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翠の通仙青春譚  作者: kae「王子が空気読まなすぎる」発売中
三章 演舞

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第25話 意外な結果

 演舞の授業最終日、全員の舞が順番に披露されていく。

 私と梓翔(ししょう)の演舞は特に失敗もなく、無難に終わった。

 演舞が終わった時、少しだけ、何人かが拍手をしてくれた。


 何度も授業を受けている上級生や、武術経験者たちの演舞に比べれば大したことがなかっただろうけれど、できるかぎりのことをした満足感があった。

 元々武術未経験者で、武術の単位を初年度からとれる人は稀なのだそうだ。



 蒼蘭(そうらん)俊華(しゅんか)の演舞は、一番最後だった。

 順番がくると皆が待ち望んでいたというように、姿勢を正して見守る。



 二人はまるで一つの生き物のようだった。

 誰よりも難しい振りを踊っているのに、誰よりも軽やかで、楽しそうに舞う。

 色とりどりの豪華絢爛な衣裳が目を楽しませてくれた。

 全く同じ動きをすることもあれば、左右対称だったり、そしてバラバラに動いているように見えても、それでも二人で同じ舞を踊っていることがなぜか分かる。

 そして要所要所で二人が見せる、高難度の武術の型が素晴らしい。


 二人とも身体能力が高いこともあるけれど、この振り付けを考えた俊華は本物の天才だと思った。


 ずっと見ていたいと思わせる演舞は、しかしあっという間に終わってしまう。

 舞い終わっても二人の来ている服の裾が、完全に動かなくなるまで、道場中の者達が息を止めて見つめていた。



 ――格好いいなー、性格最悪なのに。


 どうしてあれほど綺麗に舞う人の性格が、あんなに最悪なんだろう。

 もったいないなと思った。



「よし。全員終わったな。免状をやるかどうかは、他の授業態度なども加味して後日発表するが……()俊華(しゅんか)!」

「はい! なんでしょう。青海(せいかい)先生」

「前へ出ろ」

「はい!!」



 青海先生に特別に名前を呼ばれた俊華が、嬉しそうに、頬を上気させて、先生の前へと歩み出た。


「お前の結果は後日まで考える必要もない。明白なので、今発表する」

「はい!」


 誰の目から見ても、俊華が合格なことは分かり切っていた。

 演舞でも、武術でも、ぶっちぎりの成績だったのだ。

 蒼蘭の場合は身体能力がものすごく高い(人虎であることを知っているのは私だけだけど)ので好成績を収めていたけれど、俊華の場合は更にそれに加え、ありとあらゆる武術に精通していた。


 道場中が、期待に湧く。

 特に俊華の取り巻き連中が、「スゲーぜ俊華!」などと嬉しそうに掛け声を送っていた。





「お前は落第だ」

「……………………え?」



 そう聞き返したのは俊華だろうか、それとも他の誰かだろうか。

 生徒全員の疑問の声だったのかもしれない。


「お前は演舞の授業の最初の頃、素人の(すい)を相方に指名し、無理な振り付けを強制し、怪我をさせたな?」

「そ……それは! 翠の実力に合わない振り付けを考えてしまったのは悪かったと思っていて、反省しており……」

「俺を見くびるなよ。お前わざと振り付けと違う動きをして、翠にぶつかりにいっただろう。見れば分かんだよ」

「違います! 間違えたのは翠のほう……」

「だから見れば分かるっつってんだろ! 俺を誰だと思ってんだ!!」

「…………」


 青海先生の啖呵に、俊華は青い顔をして黙り込んでしまった。

 今にも泣きそうで、少し震えているようにすら見える。


「そんな、僕青海先生に憧れて……」

「俊華。生徒同士は競争相手とはいえ、卒業して役職につけば一緒に働く仲間でもある。お前みたいに誰かを蹴落とす奴がいると、組織の和が乱れる。皆が疑心暗鬼になり、連帯感がなくなり、弱体化する。正直に言おう、俺はお前のような奴を自分の隊に入れたいとは思わない」

「……」


 もはや俊華は俯いて震えることしかできていないようだった。

 演技ではない。本当に途方に暮れているように、項垂れていた。


「隊どころか官吏になるのも反対だな。お前の心が誰かと入れ替わりでもしない限り、今後俺の武術の授業の免状はとれると思うな。武術の授業は必修だからな、俺がいる限り、お前は永遠に大学を卒業できない、官吏になれない。自主退学をおすすめする」



 ――青海先生厳しい。削氷様のように。これが仙人、国を預かる官吏の姿なのか。


「出て行っていいぞ」


 青海先生のその言葉に、俊華は弾かれたように道場を走り出ていった。

下を向いていたので、どんな表情をしていたかは分からない。


「成績発表の前に、総評だ。今年はリタイアが多かったなー。あいつらの演舞がすごすぎたからだろうが。……なーに勘違いしてんだか。この授業の目的は、一番になることじゃない。鍛錬を積むことだ。もしも今年免状を取れても、取れなくても、これからずっと鍛錬を積み続けるんだよ、お前たちは」


 言われてみればその通りだった。ギリギリ免状を取れたからといって、まさか卒業まで武術の鍛錬を休むなんてことはありえない。


「だからリタイアした連中に言っておけ。リタイアして、今何してんだ? まさか今年度の武術の単位を諦めたから、今年度の鍛錬を休んでんのか? ってな。……続けろ。受かっても、落ちても。素人が武術の免状取れるまでの期間は、平均で三年かかる。しかし大学を三年間で卒業できるような天才はそうそういない。どうせ卒業するまでずっと、武術の鍛錬は続けるんだよ。分かったか」


「「「はい!」」」

「よし。残った奴らの出来は、例年より良かったぞ。頑張って鍛錬したな」

「「「ありがとうございます!」」」


 全体にかけられた言葉だったけど、青海先生のその言葉がとても嬉しかった。






 後日、蒼蘭は当然免状を貰えて、私と梓翔はもらえなかった。

 だけど青海先生に「未経験からここまで、よく頑張ったな。あと一息だ。来年また楽しみにしている」って言ってもらえた。


 落ちたのは残念だけど、あまり気にしないことにする。

 もしも今免状を貰えていても、来年も、再来年も武術の鍛錬を積んでいくことには、変わりがないのだから。






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