第320話 その頃の彼ら・2
春風達がテント内でちょっとしたパーティをしていた、丁度その頃、同じ帝国の陣地内にある皇族専用テントの中では、
「……なぁ、レイにセレス」
「「何でしょうか?」」
「何で俺、ここで書類仕事なんかしてるんだ?」
「父上が仕事しないからです」
「お父様が仕事しないからです」
「むぐぐ……」
というやり取りの通り、現在ギルバートはレイモンドとセレスティアに手伝ってもらいながら、皇帝の務めの1つである書類仕事をしていた。
「チクショー。俺も春風達のところに行きたいよう」
と嘆くギルバートだが、
「「でしたらとっとと終わらせてしまいましょう」」
と、2人に突っ込まれてしまい、諦めてひたすら仕事に励むのだった。
一方、セイクリアの陣地内にある王族用テントの中では、
「……ということがあったのです」
と、ウィルフレッドに見守られながら、イブリーヌが「とある人物達」に、シャーサルに旅立ってから今日までのことを報告していた。
その人物達とは、
「そう、そんな凄いことがあったのね」
それは、イブリーヌの母親にして王妃であるマーガレットと、姉のクラリッサだった。
といっても、今イブリーヌの目の前にいる2人は本物ではなく、どちらも通信用魔導具に映し出された映像だった。
楽しそうに話すイブリーヌを見て、映像のクラリッサが口を開く。
「……ねぇ、イブ」
「はい、何ですかお姉様?」
「イブは、本気で『彼』のことが好きなのよね?」
「……はい」
そう答えたイブリーヌに向かって、クラリッサは「そう……」と小さく呟くと、
「あの、お姉様」
「ん? なぁに、イブ」
「お姉様は、まだ、ハル様が憎いですか?」
と、今度はイブリーヌがそう尋ねてきた。
尋ねられたクラリッサは顔を下に向けて黙り込むと、
「……そうね。『憎い』という気持ちは、まだあるわ。ただ……」
「?」
「それに負けないくらい、彼にときめいてしまったのも事実よ。といっても、イブみたいに『惚れた』というよりも、『憧れている』っていう方が近いかな」
苦笑いしながらそう答えたクラリッサに、イブリーヌが「まぁ!」と驚きの声をあげると、
「ただ、お父様とお母様はどうかはわからないけどね」
と、クスリと笑いながらそう言ったクラリッサに反応したのか、ウィルフレッドとマーガレットは顔を赤くしてフイッとそっぽを向いた。
そんな2人を見て、クラリッサとイブリーヌは小さく笑い合った。
さて、同じセイクリアの陣地内にある小夜子達「勇者」用テントの1つの中では、
「……ハァ」
と、テント内に設置された簡易ベッドの上で、小夜子が1人溜め息を吐いていた。
(……幸村)
小夜子が考えていたのは、再会した春風のことだった。
小夜子が知っている春風は、とても静かで大人しく、あまり自分から意見を言うような感じではなかった。
しかし、今日再会した時の春風は、ウィルフレッドを相手にはっきりと自分の意志を伝え、最終的にはウィルフレッドを納得させていた。
(……あんな幸村、初めて見たなぁ)
と、心の中でそう呟いた後、色々考えた末、
「……私、教師としてまだまだだなぁ」
と、自身の未熟さを痛感するのだった。
そして、テントの外では、
「……幸村」
と、燃え盛る焚き火を見ながら、翔輝が1人、小さくそう呟いていた。彼もまた、小夜子と同じように春風のことを考えていたのだ。
(あんな風に話す幸村、初めて見たな)
ウィルフレッドを相手に臆せず自分の意志を話した春風。その姿は、翔輝が知っている春風とは大きくかけ離れていた。
翔輝はそんな春風を思い出して、
「ぐぅ。許せない筈なのに、僕も幸村も男なのに……」
と、辛そうな表情でそう言うと、自身の胸をグッと掴んで、
「どうして、こんなにときめいてしまうんだ?」
と、他人に聞かれないように小さな声でそう呟いた。
そんな翔輝の姿を、1人の人物がジィっと物陰から見つめていた。
謝罪)
大変申し訳ありません。前回の話で、書き忘れた部分がありましたので、すぐに修正しました。




