第20話 春風、ブチキレる
遅くなりました。
「こ、ここを出て行く許可だと? 其方は一体何を言っているのだ?」
腹を押さえながら質問するウィルフレッドに、
「言葉の通りですよ。俺はここを出て行きますので、許可をお願いします」
と、春風は笑顔で答えた。
「ま、待ってくれ! 出て行くとはどういう事だ!? 何故、そのような事を申すのだ!?」
驚いた表情で問い詰めてくるウィルフレッドに、春風は笑顔を崩さずに答えた。
「だって俺、『勇者』じゃありませんから」
その言葉を聞いて、謁見の間にいる者達は全員、
『な、なんだってー!?』
と言わんばかりの表情をした。
「ゆ、『勇者』じゃない……だと? それは一体どう言う事だ?」
戸惑いながら尋ねるウィルフレッドに、春風は「あるもの」を見せた。
称号:異世界(地球)人、職能保持者、巻き込まれた者。
「ま、『巻き込まれた者』……だと? こ、これは!?」
それは、春風自身の「称号」だった。
驚くウィルフレッドに、春風は笑顔のまま説明する。
「そうです。ここに記されている通り、俺はここにいる『勇者』達の召喚に巻き込まれた、ただの一般人なんです(ま、嘘ですけどね)」
勿論、これは本物の「称号」ではない。ウィルフレッドが昔話をしている間に、スキル[偽装]を使って作った偽物の「称号」だ。
しかし、そうとは知らないウィルフレッドは、その「称号」を見て愕然とした。
(うーん、本当は他の部分も見せたかったけど、向こうは信じちゃってるみたいだから、これくらいでいいかな)
そんな事を考えている春風に、
「そ、そんな馬鹿な。これは一体どういうことなんだ? 何故、そのような称号を持っているのだ!?」
と、ウィルフレッドは説明を求めた。
「いやぁ、お恥ずかしい話ですが。実は、この世界に召喚されそうになった時に俺、教室のカーテンを掴んで必死に抵抗してたんですよ。恐らくその所為で、何か不具合みたいな事が起こったのではないかと思うんです」
ハハハと苦笑いしながら説明する春風に、周りの人達は口をあんぐりと開けて呆然とした。
「とまぁ、そんなわけで、『勇者』じゃない俺がいつまでもこのような所にいるわけにはいきませんので、出て行く許可をくださいというわけなんですよ」
春風はそう言って、再び許可を貰おうとした。
ところが、
「ふ、ふざけるなぁ!」
と、我に返った翔輝が、春風の胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「……何?」
「さっきから黙って聞いていれば言いたい放題言って、何様のつもりだ!? 僕達だけじゃなく、ここまで困っている彼らを放って出て行くなんて、どうかしているぞ!」
胸ぐらを強く掴む翔輝に、春風はうんざりしたように溜め息を吐くと、
「……るせーよ」
「なんだと?」
「『うるせー』って言ったんだよ、前原!」
「な!?」
突然の豹変に驚いた翔輝は、春風の胸ぐらを掴んでいた手を離した。
そんな翔輝の様子に構わず、春風は言い続ける。
「俺はなぁ、『自分達の為に戦って死ね』なんて言うこいつらが気に食わねーし信用できねーだけだ!」
「ち、ちょっと待て! 彼らがいつそんなことを言った!?」
「俺らを召喚した時点でそう言ってるってことだろーが!」
先程までの笑顔とは一転して、鬼の様な形相の春風に、翔輝だけじゃなく小夜子や他のクラスメイト、さらにはウィルフレッド達までビビりだした。
「そ、そんな。本気で言ってるのか? じゃあ君は、本気で彼らを見捨てるって言うのか!? この世界が、この世界に住む人々がどうなってもいいって言うのか!?」
震えながら質問する翔輝に、春風は下を向いて言う。
「知らねーよ」
「な、何?」
春風は目の前の翔輝に向かって言い放つ。
「ああ、知らねーよ! 他の世界にまで、迷惑をかけた連中なんか知った事じゃねぇよっ!」
その時、春風の怒鳴り声が、謁見の間全体に響き渡った。
思いっきり叫んだ所為か、肩で息をする春風に、
「き、貴様ぁあああああああっ!」
と、鎧姿の男女の1人が、春風に向かって突進してきた。
前作では主人公の豹変&ブチ切れシーンは1つの話にまとまっていましたが、改訂版である本作では前後編みたいな感じになってしまいました。




