第42話 新たなる脅威の発生
今回、森の調査に参加するのは、まず森の主たるミトラストとライセム。
次いで王国騎士団から10名が選抜された。
そして最後に私だ。
調査団は軍用魔導車に乗り込み、問題の森へと急行する。
車両は生産性を考慮してか、かなり角ばっており装飾も無く、いたるところに障壁発生用の術式が書き込まれている。
魔力障壁は魔力と物理障壁の簡易型を採用していた。やはり限られた魔力で運用する以上、簡易的なモノになってしまうようだ。
ただ、ずっと止まっているモノでもないし、中には戦闘要員も乗っているのだから問題ないだろう。
「ネリア様、少しよろしいでしょうか?」
しばらく街中を走って、そろそろ郊外に出るころになってライセムが声をかけてきた。
「大丈夫だけど、どうした?」
「はい。ネリア様のお力について聞きたいことがありました。あの時、わたくしは全てを見透かされているような感覚を感じました。それにもっと何か完本的なところから強引に介入してくるようなモノも。あの力はいったい、どのようなモノなのでしょうか?」
「ライセムはあれが何だと思う?」
「そうですね。あそこまで深く力強い力となると、思い当たるものは神眼の類かと」
「そう。神眼の中でも多分一番強力なモノで万理眼って言うんだけどね」
それから私の力について説明をした。
ライセムは静かに淡々と私の話を聞いていた。
どうやらライセムは、あまり外に感情を出す方ではないようだ。
「ありがとうございます。そのお力があれば原因の究明も思っているよりも早く済みそうですね」
「そうだな。私も出来る限りの事はしよう。あまり期待されても困るけど」
「はい。わかりました」
こうして魔導車は進み、森の入口へと到着した。
魔導車から降り、調査団の隊長としてミトラストが話始める。
「皆の者、よくぞ参加してくれた。これから入る森は一見すれば普段とは変わらないじゃろう。だがしかし、いったい何があるか分からない。気を引き締めて行動するように」
『はい』
こうして調査が開始された。
まず今回の調査は具体的なことが分かっていない暗闇の中を手探りで探すような調査である。
こういう調査の場合は、まず闇雲に調べるのでは無く、一通り観察を行ってみることから始めるのが良い。
そうして観察を行い、普段と違うところを見つけるのだ。
「一度、私が詳しく視てみます」
「お願いします、ネリア様」
調査を開始する前に私が万理眼で詳しく森を視てみることにした。
昨日は表面上を軽く視る程度で済ませていたので、今日は徹底的に視てみることにする。
最初は、ここ1週間の変化を概念的な形で視てみる。
すると森の中心部で大きく何かが変化した跡があった。
これで調査すべき場所が分かったが、一応どんな状況か視てみる。
「これは……」
普通に見れば、どこもおかしな所が無い普通の森だ。
だが視点を変えてみれば異様な雰囲気に包まれていた。
ナニか黒いというか暗いというか、何かよくわからないモノが淀んでいる。
「どうでしたでしょうか?」
「問題の場所は分かった。ただ、何があるかまでは分からなかった」
「ありがとうございます。とりあえずはその場所へと向かいましょう」
という事で、問題の森の中心部へと向かう。
向かう間も注意深く周りを観察していく。
とりあえず中心部に何かがあることは分かっているが、それでも道中に何かしら有るかもしれないからだ。
しかし結局のところ、何も見つかることもなく、問題の中心部へと到着した。
やはり万理眼で視たのと同じように一見普通な感じであるが、先ほどから嫌な感覚が体にねっとりと纏わりついているように感じる。
「よし皆の者、慎重に調査を開始するのじゃ」
ミトラストの号令とともに全員で調査を開始する。
私はもう一度、万理眼での観測を試みる。
今感じている感覚をもとに万理眼を調整していく。
そして、ぼんやりとだが何かが見えてくる。
それは何か人型の何かであった。
黒い靄のようなものに包まれ、輪郭がはっきりとしない。
「ライセム、ちょっといいか?」
「どうされました?」
「もしかしたら原因かもしれないのを発見した」
「それはどういうモノでしょうか?」
「人型のようだが黒い靄のせいではっきりと分からない。でも、この感じからすると精霊かもしれない」
「精霊ですか!」
「あぁ」
一度周りの様子を見てみるが、まだ何か発見した様子は見られない。
それにこの精霊らしきもの以外、特にこれといったものも視れない。
という事は、森の異常はこの精霊っぽい人型で確定だろう。
なので、調査している人たちを呼び戻してもらう。
「ミトラスト殿、いいですか?」
「ん?ネリアちゃん、どうかしたのかの?」
「原因らしきものを見つけたので」
「本当かの!それでどこにあるのじゃ?」
「少し待ってください。まずは皆さんを集めないと」
「おお!そじゃな」
ミトラストは私の言葉に応え、散らばっていた者達を呼び戻した。
数分後全員が集まると私は早速、原因と思われるモノを皆に見られるように可視化するとこにする。
