34.学園革命⑦
「ご心配をおかけしました」
そう言って頭を下げれば、生徒会の面々……エディ様、カーティス、シールド様が声を上げた。
「もう身体は大丈夫? 無理しないでね」
「女子生徒の訓練担当はバッチリやっておいたよ!」
「嘘ですからね、開始一秒で口説き始めたので私が担当致しました。今後も彼には任せられないので、体調管理には十分気を付けてください」
三人の言葉に思わず苦笑交じりに言葉を返す。
「ご迷惑をおかけしました。一週間の療養とヴィンス先生のおかげでこの通り、バッチリ元気になったのでもう大丈夫!
今日からしっかり自分の仕事をこなすわ!」
「駄目だ」
「え!?」
予想外の言葉に驚き見れば、グレアム様が少し不機嫌そうに口にした。
「まだ君は病み上がりだから仕事は控えめにした方が良い」
その言葉に、私もため息交じりに言う。
「……本当に大丈夫なのだけど。まあ良いわ。
再試験も本調子が出てからと言われてもう少し先になりそうだし、お言葉に甘えさせていただきます」
そう口にした瞬間、その場にいた皆がシンと静まり返る。
ん? と彼らを見回せば、私を見て目を丸くしていた。
「……何か変なことを言ったかしら?」
怪訝な顔をして尋ねれば、カーティスが口を手に当て言う。
「いや……、あれだけ意固地になって自分で何でもやっていた君が、人に任せるなんて」
「……そうね」
確かに、今思えば意固地になっていた気もする。
今まで気がつかなかったけれど。
(それが転生した私の使命だと思っていたから)
でも今は。
「自分の力だけでは、今回のように限界があると知ったから」
だから。
「まだまだ力不足だから皆の力を借りることになるけれど、生徒会副会長として頑張るわね!」
そう拳を握って力説すると、再び皆が黙ってしまう。
「こ、今度は何!?」
その言葉に、皆が一様に顔を見合わせて口を開いた。
「い、いや、ルビーがそんなことを言うとは思わなくて」
「今まででも大分副会長権限でこき使われていたような気がしますが……」
「でも、僕としてはもっと頼ってほしいと思っていたから、認めてもらえたようで嬉しい」
カーティスとシールド様の言葉はともかく、エディ様がはにかみながら口にした言葉に首を傾げて言った。
「そんなことはないけれどね?」
「えっ?」
「十分頼っていると思うけど? 今後も頼りにしているわ」
「!」
生徒会の仕事に関しては、確かに発案は私が多いけれど、なんだかんだ言いながらそれに合わせて動いてくれているものね、という意味でそう口にしたのに対し、なぜだかエディ様は固まってしまって。
そんな彼を不思議に思いながらも、それと、と三人に向けて言った。
「あなた方からのお見舞いの品も受け取ったわ」
エディ様からはお花と気遣いの手紙を。
カーティスからは花束とジョークを交えた彼なりの励ましの手紙を。
シールド様からは叱咤激励の凄い枚数の分厚い丁寧な字で書かれた手紙を。
(個性が出ていて思わず笑ってしまったけれど)
読んでいた時のことを思い出してクスッと笑ってしまいながら口にする。
「ありがとう。少し落ち込んでいたこともあったけれど、おかげさまで元気が出たわ」
「「「!」」」
「そうそう、私からもお返しをしようと思ったのだけど……、あなた方に至っては何が良いか分からなかったから、考えておいて。
あ、もちろん私が出来る範囲でなければ却下だから!」
その言葉に、今度は三人揃って笑い声を上げる。
笑われるほど変なことは言ってないはずなのだけど、とムッとした私の後ろから声が発せられる。
「いつまで喋っているつもりだ。早く担当の場所に行け」
いつになく不機嫌すぎるグレアム様の言葉に、カーティスが冷やかす。
「わー嫉妬は見苦しいぞ〜」
「誰が嫉妬だ! 早く行け!」
「はいはい」
最後に呆れたように返事をしたのは意外にもエディ様で。
そうして三人が、それぞれ生徒の訓練や見回りに向かったところで、部屋の中は私とグレアム様だけになった。
グレアム様の様子を窺えば、やはり機嫌が悪いのか眉間に皺を寄せて資料に目を通していて。
(……やっぱりまだ怒っているのかしら?)
