第525話 失われた「信仰心」
前回は少し短めの話でしたので、今回は少し長めの話です。
もう神々への信仰心はない。
そう言ったモーゼスに、誰1人何も言葉を発することが出来ないでいる中、最初に口を開いたのは、
「ど、どういうことですかモーゼス教主様!」
セイクリア王国第1王女のクラリッサだった。
その声に春風達がギョッとすると、クラリッサはモーゼスに近づき、
「あなたは誰よりも、神々への信仰心が大きかったではありませんか! そんなあなたが、どうして!?」
と、問い詰めた。
その後、若干興奮気味のクラリッサを、翔輝が「落ち着いてください」と宥める中、
「で、いつから信仰心がなくなったんだ?」
と、ループスがモーゼスにそう尋ねると、
「……そうですね。決定的な原因は、ウォーリス帝国で直に『地球』の神々に会った時、でしょうか」
と、モーゼスは表情を暗くしながら答えたので、
「それってもしかして、僕と春風と海神さんが力石君達と戦った『あの時』ですか?」
と、「あ!」と思い出したかのような表情で水音がモーゼスに尋ねた。
その問いに対し、モーゼスはコクリと頷いて、
「そうだ、『青き悪魔』水音よ。あの時、私は本物の『神』の怒りに触れた。その瞬間、私の中にある五神への信仰心は、跡形もなく消え去ったのだ」
と答えた。
その答えを聞いて、
「『決定的な』と言いましたね? では、それ以前から信仰心は揺らいでいたのですか?」
と、今度はヘリアテスがそう質問してきたので、モーゼスは再びコクリ頷いて、
「……ええ、揺らぎ始めたのは、ウォーリス帝国で行われた『青き悪魔』水音と、『賢者』春風の『決闘』の時からで、もっと古い記憶ですと……」
と答えると、視線を春風に向けて、
「『賢者』春風よ、『勇者召喚』が行われたあの日、お前は言ったな? 『自分が信じてるのは故郷の世界の神々だけだ』と」
「……ああ、言った」
「あの言葉を聞いた時、私の中で小さな疑問が生まれたのだ。『この世界の神々に選ばれた勇者でありながら、何故この世界ではなく故郷の世界の神々だけを信じてるのだ?』とな」
「……」
「その疑問生まれた瞬間、私の信仰心に小さな『影』が出来てしまった。そう、神々に対する『疑念』だ。だがそれを認めてしまえば、これまで私が抱いていた神々に対する想いを否定することになってしまう。だから私は、お前を『許さない』と思うことで、その『疑念』を心の奥底に封じ込めた。しかし、あの決闘があった日、女神マール様がお前によって潰された瞬間、封じ込めた疑念がまた浮かび上がってしまったのだ。何とかしなければと思った私は、お前を味方につけようとウォーリス帝国を訪れたが、結果は失敗に終わり、ならば次はルイーズらに暗殺を命じたが、こちらも失敗に終わった。そして、その所為で『疑念』が大きくなり、反対に信仰心が小さくなっていった時、地球……異世界の神々の怒りに触れて、私の信仰心は完全になくなってしまったのだ。まぁそれでも、ウォーリス帝国からこちらに戻った後も、そのことは絶対に認めようとはしなかったがな」
「……その時に、連中に『天使』にされた、と?」
「ああ、そうだ。絶望して生きる気力をなくしていた私の前に『神』が現れて、私は彼らによって『天使』として生まれ変わった……のだが、な」
『?』
「残念なことに、『天使』になっても……私の信仰心はなくなったままだったよ」
モーゼスはそう言うと、「ハハハ」と小さな声で笑ったが、その表情は酷く「悲しみ」に満ちていた。
するとここで、
「ちょっと待てモーゼス。それじゃあお前は、何の為にここまでのことをやったんだ? ウィルフレッド王達を『処刑』するなんて言っただけじゃなく、『勇者』達を操って春風達にけしかけるなんて。もうお前には、奴らへの信仰心はない筈だろ?」
と、ループスが「あれ?」と言わんばかりの表情でモーゼスに尋ねた。
すると、モーゼスはまた表情を暗くして答える。
「……仰る通り、私にはもう彼らへの信仰心はありません。だからといって、幸村春風やギルバートへの「怒り」も「憎しみ」もありません。もっと言えば、『生きる目的』もありませんよ。ですから私は……この世から消えようと思ったのです。『賢者』春風の手によって……」
そう答えた瞬間、それまで黙ってたリアナが「ちょっと待って」と一歩前に出て、
「『この世から』って、それって『死のうとした』ってこと? ここまでのことをした理由って、『ハルを倒したいから』じゃなくって、『ハルに倒されたいから』ってこと!? 自分が死ぬ為だけに、ハルを利用しようとしたってことなの!?」
と、モーゼスに向かってそう問い詰めた。
その問いに対して、モーゼスは答えることなく、ただ、無言で顔を下に向けた。
それはまさに、「イエス」という意思表示だと理解すると、
「ふ、ふざけるなぁあっ!」
と、怒った翔輝がモーゼスに掴みかかろうとしたが、水音によって止められた。
しかし、
「ふざけるなよこの野郎! そんな理由で、クラリッサ様とイブリーヌ様に酷いことしたのか!? そんなことの為に、ウィルフレッド陛下達を殺そうとしたのか!? クラスのみんなに酷いことをしたというのか!? ええ!?」
と、水音に止められながらも、翔輝はモーゼスに向かってそう怒鳴り散らした。
怒鳴られたモーゼスは顔を下に向けたまま、
「……そうだ、『勇者』翔輝よ。許せないと思うなら、一生許さなくていい。それだけのことを、私はしたのだから」
と言うと、ゆっくりと顔を上げて春風を見て、
「さぁ、『賢者』春風よ。見ての通り私にはもう、戦う力は残ってはいない。あとはその剣か、その『悪魔』の力をもって……私に、トドメをさしてくれ」
と、頼み込んだ。
その『願い』を聞いて、
「……っ」
と、春風が何か言おうとした、まさにその時、
「あーあ。くっだらないなぁ」
と、何処からかそういう声が聞こえたあと、モーゼスに向かって一筋の『光』が放たれた。




