48.本編-編入生-③
始業式の翌日。
「うぅ、緊張してきました……」
「私も……」
マリー様の言葉にシンシア様が同調する。
昨日会ったばかりだとは思えないほど仲良くなった二人を見てにこりと笑うと、口を開いた。
「大丈夫よ! 二人とも凄く練習頑張っていたじゃない」
そう励ましてもなおも不安そうな表情をしているため、それぞれに言葉をかける。
「シンシア様は春休み中、カーティス様をブレイディ地方……実家の庭園に招待して魔法を特訓したとお聞きしたわ」
「!? カ、カーティス様からお聞きなさったのですか!?」
「えぇ。カーティス様がうらやましいわ、私も是非ブレイディ地方に行ってみたい」
私がそう言うと、彼女は少し顔を赤らめて言う。
「今はまだお見せできないのですが、魔法が上手く扱えるようになったら咲かせたい花があって……、その花が咲いたら、是非ご招待させてください! マリー様もご迷惑でなければ一緒に」
「め、迷惑なんてそんな! 是非!」
「ふふ、私も楽しみにしているわね」
マリー様と共に私も頷くと、シンシア様が破顔する。
(……良かった。シンシア様とカーティス、良い感じのようね)
彼女が春休みという学園がお休みの日にもカーティス様とお会いしたということはきっと、と笑みを浮かべてから、今度はマリー様に向かって声をかける。
「あなたも大丈夫よ。特待生試験に合格したのは、紛れもないあなたの実力だわ。
その実力はヴィンス先生からもお墨付きをいただいていたでしょう? 自信を持って頑張るのよ」
そう言うと、彼女は胸の前で拳を握り、「はい!」と頷く。
私も笑みを浮かべ頷きを返すと、授業担当であるヴィンス先生の声が届く。
「では、先程引いてもらったくじの順番に魔法を披露してもらうよ。まずは1番から」
最高学年、最初の授業はヴィンス先生の魔法実技から。
しかもただの授業ではなく、いよいよ間近に迫っている対魔物討伐専用の攻撃魔法を皆の前で順番に披露するという授業だ。
攻撃魔法を発動するのはたったの一度きり。失敗したらそこで終了という、まさに実践形式の試験なのだけど。
(ヴィンス先生らしい、粋な計らいよね)
チラリと横目で見やった先には、やはり緊張した面持ちのマリー様の姿があって。
ヴィンス先生が最初に試験形式の授業を選んだ理由は、もちろん士気を高めるためや実力を見るためというのもあるけれど、おそらく彼女のためだろう。
(マリー様は平民出身の特待生であり、光属性の持ち主)
彼女は気が付いていないようだけど、彼女に向ける視線は様々なのだ。
(好奇や尊敬、嫉妬……、まるで以前の私と同じね)
それは、まだ彼女の実力を知らないから。
確かに、ゲーム中では彼女がなかなか光属性魔法を扱えず苦労していた場面があり、周りからは陰口を叩かれて葛藤する描写まであった。
初っ端から挫折を味わう中で攻略対象者達に教えてもらったり、励ましの言葉をかけてもらったりという描写はあったけれど。
(転生した私が今、ヒロインにそんな苦労をさせるとでも?)
何のために私が屋敷へ招いたのか。
全てヒロインを守るためよ!
