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一度人生を諦めた悪役令嬢ですが、目が覚めたので婚約解消して自由に…ってしつこいです、元婚約者殿下。  作者: 心音瑠璃
第二章 物語改編

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76.浄化樹の再生後

 浄化樹が再び蘇ってから二ヶ月。

 あれから私達の周りは大きく変化し、その後は目まぐるしかったけれど、ようやく平穏な日々が訪れたように感じる。

 私達の生活の中で一番大きく変わったことは、やはり魔法が使えなくなったことだ。

 魔法に頼りすぎていた部分が大きかったため、今は魔法ではなく自分達の力で、皆で支え合い、助け合いながら生きている。

 これから魔法がない世界でどう生きていくか。

 皆で考えていく今後の課題だ。


 それから、魔法がなくなったことでスワン王国を解体するという話が出ていたが、その話はなくなった。

 スワン家以上に国をまとめられるリーダーはいないという結論に国民は至ったのだ。

 私も私の父も大いに賛成だったから、王国は解体することなくそのまま維持されることとなった。


 魔法が使えなくなった現状に、私自身不便に思うことはない。

 確かに魔法は便利だったけれど、前世では魔法なんてなかったから、魔法がない世界でも人はきちんと生きていけることを知っていることもあり、それよりもこの先私のような犠牲が出ないという事実にホッとしている。

 だけど、一つだけ不満に思うことはある。それは。


「おはようございます、聖女様!」

「ルビー様、今日も本当に素敵です……!」


 魔法が使えなくなっても形を変えて継続されている学園生活で、再び登校許可を得た私は、居心地が少し悪く感じていた。

 それは、私が地下世界にいる間に皆が私を神格化しているという点にある。


「やあ、ルビー。おはよう。今日も相変わらずの人気ぶりだね」

「おはよう、カーティス。全く以て嬉しくないお言葉をどうも」

「た、大変ですね……」


 シンシア様の言葉に今も感じる視線に目を向けることなく肩をすくめる。


「そうね、本当に」


 聖女は私ではなくマリーだったはずなのに、気付けば私が聖女に祭り上げられてしまったのだ。

 どうも私が地下世界にいる間に彼らがほぼ全て説明してしまったようで(流行病の特効薬から“生贄”になった件)、浄化樹も私がいなければ〜なんてご丁寧にグレアムが説明してしまったおかげで、今ではすっかり私が聖女と呼ばれるようになってしまった。


