第41話 最上位精霊との邂逅
先週は台風15号の影響をもろに受け、停電のせいで制作意欲が削られたせいで遅れました。
半日以上も何も出来ないと…大変でした。
あれからミトラスト邸で昼食をとった。
昼食は森に自生する、かなり大きいキノコと山菜の煮込み料理だった。
素朴な味で自然そのままの感じが実にいい。
今までこういう系統の食事は、ほとんどしてきていなかったから新鮮である。
そして食事が終わった後、古代エルフの事について詳しく聞いてみた。
「古代エルフは基本的にはどのような生活を送っていたのですか?」
「そうじゃな。基本的には狩猟生活が基本じゃったな。まぁ、それでも儂が若かった頃じゃったか、狩猟生活から徐々に変わっていったのは」
話によれば、古代エルフは狩猟生活を中心とした原始的な生活を送っていたそうだ。
それから年月が経ち、世界の魔力濃度が低下していくにつれ、徐々に古代エルフとは違ったエルフたちが生まれ始める。
それは古代エルフより身体能力が落ち、それに伴い寿命というモノが現れ始めたエルフたちであった。
それが現在のエルフへとつながる。
「そして儂が1000ぐらいの頃じゃったか、初めてエルフの国というモノが作られた。といっても今のような王国ではなく、近くの村同士が集まって共同で狩りをしたり、作物を育てたり、工芸品を作ったりな」
そして、この国のような集落の共同体が形成されると同時に、1つの問題が発生する。
それが古代エルフと現在のエルフとの性質の差である。
この頃になるとエルフ以外の人種の小国家との取引が盛んになってくる。
そうするとある意味、奇想天外な性質を持つ古代エルフたちが人種だけではなく、古代エルフ以外のエルフたちとも価値観を共有できなくなってきたのだ。
特に種の保存の性質がかなり高かった古代エルフは、周りから異質なものとして見られるようになる。
そしてこの問題の困ったエルフたちは、一つの決断をすることになる。
それこそ古代エルフの神聖化である。
「古代エルフを神聖化することによって、古代エルフの性質からくる行動を、我々の考えの及ばない神聖なものとして、他の者たちの目から遠ざけることにしたのじゃよ」
「つまりそれが今に続くハイエルフへの態度なのですね」
「そうじゃな。相手から尊いものだと言われてヤな気持ちになるものは少ないだろうし、普通のエルフたちにとっても、ちょうどよい言い訳じゃっただろうしの」
なるほどそれが今に続いているわけだ。
そんな感じで談笑しつつ過ごしていると、何やら学院に入る前に1度感じたことのある違和感が近づいてきた。
確かこの感覚は精霊魔法を使われていた時と似ている。
暫くして家の前までやってくると魔力の質が変わった。
多分、探知系の精霊魔法であろう。
魔法が発動してから数秒ほどして扉を叩く音がした。
「ライセムか、入って大丈夫じゃぞ」
ミトラストが外で待っている精霊に声をかける。
すると扉を開けて入ってきたのはライトグリーン色の髪色を持つ女性だった。
「紹介しよう。儂が契約しておる最上位精霊のライセムじゃ」
そう紹介されたライセムという精霊は部屋の中に入ってきてから私の方を驚いた顔をして見つめたまま固まっている。
いつまでたっても何の反応もないことに不思議に思いミトラストがライセムに声をかける。
「ライセム?大丈夫かの?」
「え?あっ」
ミトラストの声に再起動すると、すぐさま私の前までやってきて跪く。
「お初にお目にかかります、高位なる者よ。わたくしは森の最上位精霊ライセムと申します。お見知りおきを」
そう言って頭を下げる。
私はどう返せばよいものかわからず、ついミトラストの方を見る。
しかしミトラストも彼女の行動に思考停止しているようで固まったままだ。
最上位精霊が、いきなり跪くことがないのだろう。
そんな事よりさっさとこの場を元に戻さなければ。
とりあえず無難に返せばよいか。
「私はネリア・シャルティス・ドリュッセンだ。えーっと、ライセムさん?よろしく」
そう私が言えば、ライセムは顔を上げた。
そしてこう請願してきた。
「ネリア様。どうかわたくしの名前に敬称は不要でございます。ライセムとお呼びください」
これは多分、上位者スキルが影響しているようだ。
スキルの方は特に必要以上に効力は発揮してはいないようだが、とりあえず抑え込む。
「えーっと、ライセム?私にも様付けは良いんだけど」
「いえ、そんな恐れ多いことはできません」
あれ?普通なら抑え込めば態度が変わるはずなんだが、さっきと全く様子が変わっていない。
どういうことかわからず考えていると、ようやくミトラストが復帰してきた。
「あー、ネリアちゃん?もしかして概念系のスキルを持っておらんかのう?」
「はい。持っていますが、それが何か?」
「多分じゃが、そのスキルを所持している限り、態度は変わらんと思うぞ」
「そうなのですか?」
ミトラストによれば、これは精霊の成り立ちが関係しているらしい。
精霊とは、元々この世界に漂うただの魔力に、この世界の住人たちの感情や意思などの影響を受けて誕生する。
そして誕生した精霊は下位精霊と呼ばれるものである。
この下位精霊たちは、ちゃんとした自意識はなく持ち合わせる感情も漠然としたものである。
そして、そんな下位精霊が寄り集まって、人格を得たのが中位精霊である。
中位精霊になると集まった下位精霊たちの概念が精霊の性質となる。
そんな中位精霊が、周りの魔力を取り込み、力をつけると高位精霊になる。
このような成り立ちを持つ精霊は、いわば意思を持った魔法のようなものである。
