第399話 リアナ編15 「天使」、現る
今回はいつもより長めの話です。
村が襲撃された。
コールがそう言ってすぐに、頭上で大きな音が鳴り、それと同時に自分達がいる「獣人の修練場」が激しく揺れた。
そして揺れがおさまった後、
「ちぃ! 何だってんだよ一体!?」
と、ギャレットはすぐに修練場を出て階段を駆け上がり、そんな彼を追うように、
「ま、待ってください!」
「あ、あたしも行くわ!」
と、彩織と詩織も駆け出した。当然、コール達も一部の人間を残してその後を追った。
階段を上がり終えたギャレットが小屋の外へと出ると、村のあちこちでは煙が上がっていた。
何者かに攻撃をされたのか、新しく建っていた家々の外壁が所々崩れていて、真っ黒に焼けこげていた。
「どうなってんだこりゃあ?」
と、彩織達と合流したギャレットが、辺りを見回しながらそう言うと、
「あ、あそこに誰かいます!」
と、彩織がとある方向を指差しながらそう言った。
よく見ると、確かにその指先には1人の人物がいるようだったので、ギャレットは彩織達に警戒しろというと、ゆっくりとその人物に近づいた。
ある程度近くで見てみると、その正体は白銀の鎧を纏った若い男性のようで、ギャレット達は更に警戒を強くした。
そして、ギャレット達の存在に気づいたのか、男性はゆっくりとギャレット達の方へと振り向いた。
「久しぶりだな」
男性がギャレット達を見て、ニヤリと笑いながらそう言うと、
「て、テメェは!」
「あ、あなたは!」
「あんたは!」
と、ギャレット、彩織、詩織が驚きの声をあげた。どうやら、お互い知り合いのようだ。
「フッフッフ……」
と笑う男性を前に、
「あ、あの、皆さん。お知り合いの方ですか?」
と、コールが恐る恐る尋ねてきたが、ギャレット、彩織、詩織はそれを無視して、
「テメェは……」
「あなたは……」
「あんたは……」
と、目の前の男性を見ながらそう呟いた。
余計な話だが、もしここに春風がいたなら、目の前の男性の名前を言っていただろう。
だが、
「「「……どちら様ですか?」」」
どうやら3人は、男性のことを覚えていないようだった。
その瞬間、彼らとの間にヒュウウと風が吹き抜けて、
「んが!」
と、男性はまるで昔のギャグ漫画のキャラクターのように、「ズコーッ!」と叫ばんばかりにコケた。
コールはそんな男性の様子を見て、
「え、知らない人なんですか?」
と、ギャレット達に再び尋ねたが、
「ああ、悪いが全然知らねぇ」
「はい、知らない人みたいです」
「うん、知らない人だよ」
と、3人ともはっきりとそう答えた。
「ほ、本当に知らない人なんですか!?」
と、コールはもう一度尋ねたが、
「「「全然!」」」
と、それでも3人はきっぱりとそう答えた。
すると、男性はガバッと起き上がって、
「ふ、ふざけるな貴様ら! 私を忘れたとは言わせないぞ!」
と、ギャレット達に向かってそう怒鳴った。
しかし、怒鳴られたギャレット達はと言うと、全員「そんなこと言われても……」と困ったような表情になった。
その時、
「……あ、もしかして」
と、彩織が何がを思い出したかのような表情になった。
「あん? 知ってるのか?」
と、ギャレットが尋ねると、
「えーと、確か名前の最初が『ア』だった気がする……」
と、彩織は男性のことを必死に思い出そうとしていた。そんな彩織に、男性が期待の眼差しを向けた。
「そうだ、思い出せ、私の名を! 『ア』!」
「……アッパーカットさん?」
「うおお、俺の拳が唸るぜ……って、違う! 私はそんな名ではない!」
ノリツッコミを交えてそう怒鳴った男性に、彩織はビクッとなったが、すぐにまた男性の名前を思い出そうとした。