そう思いながらも、とりあえず療養していた間の一週間で考えていた言葉を口にする。
「どうして、水属性ではなく風属性の魔法を使ったの?」
「!」
刹那、効果音がつきそうなほどの速さでグレアム様は顔を上げる。
それによって、今日ようやく初めて目が合ったと頭の片隅で考えながら口にした。
「一週間、ずっと考えていたのだけど……、なぜ水属性に特化しているあなたが風属性の魔法をわざわざ使って私を助けてくれたのかって」
「だ、誰からそれを、ってヴィンスか……」
「そのせいで丸一日療養していたというのも本当?」
「そんなことまで知っているのか……」
私の質問には答えず、頭を抱える彼の姿に若干イラッとしながら催促する。
「良いから答えて」
「…………」
グレアム様は私を見つめてから、視線を逸らしてはーっとため息を吐き、前髪をかきあげながら渋々答える。
「……君が、濡れないようにするためだ」
「……はい?」
目が点になった私に、グレアム様はやけになったように言った。
「だから! 君が濡れないようにするためだ!!」
「……え、それだけの理由で?」
あまりにも拍子抜けしてしまって尋ね返してしまうと、グレアム様は声を荒げた。
「それだけじゃないだろう!? 生徒会の会議からボーッとしている時点でおかしいと思っていた。
熱があるのではと思いながらも、君は意固地になるだろうから会議が終わってから尋ねようと思っていたのに、会議を放棄して飛び出して行ってしまうから!
そうして追いかけたら階段から落ちそうになるなんて……、あの時助けられなかったらと思うと、今でもゾッとする……」
グレアム様から飛び出る言葉の数々と彼の青白い表情を見て、思わず息を呑む。
(そこまで考えて、わざわざ……、明らかに得意ではないだろう風属性の魔法を使って、私を助けたと言うの?)
……なんて、あなたは。
「……バカなひと」
「は?」
私は彼とは視線を合わせずに言った。
「あなたは大馬鹿よ! 私のために得意でない魔法を使って助けようとして、反動で一日倒れるとか……、本当にバカ!」
「なっ……!?」
「……でも、それによって救われたのも事実、なのよね」
なんて、非効率的。
なんて、向こう見ずなんだろう。
(あなたのその性格、王になるまでに変えた方が良いと思う)
……いや、そういう彼だからこそ、皆彼を慕うのだろうか。
そう思うと、いっそ笑えてしまって。
クスクスと笑う私を唖然として見ている彼に、また笑みが溢れてしまいながら口にした。
「本当、あなたはいつもお人好しなんだから。
せいぜい身を滅ぼさないように注意しておくことね。でないと」
「!」
椅子に座っている彼に顔を寄せ、笑みを湛えて言った。
「私のような女に、良いように使われてしまうわよ?」
「……っ」
(まあ、そのお相手がヒロインだったら大丈夫だろうけど。もし仮に、ヒロインが彼を選ばなかったとしたら、別の候補を探さなければならないものね)
と、一応忠告してあげると。
「……俺は、君以外に利用されるつもりも、使われるつもりもないんだが」
「は……、!?」
不意にグレアム様に腕を取られる。
そして彼は……、あろうことか、私の手の甲に口付けを落としたのだ。
「!?!?」
その対応に、思わず息を呑み固まってしまった私を見て、今度は彼が笑い出す。
「ははは、そうしていると、昔の君に戻ったようだな。初めてエスコートした時もそんな表情をしていた。
……婚約者になって変わったと思っていたが、本質は変わっていないんだな。少し安心した」
「……な!?」
そんな表情って何!? と手を引こうとした私を、彼は離してはくれなかった。
そしてグレアム様は、聞き捨てならないことを言いのける。
「そういう表情を見せてくれるということは、少しは期待しても良いんだろうか」
その言葉が指す意図に気付いた私は、ふるふると肩を震わせるとキッと睨んで言った。
「勝手に期待しないで! 絶対にありえないから!!」
そう強めに口にしたというのに、彼は笑い声を上げながら、暫くその手を離してはくれなかったのだった。