「では、15番!」
ヴィンス先生の声に、隣に座っていたマリー様が立ち上がる。
チラリとこちらを見たマリー様にはもう、迷いはなかった。
(さすがね)
頑張れ、と心の中で応援する。
生徒達も彼女の登場により、その場にただならぬ緊張感が流れる。
ヒロインである彼女は、ゲーム中この緊張感に毎度苛まれていたけれど……。
皆の視線を集める中、ヴィンス先生に向かって礼をしてから、私達の方に向き直ると目を瞑り、深呼吸をする。
その様子を固唾を飲んで見守っていると、彼女がふっと目を開け、両手を天に掲げ……。
「光・浄化」
彼女が呪文を唱えた途端。
「「「っ、わぁ……」」」
皆から感嘆の声が漏れる。
無理もない、彼女が両手を掲げたことで彼女の周りをキラキラと、まるで雪のように光の粒が舞い降りてきたのだから。
その光景を見たヴィンス先生が満足そうに頷く。
「うん、合格。この魔法は広範囲に広げることが可能で、一気に魔物を弱らせることが出来る、威力よりも効率重視の広範囲魔法だね。なぜこの魔法を選んだのかな?」
「はい。威力を重視してしまうと光が眩しくなるため、共に戦っている魔法使いの目に負担がかかり、一時戦闘不能となってしまう恐れがあるからです」
(! なるほど)
以前、彼女が覚醒した時に無意識に使った魔法は威力特化型だった。そのため、私も光が眩しく感じられ、咄嗟に目を瞑ってしまった。
あの時は、彼女の魔法の後に放ったグレアム様の魔法で助けられたけれど。
(ここには他にもまだ試験を終えていない生徒達がいる。それを考えて、広範囲魔法を発動したなんて……)
やはりあなたはヒロインの名に相応しい末恐ろしい子だわ、と割れんばかりの拍手を聞いて笑みを浮かべる。
(……私も、負けてはいられないわね)
「次、16番前へ!」
その言葉に、私が立ち上がると、皆が一斉に私を見る。
数名の女子生徒から応援する声が耳に届いて小さく笑みを返してから、皆の前に進み出た私に、ヴィンス先生が頷き口にする。
「生徒会副会長の君は、どんな魔法を見せてくれるのかな?」
そんな先生の言葉に、私は胸に手を当てお辞儀をする。
「先生のご期待に沿えるよう、頑張ります」
「ふふ、期待しているよ」
「お任せください」
マリー様と同様、一度目を閉じ深呼吸をする。
魔法を使う前の精神統一は基本。
気を散らしては魔法を上手くコントロール出来ないからだ。
そうして身体中に火の魔力を纏わせる。
燃えるような身体の熱さを髪の先まで行き渡らせるように。
極限まで引き出した私が、一気に目を開け手を伸ばした刹那。
「「「!?」」」
皆が私の背後に釘付けになる。
その顔を見てホッと安堵の息を吐く。
(……成功したようね)
振り返れば、巨大な火の壁が私から離れた場所で広がっていた。
そんな私の耳に、ヴィンス先生の拍手する音が聞こえてくる。
「お見事、もう良いよ」
ヴィンス先生の言葉に一瞬で魔法を消す。
そうして胸に手を当て礼をすれば、生徒達からのどよめきが起こる中でヴィンス先生は私に向かって尋ねた。
「広範囲魔法であり遠方魔法、さらに威力も申し分ない。しかも無詠唱ときたら一発で魔法を対峙できる。文句なしに完璧だよ」
「恐れ入ります」
「しかし、どうしてこの魔法を?」
「……実際に魔物と対峙した時、悔しかったからです」
その言葉に、生徒達からより一層どよめきが起こるけれど、それには目もくれず皆に聞こえるように言葉を続ける。
「たった一体上級魔物を斃すだけでかなりの魔力が消耗され、遠方魔法を使った段階で魔力切れが起きました。
……私が持つ魔力量だけでは到底斃せないことを思い知ったので、これからも努力を惜しまない所存です」
そう真っ直ぐとヴィンス先生を見据えれば、ヴィンス先生は頷いて言った。
「君の覚悟は十分に魔法からも伝わった。これからも頑張るように」
「はい」
もう一度礼をし踵を返せば、生徒達の戸惑ったような、畏怖の表情を目にする。
でも。
(私なんかよりずっと、魔物は怖い)
街をいとも簡単に破壊した。
あの場にマリー様がいなければ、それこそ死亡者や怪我人、私の命さえなかったはず。
だから。
「「「…………」」」
試験を終えた私がマリー様とシンシア様の元へ戻ると、暫しの沈黙が訪れて……。
(……やっぱり引かれてしまったかしら)
と思ったその時。
「すっっっごかったです!!」
「え?」
シンシア様の言葉に、マリー様がコクコクと頷き続ける。
「さすがルビー様です! 正直どこまで努力すれば良いのかと漠然と考えたことがありましたが、そんなことを言っている場合ではありませんね!」
「マリー様の言う通りです! 私も魔物討伐には向いていない魔法だとか言っていないで、もっと努力しないとと思いました!」
「ですよね!」
「はい! 一緒に頑張りましょう!」
マリー様とシンシア様の言葉に、私は思わず笑みを溢す。
それを驚いたように見る二人に向かって、溢れ出た笑みをそのままに言った。
「ありがとう。私にも、何か力になれることがあったらなんでも言ってね」
「「はい!!」」
破顔した二人を見て、私は改めて思った。
(かけがえのない人達に巡り会えた私は、幸せ者だわ)
と。




