50.本編-一学期交流会-②
名を呼ばれ、会場へと足を踏み入れた私達を待ち受けていたのは、やはり様々な種類の視線だった。
中でも驚きの視線が一番多く、それが少しだけ小気味良かった。
(予想もしていなかったでしょうね)
マリー様をエスコートしているのが女である私でなく攻略対象者達であれば、ゲームの通り彼女はそれぞれのファンから責め立てられる。
要するに、“彼は皆のもの”というよく分からない発言をされ、さも当然のようにいじめられるのだ。
(でも生憎、私は女という身分だからその心配はない)
彼女を守るためにエスコートをする。
それが、今夜の私の役目なのだから。
マリー様と事前に打ち合わせした通り、彼女の手を取り演壇へと真っ直ぐに向かう。
壇上には、国王陛下、グレアム様、エディ様の姿があって。
私とマリー様は顔を見合わせ、演壇の前で私は騎士の礼を、マリー様は最上位の礼をし、私が言葉を発した。
「エイミス辺境伯家が長女、ルビー。聖女、マリーと共にただいま参上いたしました」
「面を上げよ」
威厳に満ちた声にマリー様と二人、同時に顔を上げると、国王陛下は笑みを浮かべた。
「今宵のエスコートは、聖女殿を共にしているのだな」
「はい。今宵は騎士として、彼女を守るためにこのような格好で参りました」
「ははは、さすがはルビー嬢。誰も予測出来ない大胆な行動は、そなたの父上によく似ておる。そなたの活躍もまた、ヴィンスとグレアム、エディからもよく聞いておるぞ」
「恐れ入ります」
一瞬王子二人の名前が出て、正直「は?」と思ったけれど、そんなことはおくびにも出さず礼をすれば、国王陛下のお言葉は続く。
「……そなたには、感謝してもしきれまい。何か私に出来ることがあったら、遠慮なく言ってほしい」
(……国王陛下は、いつもお優しい)
それだけでなく、人々の上に立つものとして、よく人を見ている。
その人柄に皆、誰もが惹かれるのだ。
(それは、グレアム様にもきちんと引き継がれている)
小さく笑みを浮かべ、国王陛下に言葉を返す。
「そのお言葉をいただけることこそが、騎士として至上の誉れです。
今後も、聖女マリーと共に、“百年に一度の災厄”からも、その他の災いからも必ずやこの国を守り抜いてみせます」
そう言って不敬にならない程度に挑戦的に笑ってみせれば、国王陛下は小さく口にする。
「……無理はしないように」
「ありがとうございます」
私は一礼すると、今度はマリー様の番だと彼女の背中を押しながら小声で告げる。
「きちんと見守っているから」
「! はい」
マリー様は一瞬笑みを浮かべると、淑女の礼をして国王陛下とお言葉を交わす。
その姿はまさに、聖女という立場に相応しい出立をしていて。
(……もう、心配はなさそうね)
マリー様が壇上に上がったのを見届けて、私は一歩後ろに下がり壇上を見つめる。
その光景は、ゲーム中でもスチルで見かけたことがあるけれど。
(……あれ?)
ここで違和感を覚えた。
というのも、本来エスコートするのは、王太子殿下のはず。
ゲーム中では確かに、グレアム様には私という婚約者がいたから、グレアム様ではなくエディ様がその役目を担っていた。
だけど、私がグレアム様の婚約者を降りた今、聖女となるマリー様は国にとって大事な存在であるから、王太子である彼がエスコートしなければならないはず、なのに。
(エ、エディ様なの!?)
なんと、ゲームと同じエディ様がマリー様の手を取ったのだ。
これには間いた口が塞がらず、信じられない思いでグレアム様を見やれば、なんと彼と目が合って一瞬で逸らされてしまう。
その態度を見て悟った。
(……あんのバカ王太子!!)
今すぐに胸ぐらを掴んでやりたい衝動に囚われたけれど、それは騎士としても淑女としてもダメだと冷静になるため、目の保養マリー様に目を向ける。
(……それにしても)
エディ様とマリー様ってお似合いね。
カップリング的には、確かエディ様の方がグレアム様を抑えて人気だったはず。
二人の可愛らしさが萌える〜なんて、妹も騒いでいたくらいだし。
……それに。
(マリー様、心なしか顔が赤くない?)
男性に耐性がないというのもあるかもしれないけれど、たまにチラリとエディ様を見やっては、彼と目が合う瞬間にサッと視線を逸らしている。
(もしかしなくても、マリー様って……)
と考えて、無粋よねと苦笑いしている間に、国王陛下がマリー様の紹介を終えると、ワッと歓声が上がる。
私もマリー様に拍手を送りながら思った。
(……大丈夫。あなたなら、その立場に相応しい方になれるわ)
この後、マリー様は予定では国王陛下と共に貴族の方々にご挨拶する。
その時間は私がエスコートしなくても彼女は守られているため、フリータイムとなる。
(ここにいては話しかけられるだけだし、ちょっと涼みにでも行こうかしら)
と考え、皆が聖女に釘付けになっている間に誰もいないバルコニーへと足を向けたのだった。
「ふぅ……」
バルコニーに出て一人息を吐くと。
「ルビー」
「!?」
ここにいるはずのない、聞き覚えしかない声に名を呼ばれたため振り返ると、案の定そこには。
「……グレアム様!」
「こ、怖い顔になっているぞ」
「心当たりしかないでしょう?」
キッと彼を睨めば、グレアム様は苦笑し、私に二つあるうちの一つのグラスを渡してくる。
「これでも飲んで落ち着いてくれ」
「落ち着くわけがないのだけど? このグラスの中身を今すぐぶちまけてしまいたいくらい、私は今あなたに対して頭に来ているから」
「ご、ごめん……」
息を吐き、グラスを煽れば、中身はブドウジュースのようで。
(……こういうところは気が利くのよね)
まあ、私が怒っていることを分かっていての行動でしょうけど、とジト目で彼を見れば、グレアム様は唐突に口を開く。
「来月、俺の誕生日なんだ」
「……知っているけど」
まさかプレゼントの催促? とより目が据わったことに気が付いたのだろう、彼は慌てたように言い募る。
「誕生日に何か欲しいとは言わない。代わりに、お願いがあるんだ」
「……お願い?」
グレアム様は逡巡すると、やがて意を決したように言葉を発した。
「城で行われる誕生日パーティーで、君をエスコートさせてほしい」




