第32話 感謝
ジゼルの説明が終わって暫くすると、春風は「外の空気を吸いたい」と言ってログハウスの外に出た。外はいつの間にか夜になっていて、空を見上げると無数の星々が綺麗に輝いていた。因みにアマテラスはというと、ジゼルの説明後すぐに、
「他の神達と話してくる」
と言って、零号をゲートにして元の場所へと帰った。
そして現在、春風は1人、ログハウス裏の湖の側にある大きな木の下に座り込んでいた。
「参ったなぁ……」
そう小さく呟いた春風は、今日あった出来事を思い出していた。
(えっと、教室で昼休みを迎えていたら、いきなり床が光って先生とクラスのみんながその光に飲み込まれて、俺もピンチになったと思ったら『地球の神様』に助けられて、助かったと思ったらまさかの地球消滅の危機で、その原因が異世界エルードのルールを無視した異世界召喚で、地球を守る為にオーディン様と契約して、そんでエルードに来てみたら召喚を行った連中が信用出来なくて、ブチ切れてその場に居合わせていたリアナさんと大暴れした末にみんなを置いて外に脱出。で、それから本物の『エルードの神様』に会って話を聞いてみたら、この世界は既に悪い侵略者達に乗っ取られた後で、その悪い侵略者の親玉をぶっ殺す『悪魔』が、俺とリアナさんともう1人で、しかも俺が目覚めた職能が大昔に国を1つ滅ぼした『最初の固有職保持者』と同じ『賢者』ときた。といっても『見習い賢者』だけど……)
そして4秒の沈黙後。
「何だこの状況は!?」
と、春風は自分自身に突っ込みを入れたが、すぐに虚しくなって、「ハァ」と大きな溜め息を吐いた。
「もう、ホントどうすりゃいいんだよ……」
春風がそうぼやいた時、
「春風」
と、自分を呼ぶ声がしたので、その声がした方に振り向くと、
「あ、リアナさん」
そこには、心配そうな表情のリアナがいた。
「隣、座っていいかな?」
「え? あ、はい、どうぞ」
「ありがとう」
そう言って、リアナは春風の側に近づき、その隣に座り込んだ。
「えーっと、どうしたんですか? リアナさん」
春風はぎこちない感じでリアナにそう尋ねると、
「ちょっと、様子を見に来たんだ。春風、すごく辛そうだったから」
と、リアナもぎこちない感じで答えた。
(うぅ、沈黙が辛い…‥)
春風が心の中で泣き言を吐いていると、
「ねぇ、春風」
「ふぁい!?」
と、リアナが口を開いたので、春風は驚いて変な返事をした。
その後、春風は「コホン」と咳き込むと、
「失礼、何ですかリアナさん?」
と、真面目な口調で尋ねた。
リアナは春風の方を向かずに話し始める。
「春風は、故郷を守る為にここに来たんだよね?」
「はい、そうです」
「その為に、神様と契約したんだよね?」
「……はい」
「ちょっと変な事を聞くけど、それって、自分の意思なの?」
「……それ、どういう意味でしょうか?」
リアナのその質問に、春風は声のトーンを低くして答えた。
それに気づいたリアナは、一瞬ビクッとなって、
「あ、気を悪くしたならごめん! えっと、もしかしたら、さっきの、アマテラス様だっけ? あの人に命令されてここに来たのかなって思って……」
と、慌てて説明した。
(ああ、そういう意味か)
納得した春風は、しっかりとリアナの目を見て答える。
「そうです。俺は自分の意思でここに来る事を選びました」
「……どうして?」
「地球には大切な家族がいて、大切な人達がいて、叶えたい夢があるんです」
「……だから、地球に無くなってほしくないの?」
「はい」
「……怖くないの?」
「え?」
「契約もそうだけど、もし失敗したどうしようとか思わなかったの?」
「あー、そうですね。それは考えてないわけじゃないんですけど、あの時は怖い以上に怒りが勝ってましたね。ハハハ……」
「そっか……」
リアナがそう言った後、2人が座っている場所が重苦しい雰囲気に包まれた。
暫くの間沈黙していると、再びリアナが口を開いた。
「春風」
「何ですか?」
「春風はまだ、セイクリアが許せない?」
「はい」
「背後にいる侵略者の親玉連中も許せない?」
「勿論です」
「……この世界が許せない?」
「……はい」
再び、その場は重苦しい雰囲気に包まれる。
すると、今度は春風が口を開いた。
「ですが……」
「?」
「リアナさんには凄く感謝しています」
「!」
驚くリアナに、春風は話を続ける。
「俺、正直に言いますと、セイクリアの連中が信用出来なくて、すぐに逃げないとって思ってたんですけど、逃げ出した後の予定を何も考えてなかったんです」
「……」
「だから、あの時リアナさんに『一緒に来て』って言われて、凄く助かりました。そのおかげで、こうしてヘリアテス様に会えて、この世界の『真実』……っていうか『現実』を知ることが出来て、本当に助かりました」
春風はそう言うと、スッと立ち上がってリアナの前に立つと、またドサっと座り込んだ。そして、穏やかな笑顔でリアナを見つめると、
「俺を連れ出してくれて、ありがとうございます」
と、感謝の言葉を言った。
それを聞いて、リアナは大粒の涙を流しながら、
「わ……私の、方こそ……信じて……くれて……ありがとう」
と、感謝の言葉を返した。
その後、リアナは幼い子供の様に泣きじゃくり、春風は彼女が落ち着くまで、その側を離れなかった。




