第276話 決戦、断罪官9 アデルチームvsダリア3
それは、断罪官達との決戦より数日前の、ある夜のことだった。
「どうしたのハル兄さん、私に何か用事があるの?」
春風に「大切な話がある」言われたフィオナは、その夜彼の自室を訪れていた。
「うん。実はフィオナにお願いしたいことがあるんだ」
真面目な表情でそう言った春風を見て、フィオナはゴクリと固唾を飲んで、
「お、お願いしたいことって、何?」
と尋ねると、
「フィオナは、ルーシーの『裏スキル』のことは知っているんだよね?」
と、春風は真面目な表情を崩さずにそう尋ね返した。
「う、うん、前に聞いたことがあるけど……」
「なら、話は早いね。じつは、君にお願いしたいことってのはそのことなんだ」
「ど、どういうこと?」
フィオナは恐る恐る尋ねると、
「もしも、俺がいない時とかに、ルーシーがその力を使うようなことが起きたら、君が彼女を止めてほしいんだ」
「わ、私が!?」
「うん。これは、ルーシーの1番の『親友』である君にしか頼めないことなんだ」
そう言い放った春風を見て、フィオナはオロオロしながら質問する。
「で、でも、止めるって、どうやれば良いの?」
「大丈夫、そうなってしまったら、こいつを使えば良い」
そう言って、春風がフィオナに渡したもの。
「な、何これ?」
それは、握りがついた固い紙製の扇、
「そいつは『ハリセン』っていって、主に『突っ込み』を入れる時に使う道具なんだ」
ハリセンだった。
「つ、突っ込みって、これで私にどうしろと?」
再び恐る恐る尋ねたフィオナに向かって、春風は親指を立てながら、
「もしルーシーが裏スキルを使いそうになったら、そいつで彼女の頭をぶっ叩いて止めるんだよ」
と、真顔でそう答えた。
フィオナはそれを聞いて呆然としていたが、
「ちょ、ちょっと待って? え、ぶ、ぶっ叩くって、え、嘘でしょ!?」
と、すぐにハッとなって春風に詰め寄った。
「ああ、そんな強く叩けって言ってるんじゃないんだよ。ただ、『ちょっと待てい』っていった感じで振れば良いだけだから」
ニッコリと笑ってそう言った春風に、フィオナは更に混乱した様子で、
「いやそういう問題じゃないでしょ!? え、なんで私なの!?」
と、大慌てで春風を問い詰めた。
すると、春風はまた真面目な表情になって、
「言っただろ? これは、ルーシーの1番の親友であるフィオナにしか頼めないことだって」
と、未だにオロオロしているフィオナに向かってそう答えた。
「で、でも!」
フィオナはそれでも何か言おうとしたが、春風はそれを遮るように、
「勿論、俺だってそうはならないように努めるさ。まぁ、1番の解決方法はルーシーに裏スキルを使わせないことなんだけど、実際何が起きるかわからないから。だからフィオナ、お願いします」
と言うと、フィオナに向かって深々と頭を下げた。
そんな春風を見て、フィオナは「うぅ……」と唸った後、
「わ、わかったよハル兄さん。ルーシーは、私が止める」
と、春風のお願いを受けた。
そして現在、ダリアの話を聞いてルーシーが裏スキル[憤怒]を使おうとしていた。
(ま、まずい、このままじゃ!)
それを見たフィオナは、春風に託されたハリセンを取り出し、それをしっかり握ると、
「ちょっと待てぇえええええいっ!」
と叫んで、そのハリセンを振るってルーシーの頭をスパァンとぶっ叩いた。
その瞬間、ルーシーから溢れたどす黒いオーラのようなものは、一瞬のうちに消滅した。
突然の出来事に、頭をぶっ叩かれたルーシーだけじゃなく、その場にいるアデル、ケイト、クレイグ、そして敵であるダリアまでもが、
『……え?』
と頭上に「?」を浮かべると、
「ルーシー!」
と、フィオナは呆けているルーシーの両肩を掴んで、
「私を、しっかり見なさい!」
と、叫んだ。
その叫びを聞いて、ルーシーが、
「……あ、フィオナ」
と呟くと、
「ルーシー! 今は! 暴走してる場合じゃないでしょ!? 今は! みんなで! アイツを! やっつけるの! オーケイ!?」
と、フィオナはダリアを指差しながら、ルーシーを叱り飛ばした。
「あ、お、おい、君……」
と、ダリアは何か言おうとしたが、
「アンタはちょっと黙ってて! ていうか、さっさと服を着なさい! ここには男もいるんだから!」
と、フィオナに叱られたので、ダリアは「う、うむ」と返事をすると、いそいそと脱ぎ捨てた服を着始めた。
フィオナはそれを確認すると、ルーシーに向き直って、
「ルーシー、アイツがルーシーの両親の仇だっていうなら、尚更1人で戦おうとしちゃ駄目。ルーシーはもう、1人じゃないんだから」
と言うと、ルーシーを優しく抱き締めた。
「ふぃ、フィオナ」
その言葉が届いたのか、ルーシーはフィオナをソッと剥がすと、
「う、うん、わかった。い、一緒に、あの人を、やっつけよう」
と、真っ直ぐフィオナを見てそう言った。
その瞳には、最早憎しみは無かった。
どうも、ハヤテです。
活動報告にも書きましたが、去年から書き始めた本作は、今月で1年目になりました。
まだまだ完結までほど遠いですが、これからも書き続けますので、どうぞよろしくお願いします。




