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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
戦災の神山(後編)
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国境侵犯

 要塞の正面突破は戦の華、という言葉がある。

 籠城戦を取った敵を相手に、援軍が来るまでに勝利をつかむことは戦で最大の戦功となる、という意味である。


 なぜ最大の戦功となるのか。容易ではないからである。

 そもそも籠城戦は、二種類の場合でしか行われない。


 一つは、援軍が来ると承知している時。

 もう一つは、援軍が来ずとも、時間経過で勝利をつかむことが出来るとき。

 山に立て籠もる、という状況は、実のところ、壁のない籠城戦と、ほとんど同じである。しかし、小国七国家連合軍は、その2条件のいずれかを満たしているとは言えない。

 ティキの立てた作戦の基礎は、襲い来る敵の迎撃、それを策と地の利とたった3人の能力の質で勝利に導くというものだ。


 しかし、この近隣の国には、もう一つ、諺がある。

 曰く、『堅陣組みしブランディカ、凡百の要塞より堅し』である。落ちないことが前提の、防衛戦向きの要塞よりも、しっかりと堅陣を組んだブランディカの重装歩兵隊の方が勝ちにくい。そういう意味だ。

 移動要塞。もしもこの世に魔法道具が実現できれば、あるいは実現できるかもしれない仮想戦略。元来であれば不可能なそれを、人の手でやってのける。それが、ブランディカの行った戦力増強の方法だった。


「要塞を破るにあたって、方法は二つ。知っていますか?」

ティキの問いに、軍事畑の二人が即答する。

「内から崩す。」

「外へ引き出すことだね。」

要塞自体を攻撃しない。要塞内部に人を送り、門を開け放たせ突撃する。あるいは内応者に門を開けさせ、あるいは将を暗殺させる。

 そして、もう一つが、要塞の外へと軍をおびき出し、軍を壊滅させる。


 現状、ティキたちが取れる策はどちらもない。

 前者は純粋に、今から内応者を作り出せないこと、兵を紛れ込ませることが厳しいこと。

 後者はもっと単純で、軍をおびき出しても壊滅させられないことである。


 だが、クティック、ニアス両国の代表は無理だと考えている策も、ティキは可能だと判断していた。

「ここに、馬が1万8000、あります。」

ティキが後方をチラリと見ながら言う。その意味を、アレイ兄弟は正しく汲み取って、無茶だというようにかぶりを振った。

「いくら馬が合ってもかく乱は出来ませんよ!」

「第一、馬はブランディカには通用せん。」

二人の言に、ティキはわかっているというように頷く。


 そして、話を変えるように、声の質をわずかに変えた。

「ところで、あそこにいるブランディカ軍が精鋭であることを、あなたたちは知っていますね?」

まるで講義のように、いや、実際講義のつもりなのだろう、ティキは言う。

「精鋭25万。言葉にすれば簡単ですが、実際は国内各地から集められた選りすぐりの戦士たち、ということでもあります。」

その先を、兄弟は理解した。そして、少女二人も、また。

「言い換えるなら、国内各地のえりすぐりは、ここに釘付け。内側は手薄です。」

それは、早計だ。言いかけたアルゴスの言葉を、ティキは遮る。

「ブランディカは大国ですが、それでも養える兵士の数には限界があります。25万人も動員するにあたって、徴収する兵士は、位置を選んでいるはずでもあるんです。」

おおよそ、ブランディカほどの国の兵士となれば、総数は百万ほどだろう。しかし、ブランディカの隣国にはアストラストがある。それ以外にも、国境があるなら隣国がある。

「守りに割く兵を、国は徴収できない。なら、25万の兵士は、主にこちら側の国境で徴兵されています。」

「それは、そうかもしれないが……。」

アルゴスは唸る。


 アルゴスはドラッド=ファーベ=アレイの子である。傭兵は、国の政治を知らないから、国がどういう時にどういう方法で兵士を徴収するのかを知らない。ゆえに、ティキの話が事実かウソか、父の思い出話で語られた記憶がない。

 アルゴスはクティックの将である。クティックは小国だ。大国の軍政など、知らない。


 そして、知らないがゆえに、アルゴスは、ティキの言葉に反論できない。

「国境沿いの軍は薄い。そして、重装歩兵は移動速度が遅い。」

馬が、ひかれてきた、その意味。だが、それだけでは、ティキの講義は終わらない。

「エル、フェル。魔法兵の育成は進みましたか?」

「え……なぜ。」

「リュット魔法学園は、世界きってのお嬢様学園です。アレイティア公爵家ほどの大きな家や大国家の貴族、小国でもミラのように公女ならまだしも、あなたたちは不自然すぎます。言っては悪いですが、あの学園は小国の伯爵令嬢ごときが通える学園ではありません。」

ピクリ、と肩が震えた。彼女らがティキと交流できていた理由が小国の伯爵でしかなかったことと同様、元来、リュット魔法学園はケムニス、ニアス両国の伯爵令嬢で通えるような学園ではない。


 よほど金を積まなければ、通えなかったはずだ。よほど金を積んででも、通った理由があったはずだ。

「基礎、火炎魔法なら、私たちの軍はみな使えるようになっています。」

「十分です。アルゴス、ブラス。馬に二人乗りが出来るほどの熟練の兵士は何人いますか?」

意味を、理解した。重装歩兵の弱点は、魔法に対する抵抗だ。弓を弾き、馬の突撃を防げても、魔法は、あるいはそれで発生する熱は、防げない。

「両国に、三千。」

「足りますね。」

す、とティキは息を吸い。

「では、ブランディカ攻略を始めましょう。」

言い切った。




 3隊一万二千人が、夜闇に紛れて山を下った。エルとフェル、ブラス、アルゴスが指揮を執り、ただひたすらに、国境を目指す。


 いくら、重装歩兵隊が強いとはいえ、彼らは遅い。

 例えば、遠くに騎馬が国境侵犯を目指して進んでいると知っても、追いつくことなど決してできない。

「してやられた。全軍を反転させるわけにはいかない。」

メラーゼはその知らせを受けて、3つの城が攻撃されていると聞いて、焦ったような表情をした。実際、大いに焦っていた。

「国境付近は兵がいない。小国七ヵ国連合?の存在がそもそも予想外であるからな。」

完全包囲は、出来ていなかった。グディネが山の向こうで陣を敷いている以上、大国同士の衝突になる愚を犯してまで山を包囲する真似は出来ない。しかし、だからこそこうして背後への攻撃を許してしまった。

「だが、この好機を逃すわけにもいかない。」

敵が外に出てきた。籠城戦の相手を倒す方法は、外に出てきた敵を完膚なきまでに叩きのめすことである。


 好機。二つの好機。

 一つは、後方を攻め立てる小国の軍を叩き潰す好機。

 もう一つはおそらく手薄になっている山に進軍する好機。

「部隊を四つに分ける。三万ずつ部隊を組み、防衛戦へと向かう。残り13万ほどの軍で、正面へ進軍する。」

メラーゼとて、ティキの狙いは読んでいる。小国家たちが、これから領土を広げる野心すら持っていることも、そろそろ察している。


 そのために、自分たちの軍は邪魔で、排除すべき対象。そのための策すら立てて攻めているだろう。

 それがわかっていても、メラーゼはその指揮をするしかない。


 なぜなら、“神の住み給う山”の占領こそ彼の役目。

 それを邪魔する不確定要素は、省いておかなければならない。

 ……ましてや、アストラストを壊滅させた、その元凶は彼らであり、今後のブランディカの戦略にとって、いつまでも飛び回る蠅は、視界を遮る邪魔者なのだから。


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