そして、その最高位である最上位精霊は、その性質が一定以上を上回ると誕生するのだが、その時に下位の精霊たちとは大きく違うところが出てくる。
この違いが他の精霊と最上位精霊を分ける上で重要となってくる。
その違いは下位の精霊が色々な概念を持つのに対して、最上位精霊はある一定の概念に特化しているという事である。
その為に他の精霊達と比べ物にならない力を持つのだが、逆にその概念に縛られ易いという欠点もある。
この欠点である概念に縛られ易いという事が、今回の事態に繋がるのだ。
「概念に縛られ易い。つまりは概念系のスキルの効果にも縛られ易いという訳だ。ただ一般的なスキル程度では、そう簡単に縛られないじゃがな。という事はかなり特殊なスキルなんじゃろう?」
「そうですね。お婆様によれば準神スキルだそうです」
「ほぉ!準神スキルとな。それならば納得がいくのう」
つまり彼女の態度は多分、変わることがないことになった。
仕方がない。ここは割り切るしかないだろう。
今まで黙っていたライセムに向き直して言葉をかける。
「それじゃ、呼び名はそのままでいいから、出来ればもう少し自然態で居てくれないか?」
「わかりました。それをネリア様がお望みとあらば」
そう言って静かにうなずいてくれた。
「ところでライセムよ。普段は滅多に来ぬお主が儂のところに来るとは、どのような案件なんじゃ?ただ顔を見に来たわけではあるまい」
「はい。少しお願いしたいことがありましてやって来た次第です」
「それはどのような案件かのう?」
「はい。どうやら森の様子が少しばかりおかしいのです」
「それは一体どういうことじゃ?森の最上位精霊たるお主が、この森の事について曖昧な発言するとは珍しい」
「それが、わたくしにもはっきりしたことが分からないのです。どうやら何かによって私の力が阻害されているようで」
「何じゃと!?それは真か?」
「はい」
それからミトラストは黙り込んでしまう。
本来、森の最上位精霊ならば自分が管轄する森の事なら、目をつむってさえ全ての事が分かるほどなのだが、それが上手くいっていない様子。
私も一度、森全体を万理眼でもって視てみることにした。
だが、これといったものは見当たらない。
なので、視ているモノを切り替え、この森の約100年を振り返ってみる。
それでも特にこれといった異常は見当たらなかった。
そして、今まで黙って考え込んでいたミトラストが考えから戻ってきた。
「ふむ、そうじゃの。わかった。これはかなり問題になりそうじゃ。仕方がないが、ネリアちゃん達は一度戻った方が良いじゃろう。もしものことがあると大変じゃしな」
「分かりましたわ。それじゃ懇談はここでお開きという事にしますわね」
という事でミトラストとの会談はここで終了となった。
私達はミトラストに今までのお礼を言うと再び魔導車に乗り込み、王城へと戻ったのだった。
それから翌日、王城内部は非常に騒がしいことになっていた。
あれから王城に戻ったミランダは私達と別れた後、国王に今回の事について報告しに行った。
それが国王に伝えられると、緊急会議が開かれた。
緊急会議では、もしもの場合に備えて色々と対策が話し合われたそうだ。
といっても現状、何も判っていない以上あまり詳しいことは決められない為、一度ミトラストと連絡を取り合う事になったそうだが、今日の朝方ミトラスト自身が王城へとやって来たのだ。
という訳で騒がしい事になっているのだが、来賓である私達には関係ない事の筈であった。
しかし私が朝食をとり終わった頃、まるで見計らったように近衛隊の1人がやって来た。
「ネリア様お時間よろしいでしょうか?」
「大丈夫ですが、何か用ですか?」
「はい、ミトラスト様よりネリア様にも会議に出てほしいとの事です」
どうやらミトラストが私にも会議に参加してほしいらしい。
私も昨日の事は気になっていたので、参加することにした。
近衛に連れられて会議室へと入る。
会議室にはすでに王国の重鎮達と、ミトラストにライセムも揃っていた。
「ネリア様、お寛ぎのところ突然すみませんでした。ミトラスト様がネリア様にも是非、参加してほしいとのことでしたので、お呼びした次第です」
そう言ってきたのは国王のノルマンだった。
「いえ、お気になさらず。私も気になっていたので丁度よかったです」
「そうでしたか。それでは、そちらにお座りください」
ということで、言われた席に私が座ると会議が始まった。
会議は昨日の内容の確認と、ミトラストが私達の帰った後に調査した結果の報告から始まった。
それでミトラストが調査した結果は、異常なしという結果だったらしい。
「という訳での、ネリアちゃんにも調査の協力して欲しいのじゃ」
「それは、どうして私なのですか?」
「それは、ライセムがネリアちゃんなら解決の糸口になるかも知れないと言っていたからじゃ」
そうか彼女は最上位精霊。万理眼も概念系スキルの1つ。
私が彼女の前で森全体に対して使ったから、どういうものか気づいていてもおかしくはない。
それで、私に協力を頼んできたのか。
それならば、この話には乗るべきだろう。
「分かりました。私も協力します」
「おぉ、そうか感謝するのじゃ」
「わたくしからもお礼を申し上げます」
「話は纏まったようだな、それではこれから細かいことについて決めていこうではないか」
そうして会議は調査の細々とした内容決めへと入っていった。
という訳で私は、今回の真相を探る為に森の調査に参加する事になったのだった。




