第509話 「前原翔輝」という少年
前原翔輝、17歳。
ごく普通の家庭に生まれた彼には、優秀な兄と妹がいる。
兄の英次はずば抜けた運動神経を誇り、サッカー、バスケ、陸上と、あらゆるスポーツでその才能を発揮している。
妹の千智は優れた芸術的センスを持ち、彫刻や絵画など、様々な部門で幾つもの賞を取っていた。
ところが、間に生まれた翔輝はというと、この2人のような優れた才能を持っていなかった。
とはいっても、全くの無能というわけではない。勉強、運動、その他の分野と、どれもそつなくこなせるだけじゃなく、努力すればもっと上までいける方だった。
しかし、世間の目は優秀すぎる兄と妹に向けられるだけで、翔輝には全く見向きせず、寧ろ努力すればするほど、2人との距離がどんどん遠くなっていき、いつしか、
「あいつは兄と妹にくっついてるだけ」
「才能ないくせに2人にしがみついてみっともない」
などと言われるようになり、しまいには、
「あいつが表舞台にいるのは兄と妹のおかげ」
「自分が偉くなる為に兄妹の名声を利用している」
と、悪い噂が立つようになった。
「違う! 僕はそんなつもりじゃないのに!」
当然、これには翔輝も深く傷ついた。当然だろう、翔輝はただ尊敬する兄と妹に恥じないように努力してきただなのに、それをわかってもらえないだけじゃなく、ここまで酷いことを言われたのだから。
そんな翔輝を、
「大丈夫、翔輝には翔輝にしかない良さがある」
「そうよ、たとえ周りが認めなくても、私達は貴方も凄いんだってわかってるから」
と、両親は優しく慰めた。当然、兄・英次と妹・千智も、「大丈夫」と翔輝を優しく慰めた。
だが、翔輝本人はというと、
「ありがとう」
と、口では彼らに感謝しているが、心の中では、
(やめてよ! そんな風に言われたら、余計僕が惨めになっちゃうじゃないか!)
と、両親や兄妹に対して、激しい怒りの感情が渦巻いていた。
それからも、翔輝は表面上は優等生として振る舞っているが、
(今に見てろよ、絶対に兄さんや千智に負けないくらいの名誉を手に入れてやる!)
と、強い野心を抱いていた。
そして、高校2年生になって暫くした運命のあの日、遂にそのチャンスがやってきた。
そう、担任教師の小夜子とクラスメイト全員が、「勇者」としてエルードに召喚された日だ。
今、自分達は「日本」とは別の場所にいて、目の前には、自分達を「勇者」と呼ぶ者達がいる。更に自身のステータスを見ると、そこに記された「職能」こそ「聖騎士」だが、「称号」の欄には確かに「勇者」と記されていて、能力面でも所持している初期スキルも優秀なものが多い。
翔輝は全てを理解した瞬間、
(これだ! これが僕に与えられたチャンスなんだ!)
と、喜びに満ちた表情になり、
(ここで大活躍すれば、僕は兄さんにも千智にも負けない、素晴らしい名誉を手に入れられる!)
と、心の中でそう歓喜した。
そして、国王ウィルフレッドの説明を聞いても尚文句を言う小夜子に向かって、
「わかっていませんね先生。僕達は神様から勇者に相応しい『力』を授かってるんですよ? これで僕達が死ぬ要素が何処にあると言うんですか?」
と、反論した後、
「皆、大丈夫だよ。『勇者』である僕達なら、きっとこの世界を救えるさ。今はレベル1で知らない事が多いけど、頑張って強くなって、一緒に困難を乗り越えて、そして僕達の名をこの世界の歴史に刻もうじゃないか!」
と、翔輝は怯えた表情をしているクラスメイト達を鼓舞した。翔輝自身は元々クラスの中心的な存在だったので、その彼の言葉を聞いて、
「そ、そうか。そうだよな」
「うん、私達なら、出来るよね」
と、クラスメイト達は次第にやる気に満ち溢れ出した。
その様子を見て、
(うんうん、いいぞいいぞ! これで、全てが上手くいく!)
と、翔輝は心の中で更に歓喜した。
ところが、
「あのー、ちょっとよろしいでしょうか?」
(……え?)
クラスメイトの1人が、ウィルフレッドに向かってそう口を開いた。




