第64話 泥棒現る?
お待たせしました。1日遅れと同時に、今年最後の投稿です。
(ね、眠い……)
結局、一晩中眠れなかった春風は、眠そうな表情のまま自室を出て食堂に向かった。
(今のこんな俺の姿を見て、きっと今頃アマテラス様達は大笑いしてるだろうなぁ)
大きく盛大に溜め息を吐きながらそんな事を考えていると、食堂から何やら騒がしい声が聞こえた。
(ん? 何だ?)
中に入ってみると、厨房の方に人集りが出来ていたので、「何だろう?」と近づくと、
「あ、ハル君!」
と、オーナーの娘のシェリルが、春風に気づいて駆け寄ってきた。
「おはようございます、シェリルさん。あの、これ一体何があったんですか?」
挨拶をしながら春風がそう尋ねると、シェリルは慌てた様子で、
「泥棒よ! 泥棒に入られたの!」
と答えた。
「泥棒?」
どういう事だと思った春風は、人混みを掻き分けて厨房の中を見ると、
「うわっ! 何だこれ!?」
それは、まさに酷い有様だった。鍋やフライ返しなどの調理器具が全て床に散らばっていて、パンだけでなく肉や野菜まで殆どが持ち去られていた。
「一体、何でこんな事に……」
あまりの惨状に呆然とする春風に、シェリルが話しかける。
「それに、盗まれたのはパンとかだけじゃないの」
「え、どういう事ですか?」
春風が力無く尋ねると、シェリルの後ろから料理人のディランがヌッと現れて、
「……料理まで、盗まれた」
「うぉっ! お、おはようございますディランさん! すっごく元気なさそうですけど……って、『料理まで』って?」
ディランは悲しみに満ちた表情で答える。
「……特製モーニングスープ」
「なっ!?」
「……鍋、丸ごと」
「何だってぇえええええええっ!?」
春風はディランの言葉に激しくショックを受けると、その場に膝から崩れ落ちた。
宿屋「白い風見鶏」の料理人、ディラン・バークリーの「特製モーニングスープ」。
それは、この白い風見鶏の食堂が誇る人気のモーニングメニューである。
一口食べればどんな疲れや暗い気持ちも一発で吹き飛ばし、たちまち元気にしてしまうという。
春風自身もハンターとしての仕事を始めたばかりの時は、このスープに大変お世話になっており、今ではすっかり大好物になっていた。
しかし今回、そのスープが鍋ごと盗まれたというのだから、そのショックは計り知れないものになっていた。
「そ、そんな。あのスープを飲んで、元気をチャージしようって思ってたのに……」
小声でそう呟く春風。その表情は、もはや絶望に染まっていた。
「ハ、ハル君……」
シェリルはそんな春風を心配そうに見つめている。
「……許さない」
それから少し時が経つと、春風はゆっくりと立ち上がりながら、ディランに向かって口を開いた。
「ディランさん」
「……何だ?」
「ギルドに依頼をしてください。俺、引き受けますので」
春風のその言葉に不穏な空気を感じたのか、シェリルが恐る恐る春風に尋ねる。
「ハル君、な、何をする気なの?」
「決まっているでしょう」
春風はニヤリ口を吊り上げて答える。
「人様の食べ物盗む様なドカスなド腐レド外道の泥棒さんを、とっ捕まえて生きたまま『地獄』に落としてやるんですよぉ!」
「ヒ、ヒィイっ!」
そう答えた春風に、思わず悲鳴を上げたシェリル。それはそうだろう、答えた春風の顔は笑っていたが、その瞳には犯人対する尋常でない「憎しみ」と、「狂気」が宿っていたのだから。
食い物の恨み。それは、時に人を「修羅」にしてしまう恐ろしいものである。
そして今、可憐な少女を思わせる顔立ちを持つ春風(本人は嫌がっている)は、まさにその「修羅」になろうとしていた。
そんな状態の春風を見たシェリルは、後にこう語る。
「あれは間違いなく、『狂気』に身を堕とした女の顔だった」
と……。
これで、今年の投稿は終了です。来年もどんどん投稿していきますので、これからもよろしくお願いします。




