第420話 水音編16 水音と春風2
「ちょっと本気でいきますけど、気をつけないと……お前、死ぬよ?」
「……へ?」
目の前にいる春風が言った言葉の意味を、水音は理解出来なかった。
「それでは……始め!」
と、凛依冴がそう叫んだ次の瞬間、もの凄いスピードで春風が突進してきて、水音に攻撃を仕掛けてきた。
攻撃手段は、貫手。
狙いは、水音の心臓。
「っ!?」
それに気付いた時、水音はすぐに横に動いて、それを回避した。
(な、何、今のは!?)
突然のことに驚いた水音。しかし、春風は次の攻撃に移った。
貫手の状態をそのままに、体を捻って回転。
その勢いを利用した、手刀。
狙いは、水音の首筋。
「ヒィッ!」
それがわかったのか、水音は急いでその場にしゃがみ込んで回避した。
しかし、それでも春風の攻撃は止まなかった。
避けられたとわかった瞬間、春風は水音の真上にジャンプした。それも、天井に届いてしまうくらいのジャンプだ。
その後、天井の近くで、春風はうずくまるように全身を回転させた。
(あ、あの回転……まさか!)
その瞬間、水音は春風が何をしようとしてるのか理解してしまった。
そう、春風の次の攻撃、それは、回転の勢いを利用した、踵落としだった。
凄まじい勢いに踵落としが、水音に向かって振り下ろされようとしたその時、
「う、うわぁあああああっ!」
と、水音は床を這うように移動してそれを避けた。
その瞬間、激しい振動と共に、ドォンという大きな音が、道場内に響き渡った。春風の踵落としを受けた床の一部が、まるで大きな岩でも落とされたかのように大きく破壊されていた。
「あ……あぁ……」
目の前で起きたあまりの出来事に、水音は立ち上がることが出来ず呆然とした。
そんな状況の中、それまで黙って水音と春風の様子を見ていた妹の陽菜が、
「や、やめて、もうやめてぇ!」
と、水音のもとに駆け寄ろうとした。
その時、
「おっと、そうはさせないよ」
と、既に壁際まで移動していた凛依冴が、懐から何かを取り出した。
それは1枚の紙切れのようで、凛依冴はその紙切れを、まるでナイフを投げるかのようにシュッと陽菜の足下に飛ばした。
すると、紙切れが青白い光を放ち、陽菜、優誓、清光、洋次郎、福世が、その光に包まれた。
「こ、これは!?」
驚いた優誓がその光に触れると、まるで強固な壁に触れたかのような感覚に囚われて、その瞬間、
「まさか、『結界』か!?」
と、優誓達は自分達が「閉じ込められた」と理解させられた。
「と、父さん! 母さん! 陽菜! 爺ちゃん! 婆ちゃん!」
驚く水音だったが、腰が抜けてしまったのか、未だに立ち上がることが出来ずにいた。
すると、
「何処を見ている?」
という春風の声に反応して、ビクッとなった水音はすぐに春風の方を見た。
顔つきこそ可憐な少女のようだが、その表情は最早『無』で、その両目には「あるもの」が感じられた。
それは、「殺す」という明確な意志。
余計な感情など一切ない、純粋な「殺意」だった。
「あ、ああ……あああ……」
水音は恐怖した。
それまで「死んでもいい」と思ってたのに、目の前にいる少女のような顔つきの少年から明確な「殺意」を向けられて、今、水音の心の中は「死への恐怖」でいっぱいになった。
(い、嫌だ……嫌だ!)
恐怖に支配され水音に、春風は一歩一歩近づいた。
「く、来るな……来るな来るな……」
「み、水音! 逃げろ! 逃げるんだ!」
「お兄ちゃん、逃げてぇ!」
と、水音は首を横に振りながら後ろに下がり、優誓と陽菜が一生懸命「逃げろ」と叫んだが、それでも春風は止まらないどころか、近づく速度を少しずつ上げていった。
「あ、ああ、あああああ……」
そして、春風は水音のすぐ側に立つと、
「死ね」
と、強い「殺意」を込めた拳を、水音に向かって突き出した。
すると、
「嫌だぁあああああああ! 殺さないでぇえええええええっ!」
と、水音が叫んだ次の瞬間、水音の全身から青い炎のようなオーラが噴出して、
「っ!」
それが春風を、思いっきり吹っ飛ばした。
春風は咄嗟に両腕を交差させて防御体勢を取っていたが、それでも勢いを殺すことが出来ず、そのまま背後の壁に激突した。
その後、体から出ていた青いオーラが弱まると、
「……ハッ! だ、大丈夫、ですか!?」
と、我に返った水音が、春風に向かってそう尋ねた。
どう見ても「無事なわけがない」と、凛依冴を除いて誰もがそう思っていたが、
「あー大丈夫大丈夫。でも、おー痛た。俺じゃなかったら普通に死んでるわこれ」
と、春風は左腕をプラプラと振りながら、「無事ですよ」とアピールした。
その後、水音は「よかった」と胸を撫で下ろすと、
「もう『死にたい』とか『死んでもいい』なんて思わない?」
と、今度は春風が真面目な表情で、水音に向かってそう尋ねた。
その質問に水音が「え?」となると、
「……あ」
と、水音はそう声をもらすと、ゆっくりと優誓達の方へと向いた。
そして、
「と、父さん、母さん、陽菜、爺ちゃん、婆ちゃん……」
水音は大粒の涙を流しながら、
「ごめんなさい、ごめんなさいぃ……」
と、優誓達に向かって謝罪した。
何度も、何度も。




