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第21話 迷宮街


「どうかしたの、つくも君?」


 不意に声を上げたボクに蒼ちゃんが不思議そうに話しかける。


「あおいちゃん、列の前の方に蘇芳さんがいるんだよ」


 女性としては長身な蘇芳さんだが、たまたま周りに背の高い人達がいないせか頭一つ抜け出していた。前を向いているせいなのか、列の最後尾に並ぼうとしているボク達には気付いていないようだ。


「そっか、蘇芳さん探宮者志望だから、ここに来てもおかしくないよね」


「それはそうなんだけど……」


 何となく蘇芳さんには近づきたくない予感がする。


「ここは大人しくやり過ごそうよ。中に入ってしまえば見つからないだろうし……」


「そうかなぁ、制服姿ってけっこう目立つと思うけど」


「じゃ、今日は止め……」


 止めとく?って言う暇もなく腕を引っ張られ、列の一番後ろに並ばされる。


「あおいちゃん?」


「しーっ! バレたくないんでしょ?」


「あ……はい」


 ボク達はこそこそと気配を消して行列が進むのを待った。


 迷宮街の入口には、駅などの改札口にある機械によく似たゲート式の機械が置かれている。通常は迷宮協会が迷宮者に発行する身分証をその機械にスキャンするだけで簡単に入ることが出来る。

 ボク達のように初めて中に入る者は受付で簡単な登録手続きを済ませた後、入場証を発行してもらい街の中へ入る形だ。

 蘇芳さんは、すでに入場証を持っているらしく、さっさと迷宮街に入っていくのが見えた。


 ボク達も登録を済ませ入場証を手に入れると、少し遅れて迷宮街に入った。ちなみに登録には免許証や学生証なり身分を証明する物が必要なのだけど、入学したてのボク達に学生証が、まだ発行されていない。なので、学校からの帰り際に事務室で在学証明書をもらってきていた。基本、ボク達みたいな学生を含めてほとんどの人間はフリーパス状態で、過去に犯罪歴でも無い限り簡単に登録できると聞いている。


 実際の話、迷宮街に入るのはさほど難しいことでは無く本当はゲートもあってないようなものだ。けれど、迷宮街から出るのには厳しいチェックを受ける必要があった。これは迷宮産の武器などを外部へと持って出ていかないようにするための措置だ。もっとも、こちらの方も機械化され、どういう仕組みかは不明だがトンネル状の退出ゲートをくぐるだけで、違法な物品を持ち出そうとしているか分かるらしい。


 ん、待てよ。現実世界で効力を発揮しているボクの異次元ポケットの中には異界迷宮産の武器が収納されている。退出ゲートで、まさか反応されることは無いのだろうか?

 迷宮街の区域にすでに入ってしまっているので後の祭りだけど、もう少し考えてから入れば良かったか。まあ、くよくよしてても仕方ない。バレたときに言い訳を考えよう。今は蒼ちゃんとの迷宮街デートを純粋に楽しまなくちゃ。



 中に入ってみると町並みは一般的な商店街とほぼ同じように見えた。違うのは取り扱う商品が普通と異なる点ぐらいだ。一見するとスポーツショップや雑貨店のように見えて、実は武器屋とかアイテム屋などファンタジーゲームでよく見かける店だったりして、歩いて回るだけでなかなか楽しい。

 街の中を歩いて人もバラエティー豊かだ。普通の恰好をしている人もいればコスプレと見紛う人もいる。武装さえ持って出なければ、そのままの恰好で自宅に帰っても良いのだけれど、よほの猛者でも無い限りそういうメンタル強者はいないようだ。


 また、16歳から探宮者になれることもあって、ボク達以外にも学校の制服を着ている人達も何人か目にした。なので、ボク達二人の姿も特別では無かったはずなのだけど、相変わらず目立っているようで、通り過ぎる人達からじろじろと視線を向けられた。これについては何とも気恥ずかしくて一向に慣れなる気がしない。蒼ちゃんは、こういうの気にならないのだろうか?


 そうそう、それと特筆すべき点は飲食店の数が多いことだ。よく街中で見かけるごく普通のチェーン店もあれば、迷宮街ならではの店もあったりした。コンカフェの一種と思われるラビリンスカフェなんてのもあり、けっこう人気を博しているようだ。迷宮料理が売りって聞いたけど、いったいどんな料理を出しているのか少し興味がわく。


 蒼ちゃんとボクはそんな風にあちらこちらを散策しながら迷宮街を満喫した。そして、ある程度満足すると、今回の第一目的地へと足を向ける。それは迷宮街の一番奥まった場所に位置し、一見するとテーマパークなどにあるような神殿風の建物に見えた。


「これが『迷宮の扉(エントランス)』……」


 蒼ちゃんが感極まったように呟く。


 そう、これが迷宮街が迷宮街たる所以ゆえんである異界迷宮への入口……『迷宮の扉(エントランス)』なのだ。正確に言えば、この神殿風の構造物の中にボクの部屋にあったような黒い穴、すなわち『迷宮の扉(エントランス)』が鎮座している訳だ。

 元々は一般人が誤って『迷宮の扉(エントランス)』に入り込まないようにするために周りを囲ったことから始まったと聞いているが、今ではどこの『迷宮の扉(エントランス)』も、このような立派な建物の中に納められている。


 ぼんやりと眺めていると何人も人間がその神殿風の入口から出入りしているのが窺えた。おそらく『迷宮の扉(エントランス)』を利用する探宮者達なのだろう。視線を左右に移すとホテル風の建物が幾つも見えた。確か、着替えをしたり装備を保管してくれる建物があると聞いているのでそれらに違いない。


「つくも君、私たちもここから異界迷宮に入るんだね」


「……うん、そうだね」


 一足先に異界迷宮に入ってますと、蒼ちゃんには口が裂けても言えない。


「早く探宮者になって異界迷宮に入りたいな……」


 待ちきれないかのように蒼ちゃんがじっと『迷宮の扉(エントランス)』を見つめる。


「仕方ないよ、夏休みまで我慢だね」


 前に話した通り、探宮者になるには16歳の誕生日を迎えなければならない。ボクは5月5日生まれなのですぐだけど、蒼ちゃんの誕生日は7月14日なので、まだずいぶん先の話となる。


「じゃあ、それまでしばらくは筋力トレーニングしないとね」


 蒼ちゃんは、ふんすとやる気満々で答える。


 確かに現実世界の延長上に異界迷宮での身体能力があるので、アスリートや武道家が有利なのは事実だ。けど、実際の強さは職業クラスやスキルの占める割合が大きい。なので、そこまで筋トレが必要なわけではないのだけど、本人がやる気になっているので水を差すこともない。


「じっくり見たし、そろそろ迷宮協会に行こうか」


 見ていて飽きないのか『迷宮の扉(エントランス)』と出入りする探宮者をいつまでも見つめている蒼ちゃんを促して第二の目的地に向かうことにする。


第21話です。

週2回更新になってごめんなさいです。

頑張ります!

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― 新着の感想 ―
[一言] つくも君私より13日早く誕生日が来る 誕生日……うっ頭が
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