第435話 水音編31 修正される「記憶」
今回は、いつもより長めの話になります。
「「「……」」」
目の前で再現された3年前の出来事の「真相」を見て、ループス、分身1号、白い水音は絶句した。
そして、中学時代の水音はというと、
「そ、そんな。母さんを傷つけたのは、僕じゃなくて……陽菜?」
と、ショックで顔を真っ青にしていた。
無理もないだろう。なにせ、母親を傷つけたのは自分ではなく妹だという事実を、知ってしまったのだから。
そんな中学時代の水音を見て、
「み、水音君……」
と、分身1号が話しかけると、
「そ、そんな……嘘だ……でも……」
と、水音は頭を抱えてブツブツと呟き始めた。
これには分身1号だけでなくループスも不安になって「お、オイ……」と話しかけたが、当然その声も中学時代の水音には届かず、
「う……うあああああああっ!」
と、中学時代の水音は頭を抱えたまま絶叫した。
次の瞬間、パリィンという音と共に、3年前の出来事の景色が崩れた。
「な、なんだなんだ!?」
と、ループスが驚いていると、崩れた景色が別の景色へと変わった。
そこは、ループス達が最初に見た「記憶」、そう、幼い水音が航士達に囲まれていた時の「記憶」の景色だったのだが、1つだけ最初に見た時と異なっていた。
幼い水音の背後に、
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
と、泣きながら震える幼い少女がいたのだ。
「あれは……」
と、ループスが口を開こうとした時、幼い水音達の会話が聞こえたのだ。
「どけよ水音! そいつは人を傷つけたんだぞ!」
幼い航士が、幼い水音の後ろで震えている少女を指差しながらそう怒鳴る。それに対抗するように、
「そのことならもう終わったじゃないか! それに、悪いのは相手の方なんだぞ!」
と、幼い水音も航士に向かってそう怒鳴った。
「こ、こいつ!」
その言葉に逆上したのか、航士の仲間の少年達が水音に襲い掛かろうとしたが、
「来るなぁ!」
と、水音は「鬼の闘気」を解放して少年達を威嚇した。
『うわ!』
突然のことに驚く少年達だったが、
「う……!」
と、幼い水音はすぐに地面に片膝をついた。それと同時に、「鬼の闘気」も幼い水音の中に戻るように消えた。
「お兄ちゃん!」
少女は幼い水音に寄り添い、しっかりと支えようとする。
そんな幼い水音を見て、
「く……。フン! 力が大きいだけの出来損ないが!」
と、航士は口汚く罵ると、少年達と共にその場を後にした。
航士達が去った後、
「お兄ちゃん……」
涙を流してそう言った少女に、
「大丈夫だからね、陽菜」
と、幼い水音は笑顔でその少女ーー陽菜を励ました。
その様子を見て、
「オイ、どうなってんだこりゃあ?」
と、ループスが首を傾げると、白い水音が答えた。
「恐らくですが、水音君が『真実』を知ったのをきっかけに、一部の『記憶』が修正されたのでしょう」
「ってことは、今俺達が見たこれが?」
「ええ、これが水音君の、『本当の記憶』なのでしょう」
白い水音がそう説明し終えたその時、
「あああああああっ!」
という中学時代の水音が絶叫し、それと同時にパリィンという音と共に景色が変わった。
今度は幼い水音が、道場にて祖父・洋次郎と対峙していた時の記憶だった。
よく見ると、幼い水音の背後には、体から青黒い炎を出して、苦しそうにしている幼い陽菜の姿があった。
洋次郎が幼い水音に向かって叫ぶ。
「退くのだ水音! 陽菜はもう駄目だ!」
幼い水音も負けじと洋次郎に向かって叫ぶ。
「嫌だよ爺ちゃん! 陽菜は僕が助けるんだ!」
そう叫んだ後、幼い水音は「鬼の闘気」を解放し、
「陽菜、もう大丈夫。お兄ちゃんが今助けるね」
と、それで苦しんでいる幼い陽菜の体を優しく包んだ。
すると、水音の「鬼の闘気」がスゥッと消えて、それと同時に幼い陽菜の体から出ていた青黒い炎も消えていた。
その後、
「お、お兄ちゃん、うわぁん!」
と、幼い陽菜は幼い水音にしがみついてわんわんと泣き出した。
その様子を見て、
「なるほど、これが2番目に見た『記憶』の真実か」
と、白い水音が納得していると、
「あああああああっ!」
という中学時代の水音の絶叫と共に、また景色が変わった。
今度は幼い水音が、両親と洋次郎の会話を盗み聞きしていた時の記憶だ。
最初に見た時は彼らが何を言ってるのかわからなかったが、今ははっきりと聞こえていた。
部屋の中で、母・清光が洋次郎に話しかける。
「お父さん、水音と陽菜は……」
洋次郎が口を開く。
「駄目だな。水音は力が大き過ぎて制御が上手く出来とらん。かといって陽菜は力が凶悪過ぎる所為か、発動することに対して日に日に臆病になってきておる」
すると、ここで父・優誓が口を開く。
「ですがお義父さん、2人はまだ幼い子供なんですよ。ここで私達大人がサポートしなければ、いずれ水音達は間違いを起こしてしまうのでは?」
そう尋ねた優誓に、清光も「そうね」と言うと、洋次郎は天井を仰ぎ見て、
「大き過ぎる兄と、凶悪過ぎる妹、か……」
と、溜め息を吐くように呟いた。
その後、
「あああああああっ!」
という中学時代の水音の絶叫と共に、また、新たな景色が現れた。
「あ、戻ったみたいだ」
と、ループスがボソリと呟いたように、そこは3年前の出来事の景色だった。
場面は「全て」が終わった後のようで、そこには、
「水音! しっかりするんだ水音!」
必死に水音に呼びかける優誓の姿があった。
それに応えるように、
「あ……父さん?」
と、気がついた水音が口を開いた。
そして、
「あれ? 陽菜に、母さん、と誰?」
目の前で泣きじゃくる陽菜に、その側で倒れている清光と、そんな清光に何かをしている女性(凛依冴)。勿論、倒れている航士達もいたが、水音はそれを無視して陽菜達に近づいた。
「陽菜?」
と、水音が陽菜に話しかけると、
「お、お兄ちゃん、私……」
と、陽菜は泣きじゃくりながら何か言おうとしたが、
「……母さん?」
と、その前に血を流して倒れている清光を見てしまい、
「ま、まさか、僕がやったの?」
と、水音は陽菜に尋ねた。
「僕が、航士達を、母さんを傷つけたの?」
それを聞いた陽菜が、
「ち、ちが……!」
と、「違う」と否定しようとしたが、それを遮るかのように水音は体を震わせて、
「母さんっ! うわあああああああっ!」
と、頭を抱えて絶叫した。
その後、
「うあああああああっ!」
という絶叫と共に景色は変わって、ループス達は元の真っ暗な闇の中に戻った。
「「「……」」」
あまりにも衝撃的な「真実」を知って、ループス達が何も言えないでいると、
「……そうだ、思い出した」
という声がしたので、ループス達は「ん?」と、声がした方へと振り向くと、
「全部、思い出した」
そこには、大粒の涙を流す、現在の水音がいた。




