第218話 その夜、中庭にて
今回は、ずっと入れたかった場面があります。
春風が今夜、「凄いこと」をやる。
エリノーラからそう聞かされたイブリーヌは、その日の夜、部屋を出てディックと共にとある場所に向かった。
向かった先は帝城内にある中庭で、イブリーヌが着いた時、そこには多勢の人が集まっていた。といっても、いたのはギルバートら皇族達に、少数の帝国兵と騎士、リアナ達七色の綺羅星メンバーと、更に水音、歩夢ら召喚された勇者達や、新たに凛依冴の弟子となったアデレードに、ギルド総本部職員のメイベル、アレス教会の信者達、そして、このエルードの本当の神であるヘリアテスだった。
だが、何故か春風と凛依冴だけはその場にいなかった。
(あれ? ハル様と凛依冴様は何処にいるのでしょう?)
その事に気付いたイブリーヌが、辺りを見回しながら2人を探していると、
「あ、イブリーヌ様!」
と、イブリーヌ達の存在に気付いた歩夢は、「こっちこっち!」と言ってイブリーヌ達を手招きした。
それを受けたイブリーヌは、小走りで歩夢の側に近づくと、
「あ、あの、これは一体何事なのでしょうか?」
と、恐る恐る歩夢に尋ねた。
その質問に、歩夢は首を傾げると、
「? エリノーラ様から何も聞いていないのですか?」
「い、いいえ。何かハル様が『凄いこと』をやるとしか……」
「あー、うん。確かに、これからフーちゃん、『凄いこと』をやります」
「そ、そうですか。それで、ハル様は今何処にいるのですか?」
イブリーヌは周りをキョロキョロと見回しながら再び歩夢に尋ねると、
「フーちゃんは今、その『凄い事』をやる為に、師匠と一緒に準備中です」
「準備中……ですか?」
歩夢のその答えを聞いて、イブリーヌは「ますます訳がわかりません」といった表情になった、まさにその時、
「おぉ待たせぇーっ!」
という掛け声と共に、凛依冴が大きく腕を振るって中庭の前に現れた。
突然の掛け声に驚く中庭に集まった人達が、
『ハァ。びっくりしたなぁ、もう……』
と溜め息を吐いてそんなことを呟くと、
「あ、あれ? 師匠、ハルッちは?」
と、恵樹が「?」を浮かべて凛依冴にそう尋ねた。
その問いに対して凛依冴は、
「あぁ、ちょっと待ってて。おーい、恥ずかしがらずにこっち来なさいな!」
と、中庭の入り口に向かってそう叫んだ。
すると、入り口の向こうから、1人の人物が入ってきた。
『おぉーっ!』
その場にいる者全員が驚いたその人物。
それは、見た感じは歩夢や水音らと同じ年頃くらいの、動きやすさを重視した、女性用の大昔の異国の民族衣装を連想させる様な服装をした、長い黒髪を持つ「美少女」だった。
その姿に見惚れたセレスティアが、
「ほほう、これはなかなかの美少女ではないか、なぁ水音……」
と言って隣にいる水音を見ると、
「おい、どうした水音!? 顔が真っ青だぞ!?」
と驚きの声をあげた。
そう、水音は今、その「美少女」を見て顔が真っ青になっていた。それと同時に、目を大きく見開いて口をあんぐり開けて、汗をダラダラと滝の様に流していた。
驚いたセレスティアの言葉に、周囲が「なんだなんだ?」視線を「美少女」から水音の方に移すと、水音は素早い動きで凛依冴とその少女に近づいた。
「あら、水音、どうしたの?」
と、凛依冴が水音にそう尋ねると、
「ちょ、し、師匠、あなた、なんてことを!」
と、水音は若干興奮気味にそう答えた。
だが、凛依冴はそんな水音に対して困った様な表情で、
「え、も、もしかして、似合ってない、とか?」
と再び尋ねると、水音は「うっ!」と唸って何も言えなくなり、暫くすると「美少女」の方を見て、
「に、似合ってるよ……春風」
と、恥ずかしそうに顔を赤くしてそう言った。
それを聞いた凛依冴を除く周囲の人達が一斉に、
『……え?』
と、ポカンとした表情になると、
「ハハ、ありがとう水音。ちょっと恥ずかしいし、複雑だけど」
と、その「美少女」……否、春風は困った様に苦笑いしながらそう返した。
それを聞いた周囲の人達は、数秒程沈黙し、固まっていると、
『えええええええぇっ!?』
と、皆一斉に驚きの声をあげた。
というわけで、「女装をした主人公」の登場回でした。
これは、この物語を考えていた時に、ずっと入れたかった場面の一つで、ここへきて漸く書く事が出来ました。




