第38話 エルフの国へ
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誕生日の翌日からの騒動から、はや1カ月。
学院での数少ない授業を終えて、ホームルームへと戻って来ると、私の机の前でミランダが待っていた。
「どうかしたの?」
「えぇ。それで少しばかりお時間を頂けますか?」
「問題無いよ。場所は変えた方がいい?」
「そうですわね。一応、大切なものですから」
「それなら研究室の方で」
そういう事で、場所を私の研究室へと移す。
研究室まで来ると、まずミランダを応接室のソファーに座らせ、私は給湯室でお飲み物の準備をする。
今日用意するのはアイスハーブティー。丁度一昨日いいハーブが手に入って、それを水出しにしておいたものだ。
すぐさま戸棚からティーカップを2つ取り出し、ハーブティーを注ぐ。
それをトレイに乗せ、応接室へと戻り、1つをミランダの前に、もう1つを反対側のテーブルの上に置き、私も座ることにする。
ミランダはひと口、ハーブティーで喉を潤すと、早速本題へと入る。
「早速ですが、ネリアに…いえ、ネリア・シャルティス・ドリュッセン・ジュルダース家騎士爵様にお話がございます」
いつもの口調では無いミランダ。これはこちらもしっかりとした態度でのぞまなくては。
「お話を聞きましょう」
「ありがとう御座いますわ、ネリア」
一礼してから話の続きをする。
「貴殿、ネリア・シャルティス・ドリュッセン様に我が国、マルテリィーア王国国王、ノルマン・マルテリィーア・シャンセンの名代として私、ミランダからお渡しいたしたい物がございます。どうぞお受け取りください」
そう言って1つの封書を取り出す。
高級な紙を使って、随所にエンボス加工の文様まで入れられている。
後ろには差出人であるマルテリィーア王国国王の名が書かれている。
封蝋にはかなり特殊なものが使われていた。
「これはノミネーションシールか。それにしてもかなり特殊なものだな。封印式がかなり複雑に施されている」
「えぇ、特別国書に使われるもので、この式を使用できるのは国王と国王に指名されたものしか扱えないものですの」
「という事は、もしかして私は国賓扱いでも、かなりの貴賓扱いという事かな?」
「そうですわ。何せハイエルフ様ですからね」
「そこまで偉いわけじゃないけどねぇ」
私に対してはやけに行き過ぎだとは思いもしたが、国が違えば文化も違うのだから、こればかりは仕方が無いだろう。
ということで封書の封印を解いていく。ノミネーションシールは指定された人物にしか封が開けられないようにした特殊な封印術式だ。
それも今回使われているのは特に精密で高度な魔術である。
封蝋に使われているのもミスリルを含ませたものでかなり高級な物である。
封蝋に手を置き、魔力を込める
「解」
封蝋が光り、パキっという小さな音とともに割れる。
封の空いた封筒から中身を取り出し、素早く読む。
内容としては在り来りなもので、初めは季節の挨拶から入り、何やら私のやって来た内容が、かなり修飾されて書かれていた。
最後まで読み通し、手紙を入れなおす。
「用件は分かった。せっかくご招待もされたので行かせてもらいます。それに少し用事もあったしね」
「わかりましたわ。すぐに本国に返事をしておきますわね。それで用事とは何ですの?」
「ちょっとね。自分の事で知る必要があったから」
「そうですか。何か手伝う事がありましたら遠慮なくおしゃってください。お手伝いしたしますわ」
「わかった。その時はお願いするね」
それから迎えの日程などを話し合ってからミランダとは別れた。
エルフの国マルテリィーア王国からの招待を受けてから約3週間たった頃。
私はマルテリィーア王国へと行く日になっていた。
朝からミセルが私にこの日にふさわしいものと選んできた服へと着替えさせられている。
白を基調とした半袖のサマードレスに所々、金の刺繍が施され、さらに服自体に体温調整の魔法も付与されている。
魔法付与の物はその性質上、かけられた魔法が途切れることの無いように、強力な概念固定化魔法がかけられ、更に付与された魔法に魔力が流れるようにするために、魔力伝導の高い生地が使われている。
更によく見ると、刺繍自体が魔術式になっている。
ここまで手の込んだ物は中々お目にかかれない。更にこのような服は後数回ほど着ればサイズの問題で着れなくなる。
ある意味とんでもない贅沢だが、これも貴族社会。舐められたらそこで終わりなのだから。
という訳で、ちょっとおっかなびっくりしながら袖を通す。
サラサラとした肌触りで着心地は最高である。
「ぴったりですね。頑張った甲斐がございます」
そう言いながら、手は休めず準備していくミセル。
次に取り出したのは白いレース生地の手袋である。
「これは?」
「はい。ドルク糸を使ったレースの防御手袋です」
「ドルク糸?それはまた高い物を」
ドルク糸は大陸北に生息する蜘蛛の魔虫である、ドルクゲイアから採れる糸であるが、生産量が少なく、あまり出回らないのでかなりの高級品である。
手渡された手袋は、時折光を反射してキラキラしている。
やっぱり身に付けるのがもったいないように感じる。でもミセルが今日の為に用意してくれたものだ。着けなければ彼女に悪い。
手渡された手袋を身に着ける。
