第204話 苦しむ者、苛立つ者、そして、怒る者達
光国冬夜と、光国雪花。
それは、春風の本当の両親の名前。
恵樹の口からその2人の名前が出た時、春風の脳裏に浮かんだのは、7年前の、あの「事件」。
多くの科学者達が殺害されたその凄惨な「事件」は、世間ではテロリストの仕業と公表されていた。
しかし、7年経った今でも、春風は覚えている。
あの日、あの時、本当は何が起きていたのかを。
「教えてよハルッち。君は本当に、行方不明の光国春風なのかい?」
と、いつもの調子者の雰囲気とは違う、真剣な眼差しを春風に向ける恵樹。
春風は何か言おうとしたが、
(くっ!)
その瞬間、あの日の出来事が脳裏に浮かぶ。
(うぅ……)
幼かった自身の目の前で、「欲望」と「狂気」に満ちた目をした者達によって無惨に殺された科学者達と、そんな自身を助けて死んだ両親。
「お、俺は……」
その記憶は、今もずっと春風を苦しめていた。
「俺は……俺は……僕は!」
「答えてよハルッち!」
苛立った恵樹が、座っていた椅子から立ち上がって、春風に詰め寄ろうとしたその時……。
バァンッ!
「「!?」」
部屋の扉が乱暴に開かれ、それと同時に、誰かが春風の体を抱きしめた。
春風と恵樹は何が起きたのかわからず呆然としていると……。
パァンッ!
「……へ?」
誰かが春風と恵樹の間に立ち、恵樹の頬をビンタした。その衝撃で、恵樹の眼鏡が床に落ちた。
何が起きたのか本当にわからなかった2人だが、少し時間が経つと、目の前にいる者の正体がわかった。
「……やめてよ、ケータ君」
「……ユメッちちゃん?」
「ユメ、ちゃん?」
正体は、歩夢だった。
そう、恵樹が春風に詰め寄ろうとした瞬間、歩夢が部屋に入ってきて、恵樹をビンタしたのだ。
それと同時に、春風を抱きしめている者の正体もわかった。
「……ジゼル、さん?」
正体は、ジゼルだった。
彼女もまた、恵樹が詰め寄ろうとした瞬間、零号の中から出てきて、春風を抱きしめたのだ。
「ゆ、ユメッちちゃん、何で……」
恵樹が歩夢にそう尋ねようとしたその時、
「これ以上、フーちゃんを苦しめるのはやめてよ!」
と、歩夢は恵樹に向かって大声で怒鳴った。
その言葉を聞いて、恵樹はハッとなった。
よく見ると、歩夢の顔は怒っていたが、その瞳は涙を流していた。
そして、春風を抱きしめるジゼルも、恵樹を怖い顔で睨みつけていた。
その瞬間、恵樹は自分が春風にしてしまった事を理解して、ショックを受けた。
「ご、ごめん、ハルッち……」
シュンとなった恵樹は春風に向かってそう謝罪すると、落ちた眼鏡を拾ってかけ直した。
その後、
「その、本当に、ごめん。おやすみ……」
と言うと、恵樹はヨロヨロとした足取りで部屋を出ていった。
恵樹が部屋を出て少しすると、
「えっと、ユメちゃん? ジゼルさん?」
と、春風が歩夢とジゼルに話しかけると、歩夢は春風に駆け寄って、ガバッと抱きついてきた。
「へ!? ちょ、ユメちゃん!?」
突然の事に春風が驚くと、
「大丈夫だから!」
と、抱きついてきた歩夢が、声を震わせながら言った。
「えっと……?」
訳がわからないといった状態の春風を無視して、歩夢は話を続ける。
「フーちゃんはもう、1人じゃないから。私が、側にいるから」
「ユメちゃん……」
そして、それに続く様に、
「私もです、春風様」
と、ジゼルも春風を抱きしめた状態で口を開いた。
「ジゼルさん?」
「それに私達だけではありません。リアナ様も、イブリーヌ様も、それにルーシー様もいます。だから、春風様はもう、1人ではありません」
(いやちょっと待って、何でそこでルーシーも出てくるの? ていうかユメちゃん、何で部屋の外にいたの!?)
と、心の中でそう突っ込みを入れた春風は、それをそのまま口に出そうとしたが、2人共涙を流しているのに気づいて、口に出すのをやめた。その代わり、
「……ありがとう、2人共」
と、優しく微笑んで、2人にそうお礼を言った。
今回出てきた春風の過去(全てではないが)。
一体、彼に何が起きて、何を知っているのか?
それは、今後の話の中で書いていく予定です。




