第436話 水音編32 「全て」を思い出して……
今回も、いつもより長めの話になります。
「全部、思い出した」
そう言って、大粒の涙を流す水音。その姿は先ほどまでの、幼い水音でも中学時代の水音でもない、正真正銘、17歳である「現在」の水音になっていた。
「「「……」」」
その姿を見て、ループス、分身1号、そして白い水音は何も言えずにいたが、
「えっとぉ、『全部』って何を思い出したんだ?」
と、ループスが口を開いた。ただ、ループス自身は、
(何言ってんだ俺?)
と、自分でも何を言ってるのかわからない様子だったが。
しかし、そんなループスに構わず、水音は答える。
「僕の中にある『鬼の闘気』は、確かに一族の中でも大きいものでしたが、実際には大き過ぎて自分でも制御することが出来ずに、いつも失敗してばかりして周りに迷惑をかけてたんです。小さい時の航士が言ってたセリフ、覚えてますよね?」
水音が出したその質問に対して、ループスが答える。
「……ああ、『力が大きいだけの出来損ない』だったな」
「そうです。自分の力を満足に使えない『出来損ない』で『一族の面汚し』。僕はいつも、影で親族からそんなことを言われてました」
「ひ、酷い……」
「……」
「そして、妹の陽菜の方ですが、陽菜の『力』は大きさこそ他の親族と大差は無いのですが、ある『感情』に反応することによって、その大きさが何倍にも上がるんです」
「ある感情?」
ループスが首を傾げながら尋ねると、水音は表情を暗くして答える。
「強い『怒り』、『悲しみ』、『憎しみ』、『恐怖』、『嫉妬』、そして、『殺意』です。これらの感情に反応すると、陽菜の力は大きくなっていくんです。それも、僕や母さん、爺ちゃんを軽く超えてしまうくらいに」
「それが、お前の爺さんが言ってた、『凶悪過ぎる』の意味ってわけか」
「……はい」
そう返事した水音の表情は、酷く悲しみに満ちていて、それを見た分身1号も、悲しそうな表情になった。
そんな中、今度は白い水音が、何処か申し訳なさそうに尋ねる。
「君にこんなことを訊くのは酷だというのはわかってるけど、つまり親族から『化け物』扱いされてたのは、君じゃなくて妹さんだったんだね?」
その質問に対し、水音は「それは……」と答えるのを躊躇ったが、やがて意を決したように答える。
「……ああ。既に何人もの親族や一般人が陽菜の力にやられてて、その所為で陽菜はずっと周りから『化け物』として恐れられるようになったんだ」
「それは、本人も辛かったんじゃないのかな?」
「ああ、ただでさえ気弱で引っ込み思案な陽菜は、周りからそう言われていくうちに、どんどん力を使うことに臆病になっていったんだ」
「そう……だったのか」
「だから、僕は強くなりたかったんだ。陽菜がちゃんと真っ直ぐ前を見て、勇気を出して歩けるようになるまで、僕が陽菜を守らないとって、ずっと思ってたところに、父さんが……」
ーー水音、『力』を使うことが辛いなら、いっそ使うのをやめたらどうだ?
ーー使うのを、やめる?
ーーああ。周りどころか水音自身も幸せに出来ない『力』なんて、あってもなくてもいっしょだろ? だったら『他の方法』で強くなればいいんじゃないか?
「その会話が終わってから、僕は力を扱う為の訓練を最小限にして、それ以外は父さんから様々な武術を習いつつ、学生として勉強に励んだんだ」
「で、その甲斐あって武術の大会で優勝したんだな?」
「そうです。前にも言いましたが、最初は予選上位に入ることすら出来なくて、それが悔しくって頑張って、漸く優勝したんです。おかげで僕は、一部の親族から認められていったんです。しかし……」
「それを、あの従兄弟殿が許さなかった、と?」
「そうです。元々、航士は僕や陽菜よりも優秀で、『鬼の闘気』の扱いもかなり上手くて、その為に一部の親族からは『君こそが桜庭の名を継ぐのに相応しい』と言われてたんです。だから、一部とはいえ親族から認められるようになった僕を目障りに思ったあいつは、3年前、『どちらが桜庭に相応しいか勝負しろ!』って、陽菜を人質にとられて脅されて……」
「あの『出来事』に至ったってことだな?」
「……その通りです」
そう言うと、水音は頭を抱えてその場に膝から崩れ落ちた。
「認めたくなかったんだ。嘘だって思いたかったんだ。陽菜が……大切な妹が、母さんを傷つけたって思いたくなかったんだ。だから僕は、自分の記憶を、心の奥底に封印したんだ」
「その結果、『自分が母を傷つけた』ってことになったんだな?」
と、ループスがそう尋ねると、水音は頭を抱えたままコクリと頷いた。
そして、水音は更に話を続ける。
「あの時、僕がもっとしっかりしてたら、陽菜があんなことにならずに、陽菜が母さんや航士達を傷つけることがなかったんじゃないかって思って、僕は、僕は……」
と、再び大粒の涙を流す水音に、ループスが尋ねる。
「なぁ、水音。お前、どうしたいんだ?」
「どうって?」
「全ての『真実』を知って、お前はどうしたいんだよ?」
そう尋ねてきたループスに対し、水音は「それは……」と言って下を向くと、すぐに顔を上げて答える。
「もう一度、陽菜と話がしたいです」
その答えを聞いて、ループスはニヤリと笑った後、
「だったら、いつまでもこんなところにいちゃ駄目だろ! さぁ立て、桜庭水音! ここから脱出して、あの『天使』を名乗る存在をぶちのめすんだ!」
と、水音に立ち上がるよう促したが、
「ぶ、ぶちのめすって、相手は『天使』を名乗ってるんですよ? そんな相手に、僕の力がどこまで通用するのか……」
と、水音は不安な表情になった。
すると、それまで黙ってた分身1号が水音に近づいて、
「だったら……僕も、一緒に戦うよ。僕だって『神様』に作られた存在だから、きっと何かの役に立つと思う。凄く怖いけど」
と言ってきた。
すると、その言葉に反応したのか、
「なら、僕も共に戦うよ。僕も、『神様』に作られた存在だから、僕もきっと、君の役に立つと思う」
と、白い水音も水音に近づきながらそう言った。
そして、分身1号と白い水音が、水音に向かってスッと自身の手を差し出すと、
「……ありがとう」
と、水音はそうお礼を言って、その手をとって立ち上がった。
次の瞬間、
「「「っ!」」」
水音、分身1号、そして白い水音の体が青く光った。
それを見たループスは、
「おお、こりゃ凄い『奇跡』が起きそうな予感がするぞ!」
と、パァッと表情を明るくした。
その後、水音達はその青い光に包まれた。