すべての身支度が出来たら、部屋に置かれている姿見の前に立ち、全身を確かめる。
「問題は無いね」
「はい。とても美しいですよ、ネリア様」
全体的に白一色であるが、所々に入る金の刺繍が華やかである。
いつもは、こういう白色系より暗色系の衣服を着ている事が多いので、こういうのは新鮮である。
なんだか自分で無いような感じがする。 そして以外にもかなりの似合っているものである。
「ん、そうか。ありがとう。それじゃ、そろそろ時間だから行くか」
「はい。ネリア様」
そろそろ迎えが来る時間になるので食堂の方へと向かう。
食堂の方では両親が待っていた。
「ネリア。綺麗ではないか。普段のアレだとは思われないな」
「父上」
「ん?あ!いや。その、なんだ、いつもと違って良いっていう事だ。他意はない」
「そうですか。それでは帰ってから少しお話があるのですが、いいですよね」
「あ、は、はい」
たく、自分の娘の事を何だと思っているのだろうか。
いや、多少なりと思い当たる節は有るが、それでも面と向かってアレとは親子でも失礼である。
とにかく、父の事はほっといてとりあえずは、迎えが来るまでは、ここで待っていることになる。
10分くらいだろうか。玄関の方が騒がしくなってきた。
迎えが到着したらしい。
「お嬢様。マルテリィーア王国代表団の方がお目見えになりました」
「わかった。すぐ向かう」
玄関まで赴くと、そこにはずらーっと、同じ服装の人たちが並んでいた。
その集団の先頭に赤いドレスに身を包んだミランダが居た。
「おはようございますわ、ネリア」
「あぁ。おはようミランダ」
「それでは、外に車を待たせいますので、早速参りましょうか」
私はミランダのエスコートを受けて、表へと出る。
玄関には3台の車両が用意されていた。
「これ、最新の車両なんじゃない?」
「わかります?えぇ、今回のために新調しました貴賓用魔導車ですわ。魔導機関は最新の魔力吸収圧縮方式を採用したミーツデッヒィ社の物を搭載しているんですわ」
「へぇ~」
少し万理眼で覗いてみると、私が提供している術式を使ったものだった。
こんなところで自分の売り出しているものが使われているところを見ると、何か感慨深いものがある。
「それにこの車両は、足回りにもお金をかけてますのよ」
「へぇ~」
「それで…、あっ!失礼しましたわ。つい熱くなってしまって」
「いや。ミランダの事を知れてよかったさ。それにしても意外な趣味だね」
「そうですわね。姫としての趣味としてはあり得ないんですが、こう、何か心に来るものがありまして、やめられないんですわ」
確かに女の子の趣味ではないな。
でも前世でもこういった男の子ぽい子はいるんだし、いいんじゃないだろうか。
「そうか。まぁ、趣味は趣味なんだから、周りに迷惑が掛からないんだったらそれでもいいじゃない」
「ありがとうですわ、ネリア。それじゃそろそろ出発しましょうか」
という事で、ミランダの趣味前回の魔導車に乗って、エルフの国マルテリィーア王国へと向かうことになった。
乗車するのは真ん中の車両だ。残り2両は、護衛の車両らしい。
中央の車両が豪華な見た目に対し、前後を挟む車両は、中央の車両よりは控えめな装飾である。
そして造りが角ばっており、武骨な印象を与える。ここは護衛の車両だから仕方がないのだろう。
「どうぞお手を」
「ありがとう」
運転士に手を持ってもらって、車内へと入る。
中もかなり豪華なつくりをしている。
外とはうって変わって、内装は木目を基調とした落ち着いた感じに仕上がっている。
外側のきらめく白い印象から、中も同じようになっているのではないかと思っていたが違ったようだ。
話によれば、長時間いてもいいような、落ち着いた感じの内装にしたそうだ。
座席は程よい感じにスプリングが入っており、これなら長時間座っていても問題なさそうだ。
「しっかりやるのだぞ」
「土産話でもお願いね」
「わかりました父上、母上。それでは行ってまいります」
『行ってらっしゃいませ』
こうして屋敷の一堂に見送られて、私たちは一路エルフの国マルテリィーア王国へと旅立った。
マルテリィーア王国までは魔導車を利用して4日ほどかかる。
最初に停泊したのはミドルテッシモ王国の西部で一番の大きな都市である、ミラコスティアである。
ここはミドルテッシモ王国随一の商業都市である。
かなり賑やかな場所で、夕方になっても活気が衰えていない。
そんな都市をミランダとミセルと一緒に見て周った。
そして、2日目に立ち寄った街はミドルテッシモ王国とマルテリィーア王国の国境の街、ミストルティア。
ここは国境の街とだけあって、色々な交易品の露店が立ち並んでいる。
ここで私は2人に似合う、アクセサリーを買ってあげた。
そして次に立ち寄ったのはマルテリィーア王国王都の1つ前である大森林都市ハルストールである。
ただ、ここから王都は魔導車で行けばその日のうちにいける距離にある。
しかし、そうしてしまうと夜遅くになってしまうため、この日はハルストールで1夜を過ごすことになった。
「それに、このハルストールは一般的な、この国の様式の建物が多くあるので、この国が初めてなネリアにはちょうど良いと思いましてので」
とのことだった。
そうして4日目の昼頃、私たちはマルテリィーア王国王都エルフンガンドへと到着したのだった。




