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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
青の花嫁
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セーゲルとの別れ

 シーヌたち一行は、魔女の森へとむけて走っていた。

 シーヌとティキの二人を魔女の森に送り届けること。それが、エスティナの最初に為すべきことだ。

 エスティナの外交にティキたちも付き合おうとはしたのだが、あっけなく断られた。曰く、これ以上頼り続けるわけにもいかない、と。


 セーゲルの問題に、冒険者組合員が関わり続けること。そして、関わり続けるためにティキたちが必要な建前。

 そのすべてを重々理解したうえで、エスティナは同行を拒絶したのだ。「セーゲルの底力はこんなものではない」と。

「そういえばさ、シーヌ?」

「ん?」

自分のまたがるペガサスを見下ろして、ティキは言った。

「この子の名前、何にしよう?」

傍から見たら、自分のおなかを見ながら名前をどうするか聞いたようにしか見えない。


「「「おお??」」」

周りを走るセーゲルの兵士たちがいっせいにどよめいた。どよめく気持ちはわからなくもないが、結婚式を挙げてまだ三日目である。子供が生まれると確信している方がおかしい。

「ペガサスに?名前はいらないんじゃないかな?」

だからシーヌは、勘違いしそうな兵たちに「まさか、そんなわけないでしょう?」とでもいうような視線を投げかけながら、ティキのセリフを修正した。


「うーん、でも私、この子たちとは一生付き合っていくことになる気がするんだけどね?」

随分とこのペガサスがお気に召したんだな、と人ごとのように感じた。

「じゃあ、ティキが決めなよ。」

「え、っと……ほら、赤ちゃんの名前を決めるときの練習にもなるじゃない?だから、一緒に決めない?」

とてもじゃないが、落ち着いて答えられるようなお願いではなかった。


 というか、シーヌに信じられないような大ダメージが入っていた。

「ティキ、そういうセリフは、せめて人がいないところで言おうね……。」

赤くなる顔を必死に隠しながら、シーヌは恨めしそうに呟く。

 しかし、ティキは意に介した風もなく、「ねえ、どうする?」と楽しそうに言ってきていた。

「まったく、ティキはこういうところが怖いんだよ……。」

そう言いながらもシーヌは、まんざらでもなさそうな様子だった。


「初々しい。そうは思いませんか、少佐殿?」

「ええ。当てられそうになりますね。……それが何か?」

「私たちは、セーゲルにもあるあんな光景を守りたいだけなのですよ。……力を貸してはくださらんか?」

エスティナは、彼らを見つめて、言っていた。そこには、純粋な善意というよりも、子を見守る老爺のような、そんな表情に満ちている。


 聖人会央都レイ。そこから派遣されてきている少佐と呼ばれた男は微かに頷いて、言った。

「聖女ユミルがいなくなったことで、我々下っ端の洗脳は解けています。冒険者組合に喧嘩など、売りたくもありませんな。」

それは、遠回しな協力宣言だった。それに満足すると、エスティナは前を向いて言う。


「『歯止めなき暴虐事件』……。あれ以降、世界は何かに向けて動いている、という気がする。」

シーヌは、中心に立つ人物なのだろうか。それとも、ただ巻き込まれているだけの人間なのだろうか。

「我々は、我々のできることをやらなければな、少佐殿。」

「は、“粛清の聖王”エスティナ様。」


かつてセーゲルを作った立役者にして、聖王の地位を捨てた男。

 彼の帰還は、聖人会という組織そのものに、ティキの想像以上の波紋を呼び起こすことになる。




 シーヌの愛馬は、リーヴァと名付けられた。ティキの乗馬は、スレイア。

 残りの二頭は、トライとニニス。トライは、話すことができるペガサスである。

 しかし、彼はケイやアグランをシーヌが殺したと聞いてから、完全な沈黙を保っていた。


 その日の夜。野営地で焚火をしていると、久しぶりに口を開く。

「主の夫君。」

「また、呼びにくい名前だな。」

しかも夫君とは、と唇がわずかに動いた。

 古い言葉だ。それ以上に、シーヌに似合わない言葉だ。


 おそらく、もう隣で眠りに落ちているティキも、笑ってそう言っただろう。

「向かうのは、魔女の森か?」

「ああ。俺たちを鍛えられる人間のところへ、と言っていた。」

「……そうか。魔法を、より高みへと磨き上げるか。」

それは、決して簡単なものではないのだ、ということはシーヌにもわかった。


「方法は、知っておるが。まあ、同じ人間の口から聞いた方がよいであろうな。」

「わからないことがあるんだ。」

もう長年生きているであろうペガサスに、ずっと疑問に思っていたことを問いかけようと思った。

「答えられる範囲でなら、答えよう。」

「助かるよ。」


ティキが眠りに落ちているから、悩みを話そうと思ったのだ。トライはそう感じて、続きを促す。

「“永久の魔女”は、昔話に出てくる存在だ。実話を基にした。」

今から尋ねようとする魔女も、“永久の魔女”。実話であるのは間違いないだろう。


