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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
戦災の神山(後編)
197/314

少女の対軍戦争

 ティキは、異常なほどに想像力が優れている。

 剣の雨、飛翔、従属化。そして、それ以上におかしいのが、魔法を作る時、ティキは想像と現象に時間のラグがほとんどないことだ。

 想像し、想いを読み取って、世界は魔法を顕現させる。どんな魔法使いでも、実際にそれを行うには、慣れが体を動かさない限り、必ず、数瞬の時間を要するのだ。

 しかし、ティキにはそれがない。全くないわけではないが、どんな初めて使う魔法であろうと、それが想像できるものである限り、ほとんど熟練したかのように魔法を扱える。


 炎の魔法で熱を伝え、鎧の中にいる兵士を蒸し焼きにする。その作戦をクティック他の軍に指示した時、ティキは既に、この展開を作り上げていた。


 即ち。13万人の兵士を、密閉空間の中に閉じ込め、自然の火と大量の木々による火災で、焼き殺しつくすことを。


 これは、相手がブランディカ軍だから出来ることだ。13万人を閉じ込める透明な箱は、さすがに敵をひとまとめに誘導しない限り作れない。


 空を飛ぶグディネ軍には使えない。移動速度が速いアストラスト軍にも使えない。そもそも普通の軍隊は、部隊を完全に一まとめにすることなどない。基本、中隊から大隊規模で兵士を分け、部隊規模で運用するものだ。

 だが、ブランディカはどちらかと言えば大量の兵士をひとまとめにまとめて運用する。純粋に、重装兵は纏まって行動した方が圧力が強い。また、鈍重な分、移動が遅い。隊で分けると、互いのフォローが間に合わないため、隊に分けることはデメリットが大きい。


 敵が一まとめになったとしても、問題があった。いくら重鎧とはいえ、普通に進軍されると、ティキも魔法の箱を用意するのは簡単ではない。移動する敵に大型の魔法を展開するのは、さすがのティキとて厳しかった。

 動き続けるから展開できないのではない。先頭と最後尾、最右翼と最左翼の距離を把握できないから、ポンと置けない、それだけである。


 なら、出来るようにすればいい。足止めを兼ねた、『背後からの神獣の攻撃』。いくらなんでも背後の脅威が大きければ、総員で対処する必要に駆られる。

 足止めのために、神獣たちは捨て駒にされた。

 神獣たちを捨て駒にしなければならないほど、ブランディカは攻めにくかった。


 だが、その犠牲があったがために。

 ティキは、ブランディカ軍の燻製を、山の中で製作することが出来ている。




 “連合の大壁”メラーゼは、その光景に絶句した。

 上空を見れば、まるで天井でもあるかのようにたまっていく煙の姿。

 周囲を見渡せば、元々あった木々を燃料に、これでもかというほど燃えさかる炎。

「これほどか、ティキ=ブラウ!!」

冒険者組合の人間は、一人で兵士二万人を相手にしても負けない。


 過去、百万人の人間を一人で皆殺して見せた、という記録がある冒険者組合すら、いる。

 しかし、彼らはみな、このように戦略的手段で兵士たちを殺したわけではない。

 百万殺しの化け物など、身体強化の魔法しか使わず、しかも剣一つで百万人、殺してのけた人外だったという話だ。


 だから、考えていなかったのだ。

 冒険者組合員が、ここまで、『戦争的な』魔法を使ってくるとは、微塵も。

「最初から、22万で全力で攻め込んでいたら!!」

「はい、敗けたでしょうね。」

彼の元へ、いや、箱の中全体へ、声が響く。

「ですが、あなたたちは足を止めた。未知、想定外。そして、他二国との読み合い。それを優先して、私たちの攻略を怠った。」

あまりにも、要素が多い戦争だった。だからこそ、メラーゼは、いや、全ての将は、この戦争の発端、『なぜ』起こったのかを考えることを止めていた。


 メラーゼは盾を大地につける。あまりにも大きなその盾は、何か一つの壁のようで。

 一人、一人と命が散る。酸欠で、火に呑まれて。13万人いた兵士たちが、もうほとんど見当たらない。その散った命を全て吸ったかのように、大きな壁は、まだ立ち続けていた。




 “連合の大壁”メラーゼ=ニスラ。

 彼の異名は、ブランディカ帝国が勝手に名付けた異名である。

 彼は、聖人会が行ったような、『幼少期からの英才教育』によって“三念”に目覚めた。第3の魔法概念、“傲慢”。その区分を、“吸命”。

 人の命を吸い、己の糧に変え。『複数の命をもって、全ての外敵に立ちはだかる壁』、“連合の大壁”である。




 ティキは己の張った箱が壊される音を聞いた。とはいえ、一人を除くすべての敵は地に伏している。

「やはり。九万人の寿命を縮めてでも、勝利を取りましたか。」

「ええ。これを使う時は、目撃者は一人も残すなと命じられています。……死んでいただこう、ティキ=ブラウ。」

ティキは目の前にある壁を幻視した。空を超えるような、巨大な壁。藍に溶けるような、見えない大壁。


 ティキが対面する敵は、そこに九万もの、命の力を宿している。

「先に、聞いておきましょう。」

戦う前に、メラーゼは聞いた。

「ええ、お答えしましょう。」

ティキも、緊張感を維持したまま、応えた。


「先行したバルデスは、どうなりましたか?」

「彼と彼の部下は、もっと上で、『シキノ傭兵団』と戦っていますよ。」

「なら、我々の勝利です。シキノ傭兵団の残党では、わが軍の攻撃部隊には勝てない。」

断言。防御に最も優れたブランディカで、最も優れた攻撃の精鋭、軽装兵部隊。彼らの実力を、メラーゼは欠片も疑わない。

 たとえ、緒戦で己の失態をかばうために半減した戦力であったとしても。

 バルデス=エンゲは“破魔の戦士”。ブランディカの誇る将にして、国一番の腕自慢。


 その信頼を、ティキは鼻で笑った。

「バルデス=エンゲと戦うのは私の夫、シーヌ=ヒンメル=ブラウ。“復讐”に憑かれた、クロウの生き残りです。敗けることなどありません。」

「クロウの生き残り?……そうか、そういうことか。」

全ての順番が逆なのだと。そう理解したメラーゼは、嗤った。

「なんだ、バルデスさえ連れてこなければ、我らは勝てたのか。」

その言葉が、戦闘開始の合図だった。


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