「……本当に、勘弁してほしい」

「まあ、それは仕方ないことではあるな」

「!」


 不意に届いた声に顔を上げれば、いつの間にか隣にいた彼は今日も爽やかな王子様スマイルを浮かべて口にした。


「おはよう、ルビー」

「……おはよう、グレアム。この状況を楽しんでいるわね?」

「まあ、そうだな。君が“聖女”なおかげで俺も民も救われ、それから誰も君を俺の婚約者だということに不満を漏らす者はいなくなったのだから」


 そう、グレアムの言う通り、私はまたグレアムの婚約者に逆戻りしてしまったのだ。

 なんでも、“私しかいない”と猛烈に推してくださった方……言わずもがな、アデラ様が私の良さというものを吹聴して回っているらしい。


「……謎に美談にされ、劇にされ、おかげでどこへ行っても面が割れているという始末」

「大丈夫だ。これからは俺が守る」

「!?」


 さらりと放たれた言葉に油断してしまっていた私が固まると、グレアムはおかしそうに笑った。


「はは、顔が赤いぞ」

「あ、熱いからよ!」


 顔を見られたくなくて少し早足で歩くと、慌てて追いかけてきたグレアムが私に尋ねる。


「そういえば、今年の二学期交流会ももうすぐだな」

「そう言われてみればそうね」


 去年は確か、生徒会役員だったから強制参加だったけれど。


「今年は出るのをやめようかしら」

「……え!?」

「だって生徒会役員ではもうないもの」


 生徒会役員の任期を終了した私達に参加義務はないでしょう? と笑えば、分かりやすく慌てるグレアムの姿を見て私は吹き出す。


「ふふっ、冗談よ」

「……驚かさないでくれ」

「それで? その二学期交流会に私が出なければいけないのはなぜかしら?」


 敢えてそう口にした私に、彼は苦笑いする。


「わざと言っているだろう?」

「そうね、あなたを助けてあげるつもりで」


 少しだけ悪戯っぽく笑ってみせると、彼は意図を汲み、私と向き直って言葉を紡いだ。


「去年は、情けないことに面と向かって君を誘うことが出来なかったが。

 今年は、俺のただ一人のパートナーとして、二学期交流会に共に参加してもらえないだろうか?」


 その言葉と差し出された手に、私は。


「……相変わらずしつこいわね」

「!?」


 驚愕に目を見開いた彼を見て、思わず笑ってしまってからその手を取る。


「うそ。私をずっと好きでいてくれて、諦めないでくれてありがとう。私でよければ喜んで」

「…………」

「グレアム?」


 首を傾げると、彼は大きく息を吐いて言った。


「し、心臓が止まるかと思った……。悪い冗談はよしてくれ」

「ご、ごめんね? でも私、本当にあなたの手を離すことが最善であり、あなたのためだと思っていたのよ?」

「……え!? なぜ!?」

「婚約した時のこと。あなた、終始仏頂面だったから、私との婚約が不本意なんだと思っていたわ。

 今でもその写真、私の部屋に飾ってあるのよ?」


 ずっと昔から疑問に思っていた。

 あの写真があったから、私はグレアムが私のことを好きでないと……、婚約は国王陛下の命令なのだと思っていたのだ。


「確かに、婚約した後は私のことを好きでいてくれているのかな、とか色々考えたこともあったけれど、それでもなぜあの時仏頂面だったのかがずっと気になっていて」


 私がそう言うと、グレアムの顔がみるみるうちに真っ青になっていく。


「だ、大丈夫!?」

「ご、ごめん。ルビーが、あの時のことを気にしていたなんて……、そうだよな、確かにあれはそう思うか……」

「グ、グレアム?」


 急な挙動不審になり始める彼が心配になると、グレアムはギュッと私の手を握って言った。


「本当は、俺から婚約を申し出ようと思ったんだ。

 でも、婚約というといずれ結婚するということになるだろう?

 君に“好き”だと言ったところで、あの時の君はまだ恋心とかそういうのに気が付いていないと思ったから……、困るだろうと思って、時期を見て告白しようとしていたら、国王陛下が、俺の気持ちに気が付いて良かれと思って先に婚約を取り付けてしまったようで、それでムカついて、国王陛下と喧嘩して……、あぁ、くそ!」

「!?」


 目の前で急にしゃがみ込んでしまったグレアムは、小さな声で呟く。


「俺のせいだったのか……本当に情けなくて格好悪い……」


 私はそんな彼を見て小さく笑ってしまってから、私も向き合うようにしゃがみ込んで言った。


「そうね。少し、あなたの言動は分かりづらいかも」

「うっ」

「でも、これからはお互いに隠し事はなし、なんでしょう?

 それに、安心したわ。ずっと、私とあなたは“お揃い”だったのね」

「! ……ルビー」


 手を握り、至近距離で見つめ合う。

 そうして、その距離がさらに近付いて……。


「本当、所構わずイチャつくのはやめてくれない?」

「「!?」」


 降ってきた声に飛び退けば、そこにはエディ様とマリーの姿があって。

 そんなエディ様に向かい、グレアムが近付いて行って何かを囁けば、エディ様は顔を真っ赤にしてやがて喧嘩が勃発する。

 それを見て肩をすくめて口にした。


「全く、相変わらず仲が良いんだか悪いんだか」

「私とお姉ちゃんはあまり喧嘩しないものね」

「そうね。……それに、この世界でも私の妹になってくれて嬉しいわあ」


 マリーは私の勧めでエイミス辺境伯家の養子となり、マリー・エイミスと名乗るようになった。

 マリーもまた、元聖女ということと浄化樹の再生に貢献した一人として、時の人となっていることもあり、国王陛下からも勧められたのだ。


「私も、お姉ちゃんの妹になれて嬉しい!」

「わ!?」


 ギュッと手を握られ、笑みを浮かべる彼女に私もつられて笑う。

 そしてマリーもまた、私に顔を近付けてそっと耳打ちした。


「恋バナも推し活も、沢山お話ししようね!」

「! ……ふふっ、それは楽しみね」


 マリーが幸せそうに笑っているのを見て、私も笑みを浮かべてから窓の外を見やる。


(ここから浄化樹は見えないけれど)


「ヴィンス先生も元気にしていらっしゃるかしら」


 そう思わず呟くと。


「おかげさまで、この通りだよ」

「「「わ!?」」」


 驚き振り返れば、そこには前と変わらないヴィンス先生の姿があって。

 ここにはいないはずの存在に私は思わず声を上げる。


「ど、どうして!? 髪は!? 守り人は!?」

「しーっ」


 ヴィンス先生は人差し指に手を当てると、にっこりと笑って言った。


「先生と守り人、兼任することにしたよ。彼女から先生はやめるなって言われてね。

 容姿は魔法で、人間になれるように特訓したんだ」

「「「は、はあ……」」」

「あれ? 私が戻ってきても嬉しくない?」


 ヴィンス先生の言葉に私達は首を横に振ると、顔を見合わせ……。


「「「おかえりなさい!」」」


 と皆でヴィンス先生の帰りを祝ったのだった。





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