「本当に存在するなら、もう千年に近い月日を生きているはずだ。それこそ、中位クラスの龍には匹敵するほど、長い年月。」

だからこそ、シーヌは頭を捻っているのだろう。

 トライは、シーヌの口から出る言葉を、悟っていた。この少年は、基本的に、常識に囚われた考え方をする。

「そんな年月、人間には生きられないはずなんだ。魔法に不老不死もないはずなんだよ。」


世界の強制力が働くから、永遠の若さとか、そういう魔法はよっぽど強い意志でもなければ作られないはずだ、とシーヌは呟く。

「ああ。そうだとも。答えにたどり着くまで、そう遠くない思考順序を辿っている。」

トライは認めた。こいつは、理解できること、知っていることを疑問に当てはめ、しっかりじっくり、考えることができるのだと。


「だが、それ以上は考えるな。泥沼にはまるだろう……だが、もしかすれば。」

トライはもしや、という考えが浮かんで、否定しきれずに続けた。

「あの魔女がその気になれば。いや、おそらくその気になるだろうが。」

あの魔女は隠棲している。人を嫌い、同時に人を愛している。

 ティキは嫌われ、シーヌは好かれる。トライには、そんな予感がした。


「語ってくれるだろうよ、そのお前の疑問について。……世界ありとあらゆる魔法において、あの魔女の右に出られる専門家はいない。」

その時、彼らはどういう反応を示すのだろうか。

 バグーリダのように惑うのか、あの碧い髪の女のように前へと進むのか。

 それは、この少年少女にしかわからないことだった。




 何度かの獣との会敵。毒吐くネズミや巨大な蜂。シーヌたちは、軍の力も借りながら、尽くを撃破していく。

「シーヌ。ティキ。この先の魔女に会うとき、気にしておかなければならないことがあります。」

エスティナは、真っ正面にある、少し影の変わった森を見る。

「彼女に、隠し事は止しなさい。腹を割って、心のなかに秘めたいことも、秘めずに話なさい。」


シーヌに対してより、ティキに対して、より強くエスティナは言った。

「彼女は千年を生きる魔女だ。怒らせたら生きて出られないと思え。」

「ほう?エスティナ、死にたいのかい?」

どこからともなく、声が聞こえた。

 かつて聞いた、ネスティア国王よりも威厳のある声。しかし、それは多少高い、女性の声でもあった。

「死にたくはない。だが、老い先短いこの老人の方が若者より先に死ぬべきではないか?」


「じゃ、私が先に死なないといけないねぇ。殺してくれるのかい?」

「いいや。決して勝てない敵となど、戦いたくはないな。」

エスティナが、全く躊躇せずに『決して勝てない敵』と言った。その台詞に違うことのない、圧倒的な力を感じる。


 これが、おとぎ話の魔女。千年を生きた最強の一角。

 ティキが調べた情報によると、ここ三百数十年は、冒険者組合ですら手を出すことを控えているという。

 それだけの人間を、返り討ちにし続ける魔女。シーヌたちの目の前にいる、三十代半ばの女が、そうだということだ。


 その女性は、軽くシーヌたちを睥睨すると、続けた。

「これはどういうことだい?いや、いい。聞かなくてもわかる。」

その瞬間、目が急に朱くなったかと思うと、すぐに収束して金色がかった色の目に戻る。

「エスティナ。バグーリダの手紙を寄越しな。」

「……なんとも、まあ。」

説明すらさせてくれない。そう呟くと、彼は馬の後ろに取り付けた箱を差し出す。

「ふん、ご丁寧にキャッツもかい。……そうか、死んだか。」

誰の説明もなく彼女はそう言うと。

「エスティナ。お前の役目は終わったよ。最後の寿命を全うするがいいさ。」

「……そうさせてもらおう。」

そういうと、すぐさまエスティナは、馬に飛び乗る。シーヌたちは、なんと言ってよいかわからず、立ち尽くした。

「シーヌ、ティキ。あんたらはこっち。……別れかい?早く済ませな。」

そういうと、魔女は森の方へと歩いていく。

 シーヌは何も言わず、そのあとをついていった。

 エスティナには声をかけない。かける必要もない。

 恩はある。与えたものも、与えられたものも。

 しかし、それはすでに、ティキ個人に全て丸投げした。シーヌのものは、一つとしてない。

「シーヌ!」

ティキが追いかける。いいのか、とその目に書いてあるように思った。

「……僕は、セーゲルの英雄になるつもりはないんだ。」

そこに込められた想いは、別れなど必要ないという行為で見せられた。

「わかったよ、シーヌ。」

シーヌとティキは、別れの挨拶もなく、セーゲルと離別した。




 やはり、彼らは去る。今まで歩んだ旅路、人。彼らにとっては、些末な事象の一つに過ぎない。

 シーヌにとっては復讐に利用されたあわれな被害者。ティキにとっては、シーヌとの仲を進めた立役者。

 それが、彼らにとってのセーゲルの立ち位置だろう。

「全セーゲル兵。……敬礼。」

シーヌとティキには聞こえないように、言った。

 彼らは森を進んでいき、やがて見えなくなる。もう、恩人の姿を見ることはなくなる。


 チラリ、と最後に、シーヌがこちらを見た、気がした。

「さて、行こう。」

偶然は何度も起こらない。セーゲルを守るためには、我々は自分で動かなければならなかった。

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