第76話 決着の時
それは、ジゼルが魔導スマートフォン零号(以下零号)内に住み着いてから、少し経った頃のことだった。
「まぁ。中々面白いものがいっぱいあるわぁ!」
その頃のジゼルは、零号内にデータとして保存されていた、地球の「漫画」を読んでいた。神々によって改造されたからなのか、あるいは魔導具として生まれ変わったからなのか、書かれていた文字が読めるようになっていたので、普通に楽しむことが出来ていた。
数多くの漫画があったが、その中でも特に気に入ったのが、「侍」が登場するタイプの漫画だった。
「うーん。この「居合い切り」ていう技、カッコいいんだけど、実戦でやるとなると難しいんじゃないかしら? ああ、そういえば、春風様が持っているあの剣も、なんだかこれと似たような形状のような気もするけど……」
その後、ジゼルは少しの間考えたが、
「まさかね。いくら春風様でも、流石にこれを実戦でやったりはしないでしょう」
と、この時のジゼルは笑いながらそう考えていた。
そして、現在。
「いけません春風様ぁ!」
零号内でそう叫ぶジゼルをよそに、春風は目の前で大技を放とうとしている断罪官のウォーレンに向かって、「居合い切り」の構えをとっていた。
それを見て、ウォーレンは問うた。
「ほう、その構え。貴様、まさか次の一撃で私を斬るつもりか?」
春風は真っ直ぐウォーレンを見つめたまま、何も答えなかった。答えなかったが、その瞳は「そうだ」と言っていた。
ウォーレンは一言「そうか」と言うと、
「よかろう! この断罪官大隊長ウォーレン・アークライトと、我が剣「聖剣スパークル」を、斬れるものなら斬ってみろ!」
そう叫ぶと、ウォーレンはさらに持っている長剣ーー聖剣スパークルに力を注いだ。その所為か、剣から発する光がさらに強くなっていた。
その様子に、結界内のアリシア達は、
「な、何だ? 何をしているんだ彼は?」
「まさか、真っ向からあれに挑む気なのか?」
「そ、そんなの、無茶だよぉ」
と、目の前の光景を呆然と見ていた。
さらに、ルークから手当てを受けた隊員達が呟く。
「あいつ、終わったな」
「ああ、大隊長の「あの大技」をくらって、生きてる奴なんていなかったよなぁ」
それを聞いて、アリシアの頭の中で最悪のイメージが浮かび、
「だ、駄目だ! 逃げろ! 逃げてくれぇ!」
春風に向かって叫んでいた。
だが、春風は前を向いたまま、一歩も動こうとしない。
「頼むから……逃げてぇ!」
「オイ! ふざけんなよ! 俺達のことはいいから、逃げろぉ!」
『おねにーちゃあん!』
口調が変わっていたアリシアだけじゃなく、アデルや子供達も、春風に向かって叫んでいた。
だがそれでも、春風は一向に動かない。
少し離れた位置では、
「うぅ、は、ハル?」
痛みに耐えながら、リアナは必死で起き上がろうとしていたが、顔を上げるのがやっとだった。
「お願いです春風様、お逃げください!」
零号内では、今もジゼルが必死に春風に逃げろと言っていた。
そんな春風の心の中では、
(わかってますジゼルさん。俺がやろうとしていることが、どれだけ無茶なのかってことが。[抜刀術]や[心技体]で補正がかかってるっていっても、こうして実際にやってみると、結構怖いんですよ、ホントに。俺だって、成功するかわからなくて、すごく不安なんですから。だけど……)
「『逃げない』って決めましたから。『絶対に勝つ』って、『勝って生き残る』って決めましたから!」
春風がそう口に出して叫んだ次の瞬間、
「行くぞぉ!」
ウォーレンが両手でスパークルを握り、春風に向かって突進した。
(ああ、来たな。うん、やっぱ怖えな)
と、春風がそう感じた、まさにその時、
ーー大丈夫です。貴方なら、きっと勝てます。
不意にそう声が聞こえたと同時に、何やら温かいものに包まれていくような感じがした。
春風はチラリとその声の主がいると思った方を見ると、そこにいたのは、
(ああ、そうか。そういうことか)
その後、春風はボソリと呟いた。
「ありがとう」
そして、視線を目の前に戻すと、既にウォーレンがすぐ近くまで迫っていた。
ウォーレンはスパークルを大きく振り上げて、
「神聖剣奥義、『聖光轟雷斬』!」
と、技名を叫ぶと、眩い光を纏った刃を、春風に向かって振り下ろした。それは、まさに天から落ちる稲妻の様だった。
だが、春風の目に、最早迷いはなかった。
「ぶった斬れ、彼岸花ぁっ!」
春風はそう叫んで、勢いよく彼岸花を抜いた。
その時、春風の思いが通じたのか、抜き放たれた彼岸花の真っ赤な刀身は、さらに赤く染まっていた。
眩い光を放つスパークルと、真紅に染まった彼岸花がぶつかる。
その結果……。
バキィン!
「なっ!?」
スパークルは、真っ二つに折れた。
対して、彼岸花は、無傷だった。
スパークルが折れた事で、一瞬呆然となったウォーレン。
『だ、大隊長、前を!』
隊員達の叫びにハッとなったウォーレンが前を向くと、
(だ、誰だ?)
そこには、真紅の刀身を持つ剣を振りかぶった、真っ赤な長髪と燃え盛る右目を持つ女性がいたのだが、すぐにそれは、春風に戻った。
「俺の勝ちだぁあああああ!」
その叫びと共に、春風は彼岸花を振り下ろし、ウォーレンを斬り裂いた。