つい最近、ようやく万理眼のレベルが上がったために出来るようになった、概念のみの存在や実体を持たぬモノへの概念操作をそれに対して実施してみる。
付与する概念は可視化である。
これで一度、様子をみてみることにする。
万理眼で対象を捉え、概念を強制的に付与してやる。
すると今まで視えていなかったものが見えてくる。
「これは……、なんじゃ?」
長い時を生きるミトラストにも分からないようである。
周りの兵士達も何かがあってもよいように、それぞれの得物に手をかける。
「よし、皆の者はその場で警戒しながら待機しておれ」
ミトラストが用心しながら、その黒い靄に近づいてく。
私も何かあってもいいように構えながら、万理眼で様子を観察する。
ミトラストは黒い靄まで1メートルのところまで近づく。
そこまで接近しても黒い靄を纏いし人型は何も行動を示さない。
意を決してミトラストがコンタクトを図る。
「そなたは何者かのう?儂の話すことがわかるかの?」
そして、ついに黒い靄の目の前まで近づいた。
今のところ何の反応も示さない。
一度振り返り、私とライセムに対して問う。
「どうじゃ今のところは、ライセムにネリアちゃんよ?」
まず最初にライセムが答える。
「そうですね、特にこれといったことはありません。いまだに何かに妨害された感覚もありますし、何よりそこのモノに関して全く分からないとしか」
「そうか、分かった。ネリアちゃんはどうかの?」
「精霊のような感じはします。それ以外はちょっと……」
「ありがとう。それでは触れてみるぞ」
そしてついにミトラストは黒い靄へと手を伸ばす。
伸ばした手が黒い靄へと触れた瞬間。
「ぬぉ!」
一気に触れた部分から黒い靄が、凄い勢いで吹き出してくる。
ミトラストは見た目の年齢からは、あり得ない勢いで後ろへと飛び退く。
黒い靄を纏った人形は、まるで瘴気でも吹き出すかのように見える。
吹き出している黒い靄からは何か嫌な感じのみ感じる。
その感じは、まるで人が持つ深い闇のような感じの嫌なモノだ。
私はすぐにこの場から撤退すべきだとミトラストに伝える。
「そうじゃのう。それがよいじゃろう。これはちと、不味いかもしれぬ」
ミトラストも賛成し、撤退しようと皆に声をかけようとしたときだった。
今まで黒い靄が吹き出す以外、特段変化の無かったモノがいきなり蠢きだす。
咄嗟に私とミトラストは黒い靄の周りに結界を張る。
黒い靄はその結界に阻まれ、中で蠢いている。
「よし皆の者、森の入り口まで跳ぶぞ!その場から動くな!」
ミトラストが声を張り上げ、魔力を込める。
そして瞬時に景色が変わる。
まるで転移したかも分からないほど洗練された転移魔法であった。
転移後すぐに森から脱出した。
脱出して暫くすると、張った結界が破れる感じがした。
どうやらかなり強力な力を持っているようだ。
「結界が破られたか。不味いのう」
「えぇ、そうですね。それに……」
そこまで話しかけた時、ミトラストの隣に乗っていたライセムが突然うずくまった。
「うっ……」
「どうした、ライセム?」
「それが、かなり不味いことになっているようです」
そうしてライセムは右手を差し出す。
「なんじゃと!?」
差し出された右手は黒く変色していた。
「まさか、汚染されておるのか!」
どうやら、あの靄はかなり厄介な性質を持っていたようだ。
それにしては私が万理眼で視たときは、そんな性質は見られなかったはずなのだが、これはいったいどういうことか?
まさか万理眼まで騙されていたということなのか?
これはかなり不味いかもしれない。
確かに万理眼はまだ能力的には完成していない。
それでもそんじょそこらのスキルとは訳が違う。
そんなスキルでも騙されるとは、かなり厄介な相手が裏に居るようだ。
「ミトラスト殿」
「どうしたのじゃ、ネリアちゃんよ」
「私のスキルが騙されていたようで、あの靄かなり危険です。視たところあの靄にはかなり強力な汚染の力が有ります」
「そうか。そうするとどうしたものか。これは儂も早急に用意しなければならんのう」
「そうですね。もう少し探ってみます」
「そうか。ありがとうじゃ」
高速で来た道を戻る魔導車の中で、普段は込めることのない魔力を万理眼スキルへと込めていく。
そうすればスキルは、与えられた魔力を能力ブースターとして利用し、今まで以上の力を発する。
そうすれば、今まで以上の事が見えてきた。
先ずあの靄には周囲を汚染する能力がある。
そして汚染した地域からは、普段以上に強力な魔物が生成されるということ。
そして最後にあの靄に包まれた人形が、私が感じていた通りに精霊であったということだ。
「ミトラスト殿、今までに分かったことを知らせておきます」
「わかった。聞こう」
それから詳しく今視た事についてミトラストに伝える。
「ありがとうネリアちゃん。それにしてもあれが精霊でそれも魔物を司る最上位精霊だったとは……。さてはてどうしたものか」
「最悪は滅ぼすしかないかもしれません」
「そうじゃな。精霊と契約しているものとしては心苦しいがのう」
こうして話をしながら王城へと戻るのだった。




