第301話 春風が「本気」でブチキレた日
春風が、本気でブチキレた。
その言葉の意味を、ギルバートをはじめとする春風の仲間達と断罪官達は、全員理解出来ないでいた。といっても、一部の人達を除いてだが。
「オイ水音、『本気でキレた』ってどういう意味だ?」
ギルバートが水音にそう尋ねると、ようやく震えが止まった水音は、ゆっくりと口を開く。
「陛下、以前僕が師匠と春風と一緒に世界中を旅していた時のことを話したのは覚えてますよね?」
「ああ、それは覚えてる。セイクリアで少し聞いてから帝城に帰ってきた時にも話してくれたな」
ギルバートの言葉を聞いて、鉄雄達も「ああ、そういえば聞いたな」と思い出した。
するとそこへ、
「……その話、我々にも聞かせてくれないだろうか」
と、ルークとギャレットに支えられながら、ウォーレンが水音にそう頼んだ。
「……わかりました」
水音はコクリと頷きながら説明を始める。
「あれは、僕が師匠の弟子になって間もない頃、僕と春風は師匠に連れられて、ある国の小さな町で行われた「祭り」に参加しました。とても大きな「祭り」で、凄く楽しかったんですけど……」
「何があったというのだ?」
「そこへガラの悪い集団がやってきて、周りを顧みない迷惑行為をし始めたんです。最初は小さなものだったんですが、時が経つに連れて次第にエスカレートして、それを知った祭りのスタッフが連中を町の外に追い出そうとしたんですが、それに逆上したその連中は、暴力を振るって会場を滅茶苦茶にし始めたんです」
「なんと……」
「僕と春風はスタッフと一緒に、祭りに来た人達を避難させつつ、連中を止めようとしたんですが、1人のスタッフが、更に逆上した連中に重症を負わされたんです。そのスタッフは、春風の『友人』でした」
「……まさか」
冷や汗を流したウォーレンを見て、水音が再びコクリと頷くと、
「ええ、目の前で傷つけられたその友人を見た瞬間、春風は今のようにブチキレたんです。その時の春風の言葉は今も覚えてますよ」
ーーお前らさぁ、他人に暴力振るうってことは、逆に自分が振るわれても文句言わない覚悟なんだろうな?
「その頃の春風は、この世界でいう「魔力」の扱いを得意としていて、春風はそれを使って連中を1人残らず町の外へと放り投げると、連中に友人以上の重症を負わせたんです。流石に死んじゃうんじゃないかと僕は春風を止めようとしたんですが……」
ーー大丈夫だよ水音君、殺すつもりはないから。コレらにそんな価値ないし。
「その時の春風は、最早連中を『人』として扱ってませんでした。穏やかな笑みを浮かべてそう言った春風を見て、僕は恐怖で震えてしまいました」
「……その友人は、その後どうなったのだ?」
「勿論無事ですよ。その人は日頃から鍛えていたみたいで、数日で傷は癒えたそうなんです。今も元気で暮らしているそうですよ」
「……そうか」
水音のその言葉を聞いて、ウォーレンはホッと胸を撫で下ろした。それは、ルークをはじめとした他の断罪官達も同様だった。
すると、ここでギャレットが口を開く。
「じゃあ、今のあいつはその時と同じ状態だってのか?」
春風を指差しながらそう尋ねたギャレットに、水音は三度コクリと頷いて答える。
「はい、春風は今、心の底から怒っているんです。ただでさえ彼は、あの連中に対して怒りを募らせていた時に、小日向さんに酷いことをし、ディックさんを傷つけたことをキッカケに、その怒りが爆発したんです」
「マジかよ……」
ウォーレンと同じように冷や汗を流すギャレット。
そんなギャレットをよそに水音はというと、
(といっても、春風の場合はそれだけじゃない気がするんですが)
と、目の前の春風を見ながら、心の中でそう呟いた後、
「とにかく、ああなってしまった春風は、本人の気が済むまで止まることはありません。多分連中を殺す気はないでしょうが……」
と言うと、悔しそうに唇を歪ませた。
リアナ、歩夢、イブリーヌはそんな水音を見た後、
「ハル……」
「フーちゃん……」
「ハル様……」
と、目の前の春風を心配そうな目で見つめた。