そして、出てきた名前が、
「アトミックハイパーボムさん!」
「うおお、受けろ我が必殺の……って、ちがーう! なんだその必殺技のような名前は!?」
と、再びノリツッコミを交えて怒鳴った男性は、とうとう我慢の限界が来たのか、
「アッシュだ! アッシュ! 私の名は、セイクリア王国王宮騎士の、アッシュだ!」
と、その男性ーーアッシュは怒鳴るように自ら名乗った。
ギャレット、彩織、詩織はそれを聞いて、
「「「……ああ、そういえばそうだった!」」」
と、漸く思い出したかのように手をポンと叩いた。
その後、呆れ顔のコールが、
「あの、知り合いだったんですね?」
と、また尋ねると、彩織、詩織は真剣な表情でアッシュに視線を向けたまま答える。
「はい、あの人は私とシオちゃんの親友の星乃香ちゃんに酷いことをして……」
「あたし達の故郷、『地球』の神様達に裁きを受けたんだ」
と、2人がそう言うと、ギャレットもそれに続く。
「そうだ。その後、奴は仲間達と共にウォーリス帝国の牢屋に入れられた筈なんだが……野郎、何でここにいるんだ?」
その言葉を聞いて、彩織も詩織も「そういえば」と頭上に「?」を浮かべると、アッシュは「クックック……」と笑って、
「そうだ。確かに我らはあの後、帝国の牢屋に入れられて、大人しく刑を待っていた……」
と、話し始めた。
「だがしかし、そんなある時、我らの前に『神』が現れたのだ!」
「神だと?」
「そう! 我らが古来から崇める5柱の神々だ! 神々は我らを牢屋から、『神の世界』へと連れ出してくれた! そして、そこで我らは生まれ変わったのだ!」
と、アッシュがそう言い放った次の瞬間、アッシュの背中から「何か」が生えてきた。
それは、大きな純白の「翼」だった。
そして、アッシュはその翼を動かして、ゆっくりと空へと舞い上がった。
その姿を見て、詩織が呟く。
「あれって、天使?」
その言葉に反応したのか、アッシュはニヤリと笑って口を開く。
「そう、天使だ! 我々は『人間』から、神の使いである『天使』となったのだ!」
そう言った次の瞬間、アッシュの周りに複数の人影が現れた。
それは、ウォーリスに囚われていたアッシュの仲間達で、全員アッシュと同じように背中に白い翼が生えていた。
その姿を見て驚きを隠せない様子のギャレット達を前に、アッシュは更に話を続ける。
「我らがここへ来た目的!それは、この村に来てるであろう『白き悪魔』ことリアナ・フィアンマを、神の名のもとに始末することだ! そして殺した後は、我らの最大の敵である幸村春風にその首を見せつけ、奴を絶望の底へ叩き落としてやるのさぁ!」
そう言って後、アッシュは声高々に笑った。
その姿にコールは最初恐怖したが、
「へ! なら、テメェらは『敵』ってことでいいんだよな?」
と、ギャレットが武器を構えた。それに続くように、
「そんなこと、絶対にさせません!」
「当然よ!」
と、彩織も詩織も戦闘体勢に入った。
コールはそんなギャレット達の姿を見て、
「……危ないですから、安全な所へ避難してください」
と、ジェロームら幽霊達を含めた人達にそう指示すると、
「皆さん、僕も戦います」
と、ギャレット達に向かってそう言った。
「……いいのか?」
と、ギャレットが尋ねると、
「正直言うと怖いですけど、僕にも守るものがありますから!」
と、コールは真っ直ぐギャレットを見てそう答えたので、
「よっしゃあ! じゃあ、勇者嬢ちゃん達に固有職保持者の坊主、気合い入れていくぜ!」
と、ギャレットは目の前の「敵」を見ながらそう叫ぶと、
「はい!」
「オッケー!」
「わかりました!」
と、彩織、詩織、コールはそう返事した。




