第215話 使えない理由
「え、えーと春風君、『使えない』ってどういうことかな?」
ダラダラと汗を流してそう尋ねたアマテラスに、春風は真剣な表情で答える。
「理由はいくつかあります。まず一つ目が、『不安』ですね」
「ふ、不安?」
「先程あなたは、『俺と魂レベルで波長が合う人が召喚される』と説明しましたよね?」
「え、えぇ」
「例えばの話ですが、それって、凶悪な犯罪者も含まれているってことですか?」
『!』
春風のその言葉に、周囲の人達はサーっと顔を青ざめた。
「あー、もしかして『悪い人が召喚されちゃったらどうしよう』って思った?」
「はい、お恥ずかしながら」
「それについては大丈夫。波長が合う人って言ってもそういった人は対象外だから」
「そうですか」
アマテラスの答えを聞いて、春風はホッと胸を撫で下ろした。それは、周囲の人達も同様だった。
「えっと、不安なのはそれだけかな?」
「いえ、他にも、いくら死んだ人って言っても、こちらの都合でそんな方達を巻き込んで良いのかっていうのもあります」
「あぁ、それも大丈夫、そっちの方もちゃんと相手側と話をつけておくから」
ーーそれって、死者達と話をつけるって意味なのかな?
春風も周囲の人達もそう思ったが、何故か突っ込んじゃいけない気がしたので、皆黙っていることにした。
そんな事を考えていると、
「で、他に理由は無いかな?」
と、アマテラスの方から話しかけてきたので、春風は気を取り直して口を開いた。
「あー、不安的な面ではこれで全部ですが、これから話すのが一番大きな理由です」
「ほうほう」
「アマテラス様達が今、俺にこの秘術を使う権利を与えたっていう事は、俺にすぐにでもこれを使って欲しいっていうことなんですよね?」
「うっ! ま、まぁ、そういうことに、なるのかな?」
「で、この秘術は生涯一回しか使えなくて、呼び出せる『英雄』は、今の俺では『1人だけ』なんですよね?」
「う、うん。そうだけど……」
アマテラスはそう答えると、再び汗をダラダラと流した。そんな彼女を見て、春風ははっきりと言う。
「……足りません」
「え?」
「1人だけじゃ足りません!」
「ええっ!? え、えっと、じゃあ、何人欲しいのかな?」
恐る恐るそう尋ねたアマテラスに向かって、春風は右手の人差し指、中指、薬指を立てて、
「3人、欲しいです!」
と、真面目な表情で言った。
「さ、3人!?」
「はい! 攻撃役、防御役、回復役の3人です! もっと詳しく言えば、前衛での盾兼物理攻撃役、後衛の射撃、もしくは特殊能力を使った攻撃兼サポート役、そして、その中間の遊撃役の3人です!」
はっきりとそう言った春風に、アマテラスだけでなく周囲の人達も開いた口が塞がらなかった。
そんな状況の中、アマテラスは春風に尋ねる。
「り、理由を聞いても、良いかな?」
「はい、これはあくまで俺の勘ですが、これから俺は、今まで以上の激しい戦いを強いられると思います。それこそ、『神』を相手にするくらいの。そんな戦いを生き抜く為には、最低でもこれくらいは必要になってくると思うんです」
「う、うーん。その気持ちはわからなくはないけど、今の君だと『1人』が限界なんだよねぇ。ただ……」
「ただ?」
「強力な『媒体』となるものがあれば、多分可能だと思う」
「媒体……ですか」
「うん。でも今言ったけど、そんじょそこらのものじゃ駄目だからね。なにせ召喚するのは『英雄』なんだから、その器とするにはもの凄く強いものじゃないといけないの」
「それって、具体的にはどの様なものなのですか?」
「そうねぇ、第3者から見て、『え、これ作った奴ヤバすぎじゃね?』ってドン引きするくらいかな?」
「つまり、それくらい狂った人が作ったものに限るって意味ですか?」
「うん、そういうこと……」
と、アマテラスが言いかけた、まさにその時、
「「「あっ!」」」
と、突然、水音、ギルバート、セレスティアが、何かを思い出したかの様に大声をあげた。
「え、ど、どうしたんですか?」
驚いた春風が3人を見回しながらそう尋ねると、
「セレス! 水音!」
「「はい!」」
「アレ、使えるんじゃねぇか!?」
「ええ、今、私もそう考えました!」
「はい、僕も同じくです!」
「よっしゃ! すぐにここに持ってきてくれ!」
「「はい!」」
そう返事をすると、水音とセレスティアは大急ぎで謁見の間を飛び出した。
春風達は「何だぁ?」と首を傾げていると、暫くして2人が戻ってきた。よく見ると、その後ろには大きな白い布に包まれたものが3つあった。
春風達が頭上に「?」を浮かべていると、水音はその白い布をバッと取り外した。
そして、
「な! これって!?」
その後現れた「それ」を見て、春風達は驚愕した。
そんな春風達に、ギルバートは答える。
「こいつはな、『狂気に堕ちた魔術師の遺産』ってやつさ」




