第50話 春風、事情を聞いてショックを受ける
食堂でのひと騒動が終わってすぐ、春風は酔っ払いーー本名マーカスから話を聞いた。といっても、その前にマーカスの、
「まさか、アンタの様なお嬢ちゃんに説教されるとは……」
という台詞に「ピキッ」となった春風が
「俺は、男だーっ!」
と叫んで、またひと騒動起こすのだが、それは此処では省いておこう。
それから少しして、マーカスと一緒にカウンター席に座った春風とリアナは、マーカスに何があったのか、話を聞くことにした。
「最初は、小さなことだったんだ」
マーカス曰く、数日前、魔物の討伐中に使用した魔術の威力が、いつもより弱かったというのだ。しかし、魔力自体はちゃんと練れているので、もしかしたら術式が悪い所為だなと、その時は特に気にしなかった。
ところが、それから何度使用しても、魔術が思うように発動することが出来なくなっていた。
自身の調子が悪いわけじゃ無く、術式にも問題は無い。なのに発動出来ないだけじゃ無く、出来たとしても威力がかなり落ちていた。
しかも、それはマーカスだけじゃ無く、他の「魔術師」の職能保持者達も、魔術の発動が出来なくなっていた。
そしてある日、「それ」は起きた。
マーカスの目の前で、マーカスとは別の魔術師が、魔物との戦闘中に魔術を暴発させたのだ。
その魔術師は火属性の魔術を使おうとして、逆に自身が火だるまになってしまったのだ。
その時、マーカスは見た。
魔術師が魔術を発動したその時、目の前に赤い髪をした「子供の幽霊」が、
「使わせない」
と言って、魔術師が発動した火の魔術を奪って、逆に魔術師に当てたのだ。
その後、その「子供の幽霊」は、まるで最初からいなかったかの様に、その場から消えていた。
幸いな事に、その魔術師は軽い火傷だけで命に別状は無かったが、マーカスの心には、「恐怖」が植え付けられた。もし次に魔術を使えば、今度は自分がああなってしまうんじゃないかと思うようになったのだ。
当然、マーカスはこの事を仲間に話したが、
「そんな子供、いなかったぞ」
と、誰一人マーカスの話を信じなかった。
その出来事以来、マーカスは魔術を使うのを恐れる様になり、次第に仕事中にミス連発する様になると、仲間達はマーカスを追放した。
それからマーカスは、仲間に捨てられたショックと、幽霊の恐怖を忘れようとして酒に溺れ、今に至ったという。
「そんな事があったんだ」
マーカスの話を聞いて、リアナは彼を可哀想に思った。
「信じてくれるのか? こんな俺の話を……」
話し終えたマーカスは、いつの間にか目に涙を浮かべていた。
リアナはコクリと頷きながら、
「勿論信じるよ。ねぇ、ハル……ハル?」
と言って、春風の顔を見ると、何故か春風の顔は、サーっと青ざめていた。
春風は顔を青くしたまま、恐る恐るマーカスに尋ねる。
「あの、マーカスさん」
「? 何だ?」
「その、魔術の威力が弱くなったのって、いつからですか?」
「えっと、5日くらい前だったかな」
「そう……ですか。それと、その『幽霊』を見たのって、いつですか?」
「3日前だけど」
その話を聞いて、春風はますます顔を青くした。
「ハル、どうしたの?」
リアナが心配そうに春風に尋ねた。
春風はハッとなった後、首を何度も横に振るって、
「大丈夫、何でもないよ」
と、弱々しい笑顔で答えた。
次に、春風はマーカスを見て、
「お話してくださって、ありがとうございます」
と、同じく弱々しい笑顔で言った。
その後、春風はマーカスに、
「これ、少ないですが話を聞かせてくれたお礼です」
と、所持金から500クルトン渡すと、
「ごめん、部屋に戻るね。あ、お金は後で渡すから」
と、リアナにそう言って、春風は食堂を後にして、自分の部屋に戻った。
その途中、春風はボソリと呟いた。
「どうしよう」
そう呟いた後、春風は心の中で、
(思いっきり、俺が原因じゃねーかぁあああああああ!)
と、悲鳴に似た叫びを上げるのだった。




