間話12 お仕事中の、皇帝と皇子
今日から久しぶりの間章です。
ウォーリス帝国帝城。
その夜、その帝城の中にある執務室で、皇帝ギルバートと第1皇子レイモンドは、目の前に置かれた大量の書類を相手に、必死になって仕事をしていた。
「うう、全然終わりが見えない」
一向に減る様子のないその書類の山を見て、レイモンドはそう弱音を吐いた。
そんなレイモンドに向かって、
「しっかりしてくださいレイモンド様。はい、こちらもお願いします」
と、黒髪を短く切り揃えた1人の青年が、レイモンドの目の前にドサっと新たな書類の束を置いた。
「サ、サイラス、ちょっと多過ぎないか?」
レイモンドは恐る恐るそう尋ねると、
「第1皇子ともあろうお方が何を言ってるのですか?」
と、サイラスと呼ばれた青年は無表情でそう返した。
「サ、サイラス、まさか、シャーサルで私が君に変装してた事、怒ってるのかな?」
レイモンドは再び恐る恐るそう尋ねると、
「……別に」
と、サイラスは皇子相手に向けるものではない表情でそう答えた。しかも黒いオーラというおまけ付きだ。
そう、実はこの青年こそ、シャーサルでレイモンドが変装していた、サイラス・グルーバーその人である。
レイモンドは「うう」と呻きながら視線を書類に移すと、サイラスは黒いオーラを纏ったままギルバートを指差して、
「ほら、先程から静かに仕事をしている陛下を見習って、さっさと終わらせてください」
と言った。
レイモンドがチラリとギルバートの方を見ると、確かに仕事が始まってから文句も言わずに黙々と仕事をこなしている様子だった。
しかし、大量の書類の所為で、その表情はレイモンドから見えなかった。
さて、そんなギルバートはというと……実は全然仕事をしていなくて、大量の書類の影に隠れて机の上に置いてある小さな箱のような物をジッと見ていた。そして、その耳には地球でいう「イヤホン」の様な物をつけていた。因みに、そのイヤホンの様な物は、小さな箱の様な物と糸の様な物で繋がっていた。
実はこれらは、公にはなっていないが、最近帝国の技術者達によって開発された「盗聴用の魔導具」である。
ギルバートは仕事をしているふりをして、この魔導具で「あるもの」を聞いていたのだ。
その、「あるもの」とは……。
ーー俺は、両親と共に死んだって事になったんだ。
ーーそ、そんな。
客室で行われている、春風、リアナ、歩夢、イブリーヌの会話だった。彼らの会話は、最初からギルバートに筒抜けだったのだ。
(うーむ……)
春風達の会話を聞いて、ギルバートは考え込んだ。
(ルール無視の勇者召喚の所為で、消滅の危機に陥った2つの世界。その世界を救う為に立ち上がったのは、親を亡くしただけじゃなく、祖国によって存在まで消された少年……か。数奇な運命だな)
そして暫く会話を聞いていると、
ーーその、春風様は、歩夢様の事……す、好きなのですか?
(オイ、なんて事を聞いているんだイブリん!?)
ーーはい、好きです。
(答えるのかよ!?)
まさかのカミングアウトに、ギルバートは黙ったまま驚いた。
さらに、
ーー私は、ハルの事が好き。
(マジかよ、リアナ・フィアンマぁ!?)
ーーわたくしも、春風様の事が好きです。
(マジかよ、イブリーん!?)
リアナとイブリーヌによる「愛の告白」を聞いて、ギルバートはショックを受けた。
(オイオイ、どうすんだ春風!? お前の答えはどうなんだ!?)
ギルバートは興奮しながらも続きを聞こうとした、まさにその時、
「父上」
「陛下」
「!?」
不意に背後から自身を呼ぶ声がしたので、ギルバートは壊れた機械のようにギギギと音を立てて振り向くと、そこには黒いオーラを纏ったレイモンドとサイラスがいた。
「え、えーと……、何かなぁ、2人共?」
ギルバートは滝の様な汗を流してそう尋ねると、レイモンドはニコリと笑って、
「サイラス、母上に報告だ」
「かしこまりました」
サイラスに指示を出した。
「わー、待て待て待て! 仕事はちゃんとやる! ちゃんとやるから!」
ギルバートは必死になってサイラスを止めようとした。
「そうですか」
サイラスは無表情のままそう答えると、
「では、レイモンド様の分の仕事もお願いします」
「え?」
ギルバートはレイモンドの分の書類(大量)を見ると、
「嫌だぁあああああああっ!」
と、頭を抱えて悲鳴を上げた。
というわけで、今日から始まる間章第3弾。
最初の話は、ギルバート皇帝を主役に、本編第163〜166話の裏で起きた事についての話でした。




