気のようだ。
「朱音さん、取材はどこで? 現実世界なのか異界迷宮でなのか……」
「異界迷宮内で、との話だ」
「なら、私は取材を受けるのに賛成です」
蒼ちゃんは現実世界での取材はNGらしい。
「玄さんとつくもは、どうだ?」
「自分はどちらでも構わない。多数決でいい」
「そうか……」
玄さんの言葉に頷いた朱音さんはボクに視線を向けた。
もちろん、ボクの返答は決まっている。
「あおいちゃんが受けるのに賛成ならボクに異存は無いよ」
そう言うと朱音さんは少し難しい顔をした。
「つくも、自分の意見を持て。何でも蒼と一緒というのは良くないのではないか?」
「別に何でも、あおいちゃんと一緒ってわけじゃないよ。たまたま同じ意見なだけだから」
反論すると朱音さんは、わずかに眉根を寄せてから「ならいい」とだけ呟いた。
「わかった。皆の意見を集約すると取材を受けるで決まりだな」
「あら、朱音さんの意見を聞かせていただいていませんが?」
翠ちゃんが当然と言う顔付きで確認する。
「あたしとしては、どちらでも良かった。ただ、親父はいつもマスコミだけは敵に回さない方がいいと言っていた。だから、取材には賛成だ」
確かに蘇芳秋良は人気が高かったせいで、マスコミにいろいろ叩かれたことも多かったからな。身内の言葉は重みが違う。
「取材を受けることを迷宮協会に連絡しておくよ。あと、取材用の質問シートが届いているので、みんなに配布しよう。書き終わったら、あたしに提出してくれ」
取材か……ちょっとワクワクして来た。けど、ボロを出さないように気をつけなくちゃ。
蒼ちゃんの不安そうな視線を感じながらボクは楽観視していた。
第82話をお読みいただきありがとうございました。
前回はお休みしてしまい申し訳ありません。
無理せず頑張りたいと思います。
読者の皆様も暑い日が続きますので、お身体ご自愛くださいませ